前編では、企業がDXを推進するうえで持つべき「データ戦略」について解説しました。今回は、そうしたデータ戦略に基づき、必要とされるデータプラットフォームについて説明します。

実用的な意思決定にはスピーディーなデータ分析が必要

現在、企業にはさまざまなソースから大量のデータが寄せられています。これらのデータの意味を理解し、洞察までの時間を短縮することができれば、より鋭い意思決定が可能になります。実用的な洞察をリアルタイムで提供するには、データを瞬時に処理することが必要になります。データのスピードは競争力を高めるための新たなフロンティアとなります。

分析を前提としたデータの整理は一括して行うことが必須です。通常、収集されたメッセージはデータ「レイク」に保存され、分析システムは数分後、あるいは数時間後にデータベースをマイニングしてインサイトを生成することになります。これでは、重要なインサイトを得るまでに時間がかかり、自律走行車や健康情報をモニタリングするアプリなどでは非効率性が生じます。

さらに、収集されたデータがサイロに保管されていることに加え、非構造化データのガバナンスにより、部門間でのアクセスと利用が制限され、透明性と効率性が損なわれています。これは、組織のデータの明確な全体像から得られる正確な洞察に基づく、ビジネス上の意思決定を妨げるものです。

ここで役に立つのが、データストリーミング(データインモーション)プラットフォームです。具体的には、予知保全などのリアルタイムな意思決定のために、ビジネスの内部のデータ(ERPやアセットマネジメント)と外部のデータ(エッジデバイス)を収集して相関させることができるものです。データ分析基盤により、組織はデータをリアルタイムで取得し、これらのインサイトが企業にとってどのような意味を持つのかを理解し、それにどのように対応するかを決定し、ビジネス情報を「起こったこと」から「今起こっていること」へと変換することができます。

ここ数年、リアルタイムデータのメッセージングやストリーミング機能のコストが大幅に削減され、主流となる道が開けてきました。また、これらの技術は、多くの新しいビジネスアプリケーションを可能にしています。例えば、スペインのマーケティング会社であるShoppermotionは、ビッグデータ処理と機械学習分析を応用して、小売業者が店頭での消費者行動を理解するのに役立つIoTソリューションを開発しました。小売業者は店舗の通路のトラフィックの減少を測定し、レジでの買い物客のピークを予測することができます。

誤った「クラウド・ファースト」がデータ活用を妨げている

アジャイルなデータ分析を実現するうえで、もう一つ忘れてはならないことがあります。それは、データ収集の段階でデータを1カ所に集め、クラウドとオンプレミスからなるハイブリッドなデータクラウド環境にアナリティクスを実行できる柔軟性を持ったプラットフォームを開発することです。

クラウドは多額の先行投資をすることなく、必要な技術力やコンピューティングパワーを容易に利用できるため、企業は自由に規模を拡大することができます。多くの企業にとって、クラウドに移行する最大の理由は、コスト削減、効率性の向上、そしてイノベーションの促進です。技術およびビジネスの双方においてかつてないほどのスピードで変化が起きている中、企業は、人工知能(AI)やIoTなどの新たなテクノロジーを活用するために、クラウド・ファーストのアプローチが不可欠だと考えています。

しかし、多くの企業が「クラウド・ファースト」という言葉を本来の意味から脱して捉えていることが問題となっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の全体像を考慮せずにクラウドに飛びつき、「本末転倒」になってしまうのです。つまり、クラウドを利用しているにもかかわらず、すべてのデータが複数のクラウドやベンダーに分散してしまっているのです。また、クラウドとオンプレミスの間でデータを分割しなければならない状況もあり、データへのアクセスがさらに困難になっています。

  • 企業ではデータの散在をはじめ、データ活用において課題を抱えている

IIOT導入におけるデータ関連の問題とは?

一方、新型コロナウイルスにより影響を受けた製造業は、IIOT(製造業における、モノのインターネット)を取り入れて復興を加速させてようとしています。

IIoTは、効率性、生産性、パフォーマンスを向上させることで、復興を加速させる可能性を秘めています。工場内の機械やシステムにセンサーを組み込むことで、メーカーはエンド・ツー・エンドの生産プロセスをリアルタイムで包括的に把握することができます。また、IIoTのセンサーデータを利用してボトルネックに素早く対処し、無駄を省いて全体的な業務効率を向上させることができます。

しかし多くの製造工場では、いまだにレガシーシステムやソフトウェアを使用しているため、IIoTを導入しようとすると、レガシーインフラとIIoTインフラの融合、データストレージの問題、常時接続の必要性などの共通の問題が発生します。特に、接続されることを前提に作られていないシステムやアプリケーションのエコシステムを扱う場合、特定のアプリケーションや技術システムでサポートすべき機能を判断する場合には困難が伴います。

またガバナンスの観点から、これらのシステムをエッジ、製造現場、あるいはクラウド上のどこに展開すべきかという問題もあります。

また、IIoTを導入した後に見落とされがちなのが、接続されたデバイスから生成される大量のデータです。データはIIoTの心臓部であり、その恩恵を最大限に享受するためには、可能な限り収集して活用する必要があります。以下は、多くの製造業が考慮に入れていないデータ関連の問題です。

膨大な量と種類のIIoTデータ

IIoTシステムからのデータストリーミングは、ペタバイト級のデータを生成します。それらのデータは多様なフォーマット、規格、プロトコルで送られてくるため、製造業にとってはデータを取り込むことが困難になります。

多様な分析・予測モデリング機能

インサイトを提供するには、予測モデリング機能が不可欠です。しかし、予測モデリング機能には幅広い分析オプション(機械学習を含む)が必要であり、既存のビッグデータプラットフォームでは提供できない場合があります。

ストリーミングデータをリアルタイムに分析する難しさ

IoTから価値を生み出すには、静止しているデータと動いているデータの両方を効果的に管理する必要があります。実際、IIoTの導入が成功するかどうかは、動きの速い大量のデータからインサイトを得られるかどうかにかかっています。例えば、継続的なモニタリングや予知保全を行うためには、センサーから流れてくるデータをリアルタイムまたはそれに近い状態で効果的に取り込み、保存し、処理して、即座に洞察と行動を起こすことが必要です。

そのため、スケーラブルでリアルタイムなエンド・ツー・エンドのストリーミング・データ・プラットフォームは、データを取り込み、蓄積し、分析して、重要な実用的洞察を提供することで、製造業がIIoTの複雑さを克服するのに役立ちます。

中国の建設機械や衛生設備のメーカーであるZoomlionは、エンド・ツー・エンドのストリーミングデータ・プラットフォームのメリットを享受している企業の一つです。このプラットフォームにより、IIoTに接続されたマシン、社内の基幹業務システム、サードパーティのソースからデータを取り込み、保存し、処理することができます。機器の動作を継続的に分析し、潜在的な故障を検出し、故障の警告や機械の動作の統計を提供できるようになったことで、Zoomlionは人手とメンテナンスコストを30%削減することに成功しました。また、IIoTデータを分析して得られた知見をもとに、新たなサービスを提供することで、付加価値サービスの収益が30%増加させています。

効果的な管理によるデータのナビゲーションを容易に

企業が生成する膨大で多様なデータの中で、IOTデバイスからのデータを含むRAWデータを管理するのは大変な作業です。2025年には150ゼタバイト以上のデータを分析する必要があり、そのデータを保存するには、1TBのハードディスクが150兆個必要になると言われています。

だからこそ、大量のデータを安全かつ効率的に処理できる堅牢なデータ管理プラットフォームが不可欠なのです。企業は複数のクラウド環境やオンプレミス環境にまたがるデータの存在を心配しなくて済むようなプラットフォームの導入が必要になるでしょう。

  • 複数のクラウドを横断して分析やデータガバナスを実現する必要がある

著者プロフィール


Cloudera株式会社 社長執行役員 大澤 毅


大手独立系メーカー、大手SI、外資系 ITにおいて要職を歴任。 大企業のマネジメント経験、数々の新規事業の立ち上げを通じ、個社を超えて全体像を構想し新しい価値を社会に創出する「共創イノベーションのリーダーシップ」が求められていると実感。一般社団法人 グラミン日本のアドバイザリーとして、Social Recruiting Platform事業推進に取り組む。SAPジャパン株式会社 SAP Fieldglass事業本部長を経て、2020 年9 月14日より Clouderaの社長執行役員に就任。データ活用を奨励し、日本市場のお客様とパートナー企業のビジネス変革を支援している。