産業技術総合研究所(産総研)は11月22日、次世代リチウムイオン電池(LIB)の1種である酸化物系全固体LIB向けの高容量正極および負極を開発し、安全性の向上に道筋をつけることができたと発表した。

同成果は、産総研 先進コーティング技術研究センター エネルギー応用材料研究チームの永田裕主任研究員、同・秋本順二首席研究員兼チーム長らの研究チームによるもの。詳細は、ナノサイエンスと材料科学などを扱う電気化学会の英文学術誌「Electrochemistry」に掲載された。

全固体LIBは、複合正極層/隔離層/複合負極層の3層で構成され、リチウムイオンが、正・負極内および隔離層内の固体電解質粒子を介して、複合正・負極間を移動することで充放電する仕組みとなっている。この複合正極層中の活物質に、高エネルギー密度正極活物質である硫黄を用いた全固体LIB(全固体Li-S電池)は、現行の電解液を用いたLIBと比べてエネルギー密度を向上できるとして期待されている。

その実現のためには、正極・負極の活物質の組み合わせと正・負極内および隔離層に使用される固体電解質材料という2つの課題がある。リチウム金属を用いない系として、正・負極活物質にそれぞれ高容量活物質である硫化リチウム(Li2S)とシリコン(Si)を用いた系が注目されているが、反応性が低いため、室温で酸化物系固体電解質材料を用いて実用的な充放電を実現することは困難だったという。

研究チームでは今回、これらの材料がメカニカルミリングで微細化することで電池特性を向上できること、粒子間接点を増やすことが可能であること、最近になって高変形性の酸化物系固体電解質のイオン伝導率が改善されてきていることなどを踏まえ、Li2O-LiIガラスの原料(Li2OとLiI)と電極活物質(正極ではLi2S、負極ではSi)およびカーボンなどの導電材を混合させ、一括してメカニカルミリング処理を行うことで、電極内固体電解質材料合成と電極合材の複合化を同時に行う方法を考案。活物質粒子-固体電解質粒子間および固体電解質粒子間の接点を改善した上で、室温で作動する全固体Li-S電池用のLi2S正極およびSi負極合材を開発することに成功したという。

  • 全固体リチウムイオン電池

    (左)酸化物系の電極合材における全固体電池のフルセルエネルギー密度(正極+負極重量基準)。(右)全固体LIB電池の概略図 (出所:産総研Webサイト)

実際に、正極と負極を組み合わせた25℃におけるフルセル試験を実施したところ、25℃で面積容量4.0mAh/cm2、エネルギー密度283Wh/kg(正・負極重量基準)となることを確認したという。このエネルギー密度は、現行の液系リチウムイオン電池とも比肩し得る値であり、安全性の高い全固体Li-S電池の実現可能性を示すことができたとしている。

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    (左)産総研において行われている酸化物系全固体Li-S電池研究の概要。(右)高変形性固体電解質材料による粒子間接触の改善イメージ図 (出所:産総研Webサイト)

なお、研究チームは今後、高変形性酸化物系固体電解質材料の充放電サイクル安定性およびイオン伝導率の改善と、活物質比率を現行の30%から50%に増加できる電極合材の複合化法を検討し、エネルギー密度の向上を図るとしているほか、今回のフルセル試験の隔離層には硫化物系固体電解質材料(Li3PS4-LiI)を用いたが、これを酸化物系固体電解質材料への置き換えに向けて、酸化物系固体電解質材料のイオン伝導率改善および薄膜化の検討を進めるとしている。特に、酸化物系固体電解質材料を用いた隔離層では、その薄膜化が重要だとしている。

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    今回の技術による酸化物系固体電解質材料を用いた電極合材および電極形成概略図 (出所:産総研Webサイト)

また、連携できる産業界のパートナーを探して研究を加速させることで、全固体Li-S電池の早期実現を目指したいともしている。

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    (左)正・負極を組み合わせたフルセル試験構成およびその25℃充放電特性。(右)酸化物系全固体電池のフルセルのエネルギー密度(正極+負極重量基準) (出所:産総研Webサイト)