2021年11月14日、NPB(日本野球機構)とコナミデジタルエンタテインメントが共催するプロ野球eスポーツリーグ「eBaseballプロスピAリーグ」の球団代表選手に向けた講演会が開かれました。

講演では、元メジャーリーガーで、NPB時代はヤクルトスワローズ、福岡ソフトバンクホークスに在籍した五十嵐亮太氏が登壇。プロとしての心構えなどを選手に伝えました。

  • eBaseballプロスピAリーグ

    講演会の様子

プロスピAリーグは、2021年度から開催されるスマートフォンアプリ『プロ野球スピリッツA』を使用したeスポーツリーグ。プロ野球球団にはそれぞれ3名の代表選手が在籍し、セ・リーグ、パ・リーグともに総当たりのリーグ戦を行います。リーグ戦終了後にはAクラス(3位までの3チーム)がeクライマックスシリーズに出場し、e日本シリーズの出場権をかけて争います。そして、セ・リーグ、パ・リーグの優勝チームが決定したのち、日本一の座をかけた「e日本シリーズ」が開催されます。

各球団の代表選手は、オンライン予選とオンライン面接、そして代表決定戦を通過した3名ずつ。先述したとおり、プロスピAリーグは2021年度からの開催なので、eBaseballのプロ選手としての活動についても全員が初体験です。そこで、五十嵐亮太氏がプロ選手としての心得を講演をすることになりました。

まず講演で五十嵐亮太氏は、プロ選手になることで、これまでと立場が一変することを説きます。

「ここにいる人たちは、これまで個人プレイヤーとして勝ち上がってきたわけですが、これからはチームで活動していかなくてはなりません。チームを背負って試合に臨みますし、もし何かあったら、どこどこチームの誰々選手だと、チームの名前が出るようになってしまう。したがって、常に見られているなか、どういった立ち振る舞いをすべきか考える必要があるでしょう」

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    五十嵐亮太氏。ヤクルトスワローズで抑え投手として活躍したのち、FA権を行使し、メジャーリーグに挑戦。ニューヨークメッツ、トロントブルージェイズ、ニューヨークヤンキースを経て、日本球界に復帰。福岡ソフトバンクホークスとヤクルトスワローズで活躍しました

今回リーグで採用された『プロ野球スピリッツA』は、プロ野球選手にも人気が高く、多くの人がプレイしていると言います。

そのため、プロ野球選手も、プロスピAリーグの選手に注目する可能性があることに言及。「これまでは、あなたたちがプロ野球選手を見てきたように、今度はプロ野球選手があなたたちを見るようになります」と、注目度の高さを再確認させていました。

また、プロ選手として活動するうえで、メディア対応が重要であることも語っていました。

「これまでも大会で勝ったり、優勝したりしたときに話を聞かれる場面があったと思います。しかし、プロになると、勝ったときよりも負けたときのほうが注目されます。私も抑えたときにインタビューされた記憶はほとんどないですが、打たれたときほどいろいろ聞かれました。本来なら、打たれたり、負けたりしたときは、ガッカリして、話もしたくないわけですが、そこでふてくされて答えないようではダメ。あと、負けて悔しいからといってコントローラーやタブレットを投げつけるようなこともしてはダメ。プロ野球選手にもバットやヘルメットに当たり散らす人がいましたが、チームメイトやファンは、その様子を見て気持ちの良いものではありません。これからはチームで戦うので、チームメイトの気持ちを考え、そしてファンが嫌がるようなことをしないように心がけてください」

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    何もかもが未経験のプロスピAリーグ代表選手。ファンとチームメイトの存在を強調する五十嵐氏の言葉一つひとつに聞き入っていました

五十嵐氏の経験として、プロ野球で評価される選手は、感情の起伏が激しくない、落ち着いた感じの選手。現役時代に一緒にプレイした選手でいうと、元メジャーリーガーで、読売ジャイアンツに所属していた松井秀喜氏だと言います。

「松井選手がメジャーリーグに挑戦する前年に、僕は50号ホームランを打たれているんですよね。たぶん、メジャー挑戦をするから、松井選手とは最後の対戦だと思い、真っ直ぐで全力勝負をしたんです。結果、50号を打たれたわけですが。そのあと、松井選手から声をかけられ、良い勝負ができたと感謝してくれたんです。松井選手は日ごろからメディア対応も良く、本当に憧れの存在だった。あなたたちは、プロスピAリーグの初めてのプロ選手となるわけなので、今後、入ってくる人たちから憧れる選手になるような立ち振る舞いをしてほしいと思います」

プロ選手としての立ち振る舞いは、試合中や配信中に限らず、プライベートでも重要だと言います。選手として認識されれば、試合中もプライベートも関係ありません。プライベートだからといって、ファンに対して無碍(むげ)な態度をとったり、対応しなかったりすると、ファンは嫌な思いをするでしょう。それはいつまでも忘れません。

「その場で文句を言ってくれれば自分だけの問題になりますが、あとから球団や、あなたたちならKONAMIにクレームが入ってくる。球団はそのクレームをチーム全体で共有するので、誰がそんな態度を取ったんだという疑心暗鬼が生まれ、チーム内の空気も悪くなってしまいます」

と、ここでもチームの一員であることを強く説きます。ただ、なんでもかんでも気にしすぎると窮屈になってしまうので、良いプレイをし、楽しくプレイする姿をファンに見せて喜ばせるのが重要とも話していました。

さらに、五十嵐氏は、チームでの活動にも言及。ときには仲間割れや仲違いをすることもあり得ますが、それでもうまく調整しなくてはならないと話します。負けが込んでいるなど、チーム状態が悪くなってしまうときも、チームの雰囲気を良くする選手がいると、それだけでチーム浮上のきっかけになると、アドバイスを送りました。

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    選手からの質問に答える五十嵐氏

講演終了後に、五十嵐亮太氏に今回の講演についてお話を伺ってきました。

――『プロ野球スピリッツA』やプロスピAリーグについて、どのような印象をもたれたでしょうか。

五十嵐亮太氏(以下、五十嵐):スマートフォンアプリですが、すごくよく再現されていますね。実際のプロ野球を観ている感じになります。

球場で観戦するのとは別の演出もあり、楽しませてくれます。プロスピAリーグの選手達は技術面の高さもあるんですけど、人間性が出てきますね。そこは野球と一緒だと思います。プロ野球のシーズンが終わり、シーズンオフにもうひとつのプロ野球観戦として楽しみですね。

――プロスピAリーグで優勝したチームへの賞金は選手でなく、球団に入り、ファンサービスなどに充てられるのですが、その点はいかがでしょうか。

五十嵐:それはすごい。プロ野球ファンもプロスピAリーグを応援するきっかけ、流れになるのではないでしょうか。プロスピAリーグのファンも増えるだろうし、いいことしかない。野球とeスポーツの相乗効果が期待できますね。

プロスピAリーグのプレイヤーには、野球を諦めてしまった人もいると思います。そういった人たちが活躍できる場所、喜びを感じられるのは本当にいいことです。

――講演では、プロ野球選手もプロスピAリーグに注目していると話していましたね。

五十嵐:多くの選手がプレイしています。プロスピAリーグの高い技術はかなり参考になるんじゃないかな。ダルビッシュ選手も、ダルビッシュ杯を開催していますし、本当に流行っています。

――今回の講演でプロスピAリーグの選手をどのように感じましたか。

五十嵐:新人選手としては、プロ野球選手もプロスピAリーグの選手もあまり変わらないですね。どちらも新鮮です。今後、彼らの力が存分に発揮できるようになってほしいと思います。

――ありがとうございました。

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プロスピAリーグに参加する選手の多くは、世間的に知られていない人ばかり。それが一夜にして注目される存在になったのではないでしょうか。

五十嵐氏は世間に注目されるということがどういうことなのか、それに対してどういった心構えが必要なのかを懇切丁寧に語っていました。講演時には五十嵐氏の言葉を理解しきれない選手もいたかと思われますが、リーグが進行し、実感できるようになったとき、もう一度、五十嵐氏の言葉を思い出してほしいところです。