Google純正スマートフォン「Pixel 6」シリーズは、ハイエンドスマートフォンとして高いパフォーマンスを備えていますが、それを実現するSoCとして同社独自の「Tensor」を搭載しています。これまで、PixelシリーズではQualcommのSnapdragonが採用されていましたが、とうとうカスタムチップを採用した形です。

ここでは、そんな注目のTensorの実力を検証してみました。

  • Pixel 6 Pro

    Googleシリコンこと「Tensor」を搭載したPixel 6 Pro

パフォーマンスの高い独自チップ

Googleの独自チップとして採用されたTensor。その名の通り、機械学習によるAI機能を重視し、スマートフォン単独で機能を実現することを目的としています。

Tensorの構成は、TPU(Tensor Processing Unit)が特徴的ですが、CPU、GPU、ISP、セキュリティチップ、システムキャッシュなどをパッケージングしています。その中でTPUは機械学習エンジンとして動作する、Tensorの中核をなすチップです。それだけではなく、画像処理を行うISPにもアルゴリズムを内蔵させており、これが写真撮影時の内部処理を効率化させているようです。

  • Tensorの構成

    Tensorの構成。TPUの存在が特徴

CPUとGPUも、機械学習に最適化するような設計だとされています。スマートフォンのパフォーマンスに影響する部分はハイエンドの仕様になっているようで、CPUはCortex-X1×2、Cortex-A76×2、Cortex-A55×4という構成。GPUはMali-G78。プロセスルールは5nmなので、全体として最新のハイエンドなパーツを採用しています。

低電力で動作するContext Hubも組み込まれており、消費電力を抑えて機械学習の処理を実行できるとしています。画面オフ時の「この曲はなに?」などで活用されると思われます。SnapdragonでいえばSensing Hubに該当するものでしょう。他社のSoCではNPU(Neural Processing Unit)などと呼ばれるAI向けのプロセッサを搭載していますが、それがTPUに置き換わったと考えればよさそうです。

実現されている機能としては、メッセージのリアルタイム翻訳機能、Googleアシスタントの通訳機能、レコーダーアプリの文字起こし機能、カメラの各種機能がスマートフォン単体で動作しています。ネットワークアクセスがなくても、難しい翻訳や文字起こしができ、しかも日本語に対応した状態で動作するのは便利です。

ベンチマークで性能をチェック

では、実際にどの程度のパフォーマンスなのか、いくつかベンチマークを実行してみました。比較対象として用意したのはSnapdragon 888を搭載するXperia 1 III、Snapdragon 765Gを搭載するPixel 5です。Pixel 5に関してはハイエンドのSoCではないため不利なのですが、前世代のミドルレンジPixelとして比較してみました。なお、掲載したベンチマークの画像は全てPixel 6 Proの結果ですが、Pixel 6も同等のパフォーマンスでした。

まず通常のベンチマークとして、定番の3Dmark、GFXBench、Geekbenchを実施しました。

3DmarkのWild Lifeベンチではスコアが6,626。Xperia 1 IIIは5,759でしたので、Snapdragon 888を超えるパフォーマンスでした。Pixel 5は1,642だったのでその差は歴然です。

  • 3Dmark Wild Lifeベンチ(Pixel 6 Pro)

    3Dmarkの結果。なかなかのハイスコアです

  • 3Dmark Wild Lifeベンチ(Xperia 1 III)

    比較用のXperia 1 IIIの結果。これもスコア自体は悪くありません

それに対して、GFXBenchは、マンハッタン3.1が2,745フレーム、1080pマンハッタン3.1オフスクリーンが5,077フレームなどとなっており、Xperia 1 IIIの3,703フレーム/6,030フレームには劣ります。とはいえPixel 5は1,989フレーム/2,154フレームなので、やはり大きな差があります。

  • GFXBench(Pixel 6 Pro)
  • GFXBench続き(Pixel 6 Pro)
  • GFXBenchのスコア(Pixel 6 Pro)

  • GFXBench(Xperia 1 III)
  • GFXBench続き(Xperia 1 III)
  • GFXBenchのスコア(Xperia 1 III)

Geekbenchはシングルコアが1,039、マルチコアが2,769。Xperia 1 IIIはそれぞれ1,026/2,661だったので、ほぼ同等でしょう。Pixel 5は572/1,311でした。

  • Geekbench

    Geekbenchのスコア

こうした結果から見ると、TensorはSnapdragon 888に匹敵するハイパフォーマンスなチップといって間違いなさそうです。実際、パフォーマンス的な不満は感じず、画像処理も高速で、ハイエンドスマートフォンとして快適に利用できます。

機械学習のパフォーマンスは?

では、機械学習のパフォーマンスではどうでしょうか。ベンチマークとしては、AI BenchmarkとGeekbench MLを利用しました。

AI BenchmarkでPixel 6 Proのスコアは262.9。かなり高いスコアで、TPUの実力が発揮されているようです。それに対してXperia 1 IIIは209.6。これも高性能ですが、Pixel 6 Proには少し及びませんでした。Pixel 5は37.1と、だいぶ差が付いています。

  • AI Benchmark(Pixel 6 Pro)

    Pixel 6 ProのAI Benchmarkのスコア

  • AI Benchmark(Xperia 1 III)

    Xperia 1 IIIのAI Benchmarkのスコア

Geekbench MLは、CPU、GPU、NNAPI経由でのニューラルアクセラレータを実行する、とされています。結果を見ると、Pixel 6 Proの場合はNNAPI経由が1,745、CPUが318、GPUが1,370でした。GPUはベンチマークの種類によってNNAPI経由を上回るパフォーマンスを出すこともありましたが、トータルではNNAPI経由が高いスコアとなりました。

  • Geekbench MLのスコア(Pixel 6 Pro)

    Pixel 6 ProのGeekbench MLのスコア

  • 個別のスコアの一部(Pixel 6 Pro)

    個別のスコアの一部

これに対してXperia 1 IIIでは、1,199、427、1,817と、GPUが最も高い性能となりました。NNAPI経由だとPixel 6 Proが上回りましたが、全体ではXperia 1 IIIのGPUが最も高性能という結果でした。ちなみにPixel 5のスコアは359/227/629。Snapdragonは、機械学習用のチップを備えているものの、実際の性能的にはGPUの方が上のようです。このあたりは消費電力にも影響しそうです。

  • Geekbench MLのスコア(Xperia 1 III)

    Xperia 1 IIIのGeekbench MLのスコア

  • 個別のスコアの一部(Xperia 1 III)

    個別のスコアの一部

評価の難しいところですが、Pixel 6の機械学習の性能もハイエンドといって間違いなさそうで、Tensorはバランスの取れたSoCと言えそうです。

動作温度は?

高性能化するときに問題となるのがパフォーマンスです。Snapdragon 888は発熱が高い印象があり、ハイパフォーマンスではあっても、端末が高温になると性能が落ちたり、アプリの動作が不安定になったりします。

そこで発熱の傾向をチェックしてみました。このあたりは、TPUというよりはCPUやGPU、カメラユニットの発熱が問題になる部分です。

試したのは3DmarkのWild Life Stress Test。30分間のベンチマークを実施することで、発熱の傾向をチェックできます。Pixel 6 Proでは、アプリ表示でバッテリー容量が100%から90%に減少し、温度は25度から43度で遷移。フレームレートは10~51fpsでした。表面温度を見ると、縦持ちしたときに背面から見て右、カメラバーの下あたりの温度が高く、最大で46度前後まで達しました。温かくはなりますが、熱いと感じるほどではありません。

  • 3DmarkのWild Life Stress Testの結果の一部

    3DmarkのWild Life Stress Testの結果の一部

  • 表面温度

    表面温度を測定したところ。このあたりが最大温度でした

一方、Xperia 1 IIIの場合は、アプリ上の表示では、バッテリーが96%から86%に減少し、発熱は30~42度の間で推移。フレームレートは13~41fpsまで変動しました。表面温度は最大で48度を超えましたが、思ったよりも高温にはなりませんでした。なお、Pixel 5はバッテリ容量が57%から49%まで減少し、温度は30度から34度、フレームレートは7~14fpsとなりました。表面温度は最大で42度程度。

  • Xperia 1 IIIの結果

    Xperia 1 IIIの結果

それ以外にも、例えばPixel 6シリーズでは4K 60fpsの動画撮影が可能です。実際に動画を撮影してみたところ、Pixel 6 Proは最大で47度前後、Xperia 1 IIIは52度前後まで上昇しました。Xperia 1 IIIが30fpsであることを考えれば、Pixel 6の発熱は抑えめでしょう。なお、Pixel 6 Proは撮影して20分ほどで表面温度が47度に達して撮影が停止しました。Xperiaは50度を超えていましたが、温度上昇警告は出たものの撮影を続けていました。

いずれにしても、熱くて持てなくなるというレベルではなく、少なくとも通常利用において発熱が過度に問題になることはなさそうです。

  • 動画撮影中の両機の表面温度

    動画撮影中の両機の表面温度。左がPixel 6 Pro、右がXperia 1 III

Tensorは、機械学習によるAI機能をスマートフォン内で快適に動作させることを目的としており、実際、翻訳や文字起こしのような難しい処理を通信なしで実現してくれています。全体の性能も、ゲームを含めて快適に動作するレベルですが、TPU以外の性能を抑えて低価格化できれば、ミドルクラスのPixelでも同様の機能が実現できそうです。