さくらインターネットは10月26日、同社が経済産業省事業として開発・運用する、クラウド上で衛星データの分析ができる衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」のVer.3.0の提供を開始すると発表した。

Ver.3.0では新機能として、衛星データの売買ができる「Tellus Satellite Data Traveler(テルース サテライト データ トラベラー)」を追加した。同機能により、衛星のセンサーの種類や時刻、AOI(関心領域:Area of Interest)などを指定して検索し、購入できる。任意の環境に購入した衛星データの保存も可能だ。

  • 新機能「Tellus Satellite Data Traveler」サービス画面イメージ

代表取締役社長の田中邦裕氏は、「気軽に衛星データを探して保存し、それを利活用することができる。また、APIで連携できることも重要なポイント」と、同日開催された記者会見で説明した。

API経由でNTTドコモが提供する人流データなどの地上データや、商用衛星データ、政府系衛星データを組み合わせ、それらのデータを同社が展開しているIoT(モノのインターネット)事業に取り入れる。「地上からのデータと空からのデータを組み合わせ、ユーザーが新しいビジネスを見出せるプラットフォームにしたい」(田中氏)

  • さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕氏

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今回追加された機能により、衛星データの販売を開始する企業(衛星データプロバイダ)は、日本スペースイメージング(JSI)、日本地球観測衛星サービス(JEOSS)、パスコの3社。

JSIは商用世界最高分解能(30センチメートルクラス)をもつ光学衛星による「Maxar画像」を10月26日から、小型多頻度SAR衛星による「Capella画像」と、小型多頻度光学衛星による「BlackSky画像」を2022年度中に販売を開始する。

  • JSIは3種類の衛星データを「Tellus」上で販売する

Maxar画像は4機体制によりほぼ毎日撮影可能で、2000年からのアーカイブ画像があるのが特徴。2022年には、次世代衛星群「WorldView Legion」6機の打ち上げを予定しており、撮影のキャパシティや撮影時間の対応性が向上するとしている。

  • Maxarは膨大なアーカイブ画像(2000年から)を持っている。旧国立競技場から新国立競技場の建設過程まですべて時系列でアーカイブ画像で確認することができる

JSI代表取締役社長の上田浩史氏は、「体育館の屋根材の継ぎ目や、駐車場の白線、街を歩く人たちなど、本当にくっきり見える画像になっている。また、2000年からアーカイブを保存しているので、例えば、旧国立競技場から新国立競技場の建設過程まですべて時系列で確認することができる」と、特徴を説明した。

  • JSI代表取締役社長 上田浩史氏

Capella画像は高画質、迅速なデータ提供に加えて、Web上での注文で画像を取得できるといった利便性がある。

  • Capella画像(例):浸水区域解析

BlackSky画像の特徴は、高頻度観測とAI(人工知能)による対象物体の自動抽出ができることだ。「これまでは、同じ場所を1日で1回撮影できれば上出来だったが、BlackSkyは2日ちょっと(51時間)で12回も撮影ができる。またAIによる自動抽出機能により、物体のカウントや変化・増減といったトレンドをグラフ化して、何らかの判断に活用することもできる」(上田氏)

  • BlackSkyの高頻度観測機能

  • BlackSkyのAIによる自動抽出機能

NEC傘下であるJEOSSが提供する衛星データは、国内7都市(札幌、富山、名古屋、宇部、熊本、中津、鹿児島)を定期撮像した画像。分解能が2メートルの「ストリップマップ」で撮影した、標準処理(レベル1.5)・オルソ処理(レベル2.1)画像を提供する。なお、対象地域は今後順次拡大を予定している。

  • JEOSSが販売する衛星データの概要

同社が運用している3つの商用SAR衛星は、経済産業省の助成事業により2018年1月に打ち上げられた。最高分解能は1メートルを誇る。自社運用により全球を自在に撮像可能であり、自然災害などの緊急撮像にも対応でき、NECのAI画像分析技術を適用したレポートも提供可能だ。

  • 全球シャッター権とAI画像分析技術(NEC保有)

JEOSS代表取締役の堀内康男氏は、「宇宙利用が社会に浸透してきている一方で、レーダー画像の利用に関してはまだまだ周回遅れだ。その最大の要因は、画像を見るだけではどう活用すればいいか分かっていない企業が多いことだ。分析を行わないと使い勝手のよい情報は得られない。Tellus上でデータを販売することで、さまざまなユーザーにレーダー画像の新しい利用シーンを生み出してもらいたい」と、説明した。

  • JEOSS 代表取締役 堀内康男氏

一方、パスコが販売する衛星データは、光学衛星の「ASNARO-1」と、先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」(2021年度打上予定)による画像データ。

ALOS-3は、観測幅が70キロメートルで、最大観測距離4,000キロメートルという広範囲で、高解像度・高精度に衛星画像を撮像することができるという。また、最新センサーを搭載しており、多目的な判読に対応しているとのこと。

  • パスコが販売するALOS-3による衛星データの特徴

パスコ衛星事業部事業部長の古田城久氏は、「衛星データをが日本で普及させるには、衛星データ利用層の増加が必須だ。Tellusはショールームのような場所となり、ユーザーが比較検討を行って衛星データを購入できることで、ユーザーの視野が広がる」と、将来性を語った。

  • パスコ 衛星事業部事業部長 古田城久氏

Tellusは2019年2月のサービス提供開始からアカウント登録者数は2021年10月26日時点で2万4,000人を超えた。田中氏は、「TellusはVer.3.0になってから本当の価値を創造していく。日本のみのプラットフォームではなく、アジアパシフィックのプラットフォームへと進化させたい」と、意気込みをみせた。