宇宙航空研究開発機構(JAXA)、竹中工務店、キリンホールディングス、千葉大学、東京理科大学(理科大)の5者は10月22日、将来の月探査などでの長期宇宙滞在時における食料生産に向けた技術実証を目的として、宇宙での袋型培養槽技術の実証実験を、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟内で実施したことを発表した。
日本も参加しているアルテミス計画では、2024年に有人月面探査を行う予定としているほか、2020年代後半には恒久的な月面基地の建設も予定されている。今回の実証実験も、そうした長期宇宙滞在に向けた取り組みの1つで、将来的な月面での農場設置などにつなげる狙いがあるという。
開発された袋型培養槽技術は、小型の袋の内部で密閉して作物を生育するというもので、密閉により雑菌の混入を防ぐと同時に、臭気を周囲に発生させないというメリットがあるとするほか、コンパクトであり、設備も簡易でメンテナンスしやすく、省エネルギー性があり、人数に合わせた数量調整も容易といった特徴も備えるという。
研究チームは今回、これまでの共同研究の結果を踏まえ、宇宙空間の微小重力環境下や閉鎖環境下における同栽培方式の有効性や、水耕栽培や土耕栽培と比較した際の優位性を確認するため、2021年8月27日から10月13日までの48日間にわたって「きぼう」船内でのレタス生育の実証実験を実施。期間中は栽培装置を通して培養液の供給および空気交換が行われ、生育の促進が図られた。そして9月10日にはレタスの本葉が確認され、その後も順調な生育が続き、収穫に至ったという。
培養袋では、栽培装置に接続されて農作物の育成が行われることとなり、今回の実証実験用に開発された栽培装置は、打ち上げ時の積載重量低減のため、大きさは幅44cm×奥行35cm×高さ20cm、重量は5kgとコンパクトに抑えられながらも、3袋の同時栽培を可能としたもの。内部にはISSの飲料水から作成して無菌化した培養液を各培養袋へ供給できるシステムと、生育状況を定期的に自動撮影できるシステムが備えられている。
今後は、生育したレタスと培養液、生育の様子を撮影した記録を回収し、宇宙での適用可能性や同栽培方式の優位性の評価が行われる予定だという。また、育ったレタスに食品衛生上の問題がないかどうかの確認や、栽培後の培養液を分析してISSの環境制御・生命維持システムで再利用処理が可能かについての確認も実施する予定としている。
なお、将来的には、この袋型培養槽技術を用いることで、一度に大量の葉菜類の栽培だけでなく、ウイルスフリーな苗の育成にもつながるなど、惑星探査時の長期の宇宙船内滞在時や滞在施設での大規模栽培への活用が期待されるとのことで、研究チームでは、袋型培養槽技術が持続的な宇宙活動へ貢献するよう、今後も研究を進めていくとしている。