千葉大学は10月6日、パーキンソン病やがんの一因とされている不良ミトコンドリアを蛍光タンパク質によって可視化する、DNAベクターを用いた不良ミトコンドリアセンサー「Mito-Pain」を開発したと発表した。
同成果は、千葉大 大学院理学研究院の板倉英祐准教授らの研究チームによるもの。詳細は、生物学的プロセスの分子的・細胞的基盤を題材とした学際的な学術誌「Journal of Biological Chemistry」に掲載された。
パーキンソン病神経疾患は現在、世界で1000万人以上が罹患しているとされる神経変性疾患の1つで、ドーパミン神経細胞の脱落によって生じる疾患として知られており、その脱落にはミトコンドリア障害が関連すると考えられているものの、その治療法はまだ確立されていないのが現状である。
ミトコンドリアは、細胞内において糖分や脂質からエネルギーを産生する重要な役割を担う細胞小器官の1つだが、活性酸素などのストレスによりダメージを受けやすく、不良ミトコンドリアが蓄積すると、その細胞に悪影響を与えてしまい、その結果、パーキンソン病だけでなく、がんの発生など、多くの疾患の原因となってしまうと考えられている。
そのため、どのようなストレス条件で不良ミトコンドリアが生じるのかを調べることが重要と考えられているものの、これまでは特定のストレスしか検出できない限定的な方法しかなかったという。
パーキンソン病の原因遺伝子の1つに、「PINK1遺伝子」がある。これまでの研究から、同遺伝子の産物である「PINK1タンパク質」は健康な細胞では速やかに分解される一方、不良ミトコンドリア外膜上では安定化して留まることが分かっており、今回の研究では、この性質を利用し、PINK1を不良ミトコンドリアのマーカーとして活用することを目的に、PINK1とGFP(緑色蛍光タンパク質)、T2A(自切配列)、RFP(赤色蛍光タンパク質)、Omp25(ミトコンドリア外膜タンパク質)からなるDNAベクター「Mito-Pain」が作製された。
Mito-Painを細胞に導入すると、1つのmRNAからPINK1-GFPとRFP-Omp25タンパク質が等量ずつ産生され、RFP-Omp25はすべてのミトコンドリア膜上に、PINK1-GFPは不良ミトコンドリアの膜上のみに安定して局在するようになる。その結果、不良ミトコンドリアはRFPとGFP両方を保持するため、不良ミトコンドリアが存在すると黄色(赤と緑の混合色)の比率が増加し、不良ミトコンドリアの増加の指標として定量解析が可能となるほか、細胞内の一部の不良ミトコンドリアのみを観察することで、局所的なミトコンドリアストレスの解析もできるようになるという。
さらに、Mito-Painによってミトコンドリアストレスを生じさせる化合物についての調査が行われたところ、化合物の種類によってはPINK1だけでミトコンドリアストレスに応答する場合があることが判明。PINK1は、オートファジーを介して不良ミトコンドリアを分解除去(マイトファジー)するだけでなく、単独でミトコンドリア修復に働く機能を持つことが示唆されたという。
なお、これらの成果について板倉准教授は、「ミトコンドリアストレスを起因としてパーキンソン病神経疾患やがん、老化などが生じると考えられています。Mito-Painを利用してミトコンドリアストレスの詳細を解析することで、さまざまな疾患の発症要因の解明が進むと期待しています」とコメントしている。