NTTドコモは9月28日、電力事業に参入し、「ドコモでんき」を2022年3月から提供すると発表した。再生可能エネルギーを積極的に採用して、社会全体のカーボンニュートラルに貢献するという「ドコモでんき Green」と、dポイント連携など機能を備えた「ドコモでんき Basic」の2つのプランが予定されているが、具体的な料金やモバイルサービスとのセット割といった詳細は、現時点で明らかにされていない。まずはこの日のオンライン記者会見で語られた内容を確認していこう。

  • ドコモでんき Green

    再生可能エネルギーを利用するドコモでんき Greenなど、ドコモが電力事業に参入する

同日にはNTT(持株会社)が、デジタル化/DX化の推進を加速するなどの新たな経営スタイルへの変革と、2040年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの計画を発表しており、ドコモではそれに呼応して2030年にいち早くカーボンニュートラルを達成することを目指す。そのため、グループでエネルギー事業を担うNTTアノードエナジーと連携して電力の供給を受け、様々な電力消費削減などの取り組みを進めていく考えだ。

  • NTTグループの2040年までのイノベーション戦略

    NTTグループの新たなカーボンニュートラルなどをはじめとした戦略。2030年までに温室効果ガス排出量80%を目指す中で、いち早くモバイル事業のドコモをカーボンニュートラルとする

会見で登壇したNTTドコモの廣井孝史副社長は、今回の発表の前提として、モバイル事業において「1台のスマートフォンが消費する電力は意外に大きい」と指摘。これは、基地局の電力消費やスマートフォンの販売拠点への配送、製造といったバリューチェーンにおいて多くのCO2を排出するためだ。

  • スマホの消費電力

    端末の利用だけでなく、製造、販売などの工程も含めると、1台のスマートフォンに使われる消費電力は大きい

廣井副社長は「大胆な推計」と前置きした上で、スマートフォン1台のCO2排出量は年間88kgで、日本に存在する携帯端末1億8,000万台の排出量を考えると、1年間で自動車1,000万台分の排出量に相当するという。スマートフォン18台で、年間に1台の自動車と同じ量を排出している計算だ。

  • スマホのCO2排出総量は自動車1,000万台分に相当

    日本国内の携帯端末全体では年間で自動車1,000万台と同等、車1台に対してスマートフォン18台が同じ排出量になるという

ドコモは、NTTグループ全体の約3割の電力を消費しており、これをいかに削減できるかが、NTTグループ全体のカーボンニュートラル戦略にも影響するため、いち早く対応を進めていく。

例えば通信ネットワークの省電力化では、基地局内に人がいない場合にスリープするようにきめ細かくコントロールしたり、省電力装置を導入したりするなど、電力消費の削減を行っていく。

  • カーボンニュートラルへ向けた取り組み

    ドコモのカーボンニュートラルに向けた取り組みの一部

  • 通信ネットワークの省電力化

    通信ネットワークの省電力化

1つの鍵となるのがNTTグループが推進する「IOWN構想」だ。IOWNは、光電融合技術を使うなど通信技術の革新を目指したものだが、NTTではこれが大幅な電力消費の削減にもつながるとしている。2024年にはデバイス、2025年には装置の開発をそれぞれ完了し、2026年にはIOWNの導入を開始する考えで、2030年の時点ではNTTグループ全体で15%の温室効果ガス削減を見込む。これをドコモが通信網に採用していく。

  • カーボンニュートラルへの道程

    NTT持株におけるカーボンニュートラルの道程。何もしないと2040年には年間860万トンの温室効果ガス排出量になるが、これをさまざまな施策で減らしていく。IOWNの導入で大きくこれを削減できる可能性がある

バリューチェーン全体としては、ドコモショップに太陽光パネルを設置するなどのグリーン電力化を推進。端末や通信設備などのサプライヤーからは、環境に配慮した製品の購入を推進するなどして、サプライヤー側のCO2削減も促していく。

  • バリューチェーンの取り組み

    バリューチェーンでの削減の取り組みを実施

こうした取り組みによって、2030年にはカーボンニュートラルを達成する計画で、これは当初計画していた2030年に50%削減という目標を大幅に前倒しする形だ。

ユーザーに対してもカーボンニュートラルに向けた行動を促したいという考えから、「グリーン5G」を開始する。5Gネットワークは高速大容量の伝送が可能で、効率的にデータ転送ができる――という点をアピールするとともに、モバイルサービス全体の消費電力における再生可能エネルギーの割合を、ドコモ回線全体の5G回線数の割合と一致させる計画だ。

  • グリーン5G

    5Gを使うことで温室効果ガス排出量削減に貢献できる「グリーン5G」

例えばドコモの契約数が8,000万件だとして、そのうち500万件が5G契約だとすると、その割合は6.25%となる。このとき、総消費電力に対して6.25%を再生可能エネルギーによってまかなうことになる。5G契約数が10%になれば再生可能エネルギーの比率も10%にする。「5Gが利用されればされるほど、再生可能エネルギーの調達速度を上げる」(廣井副社長)ことが狙いだ。

  • さまざまな取り組み

    それ以外にも各種サービスでの取り組みを推進していく

さらにドコモでんき Greenでは実質再生可能エネルギーの比率を100%にすることで、モバイル/電気というユーザーの生活インフラにおけるカーボンニュートラル化を推進していく。

  • 様々な取り組みをつなぐもの
  • 「カボニュー」ワードマーク
  • こうした取り組みをユーザーの目に見える形で示そうというのが「カボニュー」プラットフォーム

これらをドコモでは「カボニュー」という愛称で提供していく考えで、削減したカーボンを見える化するプラットフォームを構築。ゲームをするようにCO2削減量を目に見えるようにして、楽しく取り組んでもらえるようにする。

  • カボニュープラットフォーム

    ゲームを楽しみながらウォーキングができるPokemon GOのようなイメージで、カーボンニュートラルの行動を目に見える形にするカボニュー

ドコモでは再生エネルギーを「可能な限り調達していきたい」(廣井副社長)という考えだが、それによりコスト負担は増す。私企業として利益成長も求められるため、両立を図りながら再生可能エネルギーの採用を進めていく考えだ。コスト増というリスク要因に対しては、環境問題への取り組みによる事業への好影響も考えられ、そうして観点から提供されるサービスに対して利用者が増えれば、利益への後押しにもつながると廣井副社長は期待しているという。

なお、現時点でドコモでんきによる電力事業への参入についてはNTT(持株会社)の発表に合わせた形で紹介されたが、詳細は検討中とのこと。「年末をめどに詳細を改めて説明する」(廣井副社長)というコメントにとどまっている。