--スパースモデリングに限らず、広い視点で教えてください。国内企業のAI導入は進んでいると思いますか

藤原氏:DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が使われ始めて久しいですが、AIの導入だけに着目しても、まだまだ部分的な最適化や特定の作業の置換にとどまっていると感じます。実は人間が作業した方が早くて簡単な部分をAIに置き換えるために、多額の資金を投入している例も少なくないと思います。

企業の視点からしますと、現在の業務プロセスを大幅にトランスフォーメーションする際にはリスクが伴います。そのため、業務の一部分だけをデジタルツールに置き換えるところに着目しがちなのだと思います。その結果、投入した投資に対してそこまで大きな変化が得られないケースが多いのではないでしょうか。

また、最近はデジタル人材不足を耳にする機会が多くなりましたね。AIエンジニアやプログラマーを増やそうという取り組みもよく見かけます。実は、私はプログラマーの不足はそれほど大きな問題だとは思っていません。デジタルネイティブな世代が成長すると、AIを使う人材もAIを作る人材も自然に増えてくると思います。

その一方で、AIを使う人材とAIを作る人材とをつないで、最新の技術を日々の業務に実装する役割の人材が今後最も不足すると思っています。両者の間を橋渡ししてくれる人材がいないと、やたら難しいアルゴリズムの話をする人とAIの仕組みがわからない決裁者が理解し合えず、ビジネスにAIを活用できない恐れがあるのです。「現在の技術ではここまでが可能で、ここからが不可能です。なので今期の課題と目標はここに設定しましょう」と翻訳してくれる人材がいた方が、ビジネスがうまくいくはずです。

AIを使う人材とAIを作る人材を橋渡ししてくれる方を増やすためには、2通りの方法が考えられます。1つ目は、データサイエンティストの中でビジネスに興味のある方が思い切ってMBAの勉強をするなど、ビジネス側に近づくというシナリオです。もう1つは、反対にビジネスに詳しい方がAIの仕組みを学ぶシナリオです。ただし、どちらにせよ座学だけで学ぶのは難しいので、実務の中で身に付けるしかありません。例えば大企業でビジネスをしていた方が、当社のようなベンチャーでエンジニアに囲まれながら修行をするのも1つの方法だと思います。

  • 「HACARUSでも修行人材を受け入れているのでぜひ参加してほしい」と話す藤原氏

--会社としての、今後の目標を教えてください

藤原氏:現在当社が主軸としている医療分野と製造分野の両事業について、さらに「深化」させていきたいと思っています。医療分野ではこれまで医師の診断を補助するツールを開発してきましたが、今後は創薬にチャレンジしたいです。例えば、細胞に化合物を投与して、細胞の外観から化合物の効き目や毒性を判断するという過程はAIが得意とする領域です。化合物のスクリーニングに必要な期間を短縮できれば、短期間で薬を開発して患者さんに届けられるはずです。

同様に製造業の分野でも、目的とする色や形の素材を開発する期間をAIで短縮できると考えています。現在は膨大な試行錯誤によって目的のゴムやプラスチックを作っていますが、AIを活用すれば短期間で素材の候補を見つけられるはずですので、医療領域に加えて製造業にもにチャレンジしていきたいですね。

そして、多くの方にスパースモデリングという手法を知ってほしいと思います。AIといえばディープラーニングしかないと思われる方が多いのではないでしょうか。ディープラーニング以外の手法もあるということを、多くの方に知っていただくのは当社にとっても世の中にとってもメリットがあるはずです。

私は日本企業とスパースモデリングは非常に相性が良いと思っています。繰り返しになりますがディープラーニングは多量のデータが必要ですので、中国やアメリカなどの人口が多い国の方が有利です。データ量で勝てないということはAIの性能で勝てないことにもつながり得るからです。また、シリコンバレーを中心に莫大な投資金のもとで日々技術革新が行われていますので、日本企業が正面から戦う必要が無いのではないでしょうか。

昔から言われるように、日本人は高性能なものを安く小さく早く作る過程が非常に得意なのだと、私も思っています。AI開発の世界でも、少ない資源を有効に活用しながら高性能な製品を作り上げるために、スパースモデリングという手法がマッチしていると信じています。そうした意味でも、ぜひたくさんの方にスパースモデリングを知っていただきたいです。

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