国立天文台(NAOJ)ならびに鹿児島大学は、国立天文台野辺山45m電波望遠鏡を使った天体観測から星の最終進化の始まりの合図を発見したことを発表した。

同成果は、鹿児島大学 天の川銀河研究センターの甘田渓大学院生、同・今井裕准教授(星間・星周物理学研究チーム チームリーダー)を中心とした国際共同研究チームによるもの。

太陽質量と同程度から8倍程度までの恒星は、進化の最終段階で赤色巨星となってガスを周囲に放出して惑星状星雲となっていくことが知られているが、この惑星状星雲は、その形状や色などがさまざまで、かつ短時間に進化することなどから、星の最終盤における惑星状星雲までの進化についてはよくわかっていなかったという。

惑星状星雲に進化する過程で、天体によってはガスを双極方向にジェットとして放出する場合があり、そのジェットの中で高速で移動する水分子から、特定の温度・密度を保ったガス塊において、輝線放射が増幅される電波放射機構であるメーザーの放射が見られる天体は「宇宙の噴水」と呼ばれ、これまで広大な宇宙から15個ほどが見つかっている。

一般的な進化末期の星では、水メーザー以外に一酸化ケイ素メーザー源が星の直近で光っており、星からのガス放出が継続していることが示されるが、宇宙の噴水天体では、これまでの観測では1つの天体「W43A」からのみ、一酸化ケイ素メーザーの検出に成功していなかったという。

  • 一酸化ケイ素メーザー

    宇宙の噴水の1つであるW43Aに付随する高速双極ジェット(青)とジェットに貫かれた星周物質(赤) (C)国立天文台 (出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

しかも、W43Aの一酸化ケイ素メーザーは現在消えてしまっており、宇宙の噴水天体の中心星近傍の情報をつかむ手がかりが失われてしまっているとのことで、星表面付近のどこからどの程度の勢いで双極ジェットが放出されるのか、数億年から数十億年の寿命を持つ星が最終進化を遂げる期間(数十万年間)のうち最も勢いのあるジェットが放出されるタイミングとその継続期間などはあまりわかっていなかったという。

そこで研究チームは今回、観測に先駆けて国立天文台の運用する野辺山45m電波望遠鏡に、水と一酸化ケイ素メーザーを同時観測できるシステムを開発して搭載。そして、同システムを用いた宇宙の噴水天体の監視観測を、2018年12月から開始。観測開始当初は、W43Aの一酸化ケイ素メーザーが復活する可能性を期待していたというが、結局消滅したままであったが、2021年3月になって、宇宙の噴水天体の1つであり、ちょうこくしつ座の方向に太陽系から約2万7000光年の距離にある「IRAS 16552-3050」で、新たに一酸化ケイ素メーザーが出現したことを確認。2011年の観測の際には確認されていなかったことから、その間に新たに出現したものと考えられるとする。

  • 一酸化ケイ素メーザー

    新たに一酸化ケイ素メーザーが検出されたIRAS 16552-3050の赤外線画像(中心の赤い天体)。中心の十字印とのその周囲の円は、野辺山45m電波望遠鏡の視野中心と視野の大きさにあたる (C)NASA/JPL-Caltech/UCLA (出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

  • 一酸化ケイ素メーザー

    2021年3月と4月に検出されたIRAS 16552-3050に付随する一酸化ケイ素メーザーの電波スペクトル。横軸は、ドップラー効果を考慮して観測周波数から換算された視線速度が表されている (C)Amada et al.(出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

消滅したW43Aの一酸化ケイ素メーザーが、ジェット噴出口にあるノズル構造に付随していたことと、このメーザーとスペクトル上での特徴が似ていることから、研究チームでは、IRAS 16552-3050から今まで確認されてきた以上の大規模ジェットの放出が始まり、その放出されたガスが元々あった星周物質を激しく貫通したことによって一酸化ケイ素メーザーが出現したと考えられるとしており、この結果は、新たに一酸化ケイ素メーザーが観測されたことは、星が新たな進化段階に入ったことを示唆するものであるとしている。

  • 一酸化ケイ素メーザー

    IRAS16552-3050のジェットとそれに付随する一酸化ケイ素メーザーガス塊のイメージ (C)木下真一郎/鹿児島大 (出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)

また、今回の観測で得られたスペクトルの分析から、一酸化ケイ素メーザー源は、一方のジェットからのみであることを確認。中心付近からガスが双極的に噴出しているのであれば、反対側に位置する一酸化ケイ素メーザー源からも放射が検出されるはずだが、今回は確認できていないとする。

これを受けて、研究チームは今後、IRAS 16552-3050の一酸化ケイ素メーザー源の正確な位置を把握するための新たな観測を計画。将来的には、野辺山45m電波望遠鏡をはじめ、国立天文台のVERA望遠鏡や東アジア諸国の電波望遠鏡を一斉動員したVLBI(超長基線電波干渉法)観測を実施し、今回検出された一酸化ケイ素メーザーの放射源が本当に南東側だけなのか、また北西側にもあるのかどうかを確認するとしている。