映像や情報を映し出すスマートグラス、いわゆるメガネ型のウェアラブルデバイスは、以前からさまざまなタイプが登場している。ただ、映像クオリティ、表示方法、機能性など多面的に見ると、まだまだ黎明期の試行錯誤な状況を抜け出せない印象だ。
一方で、音声のみの再生デバイスであるスマートグラス(メガネ型スピーカーユニット)は、最近になって急激に実用性が高まり、使い勝手のよい製品もいくつか登場してきている。ここで取り上げる「HUAWEI×GENTLE MONSTER Eyewear II」も、そんな製品のひとつだ。
HUAWEI×GENTLE MONSTER Eyewear II(以下、Eyewear II)で最大の特長といえるのが、普通のメガネ然としたデザインだろう。スマートグラスは、スピーカーユニットはもとより、デジタルシステムやバッテリーといった搭載必須のパーツが多いため、つる(テンプル)部分がやたらと大きかったりグラスを囲む部分が太かったりと、見栄えと装着感の両面から、ダテメガネ代わりに使うには少々無理があった。
しかし、ファーウェイがファッションブランドのGENTLE MONSTERとコラボレーションして作り上げたEyewear IIは、各部分の造形が大きすぎたり太すぎたりせず、メガネとして自然なデザインにまとめられている。充分、メガネ代わりに使える(少なくとも外観的には使用できる)製品に仕上がっている。IP54の防塵・防滴性能もありがたい。
Eyewear IIにはメガネタイプ(度なし透明レンズ)の「SMART KUBO」と、サングラスタイプの「SMART LANG」という2種類がラインナップされ、好みで選べる。価格はオープン、推定市場価格は2モデルとも43,780円だ。特に「SMART KUBO」は度付きレンズに交換することも可能なので、筆者のようなメガネ使用者にはありがたい限りだったりもする。重さはSMART LANGが44.2g、SMART KUBOが45.45gとそれなりだが、メガネとして極端に重いというほどでもない。
ちなみに、SMART KUBOとSMART LANGでは、わずかにディテールが違う。ポイントはレンズおよびレンズまわりのフレーム部分で、SMART LANGはレンズが円形でなくつるの部分に向かって細く伸びているほか、フレームとレンズの間に段差のないデザインとなっている。代わりに、裏側はSMART LANGのほうが枠が太い。一方でSMART KUBOはオーソドックスな作りだ。
付属する専用ケースもユニーク。表面にフェイクレザーがあしらわれた長方形デザインの専用ケースは、上下が硬く、しっかりと製品を保護してくれる。ケース背面にはUSB Type-Cコネクタが配置されていて、Eyewear IIをケース内部に置くことで充電される仕組みだ。
バッテリー持続時間は音楽再生時で最大5時間、音声通話時(ノイズキャンセリング付き)で最大3.5時間と、不便のないスペックを持ちあわせている。IP54の防塵防滴性能を確保し、装着センサーも搭載。対応するBluetoothコーデックは明記されていないが、手元のAndroidスマートフォン、Xiaomi「Mi 11 Lite 5G」とのペアリングでは、AACで接続できた。
つるの部分には、タップ、ピンチ、スワイプという3つの操作を検知するセンサーがあり、さまざまな操作が可能となっているのはうれしいポイント。また、スマートフォン用アプリ「HUAWEi AI Life」からは操作のカスタマイズやマイク録音ができるなど、スマートウェアとしてもなかなか便利に使える。
スピーカーユニットについては、つるの部分、耳の近くに位置する場所に長方形のダイナック型ドライバーが搭載されている。指向性ユニットであることに加えて、デジタルシステムによって逆位相の音波を生成することで、音漏れを抑制するシステムを作り上げている。また、環境音を検出して音量を自動調整してくれる「アダプティブサウンドコントロール」も用意されている。こちらは、外出時に重宝しそうだ。
メガネとして全く違和感のない装着感に加えて、大いに興味が惹かれたのがサウンドの良好さだ。こういった製品は機能性が重視するあまり“音楽リスニングには使いたくない”レベルのものが多いが、「Eyewear II」は充分に音楽鑑賞を楽しめるクオリティが確保されている。
ひとことで表現するならば、フルレンジらしい自然な音色。ヴォーカルなどの中域にフォーカスした帯域バランスで、男性ヴォーカルも女性ヴォーカルもクリアでのびのびとしたクリアな歌声を聴かせてくれる。声の特徴もしっかり伝わってくるので、ヴォーカリストそれぞれの声の魅力がしっかり伝わってくる。よく聴いてみるとほんの少し鼻にかかった歌声にも聴こえるが、大人っぽい雰囲気もあって、これはこれで好ましい。おかげで、YOASOBIや坂本真綾が通りのよい魅力的な歌声を楽しませてくれた。
Jポップだけでなく、クラシックやハードロックもそつなくこなしてくれる音楽ジャンルを選ばない懐の深さもいい。唯一、構造上低域が(カナル型イヤホンなどに比べると)細いのが気になるが、このあたりはBGM的リスニングメインのイヤホンだと割り切れば、そのうち(中域の良質さに気を取られて)不満は薄れていきそうだ。
もうひとつ、スマートグラス最大の弱点といえる音漏れについては、かなり改善されているものの、どうしても漏れてしまう傾向はある。ただ既存のスマートグラスの中では1~2を争う少なさで、どちらかというと良質な骨伝導イヤホンに近いレベルだが、それでも音漏れが生じているのは事実。電車内など人の多い場所では使用を控えるか、音量を大きく下げることをオススメする。繁華街などの屋外であれば音量半分以下を心がければ問題ないだろう。
余談になるが、Mi 11 Lite 5Gの最大音量だと音が割れてしまうこともあった。大音量での利用はそもそもオススメできない印象だ。
このように、Eyewear IIは装着感と音質の両面からとてもデキのよい製品だと思う。正直、SMART KUBOを購入して度付きレンズに交換し、普段使いに利用するか大いに悩んでいるくらい、魅力的な製品だと断言しよう。