7月13日、米マイクロソフトとNECが、戦略的パートナーシップを拡大すると発表した。

NECは、Microsoft Azureを「優先クラウドプラットフォーム」として採用し、社内変革に活用するとともに、顧客の持続的なDXの推進やビジネスモデルの変革、パンデミック後のニューノーマル時代を見据えたデジタルワークプレイスの構築に向けて、ソリューションを強化する考えを示した。

マイクロソフトのMicrosoft AzureやMicrosoft 365と、NECが持つ5G技術をはじめとしたIT、ネットワークの知見を活用するほか、両社のAIやIoTソリューションを活用することで、デジタルワークプレイスの実現や、企業および公共機関へのクラウド導入、DXの加速、企業の事業成長を支援するという。

  • マイクロソフトコーポレーション 会長 兼 CEO サティア・ナデラ氏(右)とNEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田隆之氏(左)

NECは、2020年11月に、米AWSと日本初となるコーポレートレベルの戦略的協業を締結していたが、今回のパートナーシップによって、NECがAzureを優先クラウドプラットフォームに位置づけて優先的に活用。さらに、NECが得意とする公共分野での協業を推進することができ、日本マイクロソフトにとっては、この分野で先行するAWSを追随する体制が整うことになる。NECでは、マイクロソフト技術に特化したデジタル関連人材を、グループ内に倍増させる考えも示している。 両社では、今回のパートナーシップは、40年以上に渡る協業をもとにしたものと位置づけており、複数年におよぶ戦略的な契約内容となっている。

戦略的パートナーシップの3つの内容

今回の戦略的パートナーシップの内容は、いくつかにわけてみることができる。

ひとつめは、NECの次世代デジタルワークプレイスの実現に向けた協業だ。

両社の協力を通じて、NECのオンプレミスのIT環境をAzureに移行。NECのデジタルワークプレイスによるイノベーション創出や従業員の働き方改革を加速するという。Azure Virtual Desktopやその他のAzureサービスを、NECグループ11万人の従業員に展開する。

NECでは、これまでにもMicrosoft 365プラットフォームを活用しており、これをベースに働き方改革に取り組んできた経緯があるが、新たな環境によって、これまで以上にセキュアで、堅牢な環境が実現する。ここでは、5Gなどによる高速、低遅延のデータ接続により、高パフォーマンスのネットワークエクスペリエンスも実現する。

さらに、この成果をデジタルワークプレイスとして、日本およびグローバルの企業、公共機関に提供し、業務遂行力を最大限引き出し、よりパーソナライズされたワークスタイルを確立。クラウドマイグレーションを加速させる。

2つめは、マイクロソフトのインテリジェントエッジソリューションや、NECのローカル5Gネットワーク技術などのアセットを活用して、様々な業種の企業におけるDXを共同で支援する点だ。

たとえば、小売業では、AIで顧客の取引データをリアルタイムに分析することで、購買パターンの理解促進や業務効率の向上、新たな市場機会の創出につなげるほか、IoT技術などを組み合わせて来店客のカスタマーエクスペリエンス(CX)を強化し、店舗において、よりセキュアな運用や保守を実現する。

日本マイクロソフトでは、製造業や流通業などを対象にインダストリーリファレンスアーキテクチャーを提供し、業種ごとのDXの推進を支援してきたが、今回のNECとのパートナーシップをもとに、NECが持つローカル5Gをはじめとするネットワークの知見、生体認証やAIを取り組むことができ、これまで弱かった部分を補完できる。

日本マイクロソフトは、2021年7月から同社新年度をスタートし、その重点課題のひとつにインダストリーDXを掲げている。ここにも今回の戦略的パートナーシップが生かされることになる。

そして3点目が、企業や公共機関向けに、Microsoft Azure上で構築されるネットワークイノベーションへの取り組みを推進することだ。

日本マイクロソフトからみれば、NECとの関係は、販売パートナーとしての側面が強かったが、今後は、両社の技術や知見を持ち寄ることで、イノベーションを創出するための協業を加速し、各業界に向けた新たなソリューションの創出などにもつなげることになる。ここでは、ネットワーク、AI、生体認証などが鍵になりそうだ。

Azureを「優先クラウドプラットフォーム」に

今回の戦略的パートナーシップにおいて注目されるのが、NECがMicrosoft Azureを「優先クラウドプラットフォーム」として選択したことだ。

マイクロソフトは、グローバルに同様の提案を行っており、日本国内においては、すでにNTTが、自社のグローバルITインフラの最新化や、ハイブリッドITマネジメントプラットフォームの分野における顧客ソリューションにおいて、Microsoft Azureを「望ましいクラウドプラットフォーム」として選択している。これは同じプログラムによるものだ。

これまでは、Microsoft 365などのSaaSでは、両社には強い協力関係があったが、今後は、IaaSの領域においても、Azureを積極的に活用するという点で、大きく踏み込んだ関係となる。まずは、社内実装からの取り組みになるが、これを様々な業界に向けて広く展開していくことになる。今後、優先クラウドプラットフォームに位置づけたMicrosoft Azure上でのソリューション提案が増加するのは明らかであり、国内のクラウド市場の勢力図にも影響を及ぼす可能性が高い。

また、これにあわせて、NECは人材強化にも乗り出す。

NECでは、日本マイクロソフトが提供するクラウド&AI人材育成プログラムなどを活用することで、マイクロソフトの技術に特化したデジタル関連人材を倍増させることになる。NECグループのAWS認定資格保有者は、現在、1500人。これを今後3年間で新たに1500人増加させ、3000人体制を目指している。Azureの技術者は数100人規模であり、その差は大きいが、本腰を入れて増員を図る姿勢をみせたともいえる。さらに、NECのエンジニアが、米マイクロソフト本社のエンジニアと、直接連携する体制も構築されることになる。ここにも、NECがAzureに対して本気で取り組んでいく姿勢が見られる。

公共分野の強化も狙いの1つ

さらに、今回のニュースリリースのなかでは、「公共機関」という文字を何度も使用していることからもわかるように、日本マイクロソフトが昨年度から重点分野のひとつに掲げている公共分野における協業の成果も見逃せない。

総務省による第二期政府共通プラットフォームをAWSが獲得し、GIGAスクール構想でもChromebookにトップシェアを譲るなど、日本マイクロソフトの公共分野における今後の巻き返しが注目されるなかで、ここに多くの実績を持つNECとのパートナーシップは、まさに「切り札」になる。デジタル庁の創設によって、今後、公共分野のデジタル化は一気に推進するとみられるなかで、今回の戦略的パートナーシップが持つ意味は大きい。

そして、日本マイクロソフトにとっては、ネットワーク領域のノウハウを活用した提案が加速できる土壌を得たともいえる。各インダストリーに向けたDXの提案には、ローカル5Gなどの最新ネットワーク技術の活用が不可欠であり、これを日本だけでなく、グローバルに展開することも可能だ。

今回の戦略的パートナーシップについて、米マイクロソフトのサティア・ナデラ会長兼CEOは、「日本は重要な市場であり、NECとは長年にパートナーシップがある。今後数年に渡るNECとの戦略的パートナーシップにより、企業や公共機関に対するDXを加速させるために、Microsoft AzureとMicrosoft 365のパワー、NECのサービスやインフラに関する専門知識を組み合わせることができる」とコメント。

日本マイクロソフト 代表取締役 社長 吉田仁志氏

日本マイクロソフトの吉田仁志社長は、「このパートナーシップには、日本の産業界を変革させるという大義がある。日本の再生をNECとともに進めたいと考えている。また、日本を含めたグローバルでの戦略的パートナーシップを目指している」と前置きし、「DXは、デジタル化やシステムの刷新だけでなく、ビジネスモデルの変革を含むものであり、3つの要素が必要である。ひとつめは断捨離。本当になくすこと、人に託すこと、技術に託すことである。2つめは儲かる仕組みづくりにすること、イノベーションを起こしやすくすることである。そして、3つめが素早い決断である。早く決めて、速くやる。社会や市場の変化に遅れることなく、素早く変革し続ける能力を身につけることが重要であり、ビジネスモデルを変え続けることが大切である。マイクロソフト自身のDXでの学びを共有し、NECとともにお客様に寄り添い、支援をしていきたい」と述べた。

また、NECの森田隆之社長兼CEOは、「NECはマイクロソフトがパートナーシップを結んだのは、NECが初のパーソナルコンピュータを発売した1979年にさかのぼる。NECのパーパスと、マイクロソフトのミッションには通じるところがあり、両社の協業は自然の成り行きである。持続性のあるデジタル社会の創出に貢献できる。そして、今回の協業は重要なマイルストーンになる」としたほか、「Azureは、デジタルワークプレイスの実現に最適なフラットフォームであり、新たな働き方やビジネスプロセスの変革をサポートする。今回の戦略的パートナーシップにより、NECは、マイクロソフトのテクノロジーを活用することができ、NEC独自の働き方改革に初めて取り組むことができる。そして、今回のテクノロジーへの投資が企業や公共機関のDXを成功に導くことにつながる。世界中の企業をサポートしたい」と述べた。