乃村工藝社は今年3月に本社ビルに隣接する台場ガーデンシティ(東京都港区)内に新オフィスをオープンした。新オフィスはスタッフ間コミュニケーションの活性化や、多様な働き方および価値観を生かし、さらなるクリエイティビティの発揮を目的としており、ニューノーマル時代のコミュニケーションを誘発するオフィス空間に関する実験を開始しているという。同社が報道関係者向けに新オフィスの内覧会を開催したので、その模様を紹介しよう。

  • ユニークパークをコンセプトにしたという「RESET SPACE_2」フロアの入口

同社によると、企業の持続的な成長には「どのような時代にも対応できる柔軟さをもったオフィス」を資産として持ちながら、「経営理念・提供価値を会社と社員が一体となって実現」し「社会に新たな価値を生み出しつづけるために発想・共創」する場が重要であるという。そのためには、出社機会が減少するであろうニューノーマル時代において、オフィスの機能は「仕事場」から、多様な人財/人材が集まり偶発的な出逢いや意見を活発にかわしあう「コミュニケーションを誘発させるイノベーティブな空間」に変わっていくと同社は考えている。

  • 「RESET SPACE_2」はフロアの壁一面にStefan Marx氏のユニークなキャラクターがあしらわれている

新オフィスの設立は、2019年に本社ビル隣の建物のテナントが空いたことを機に、グループ会社を集約する計画から始まった。部門横断型で多様な職種からメンバーを招集し、ボトムアップ型で社員が経営層に提案する手法でプロジェクトが進められ、最終的には100人近くが参加した。

会議室フロアはconferium(conference + -rium)をテーマにしており、アクアリウムやテラリウムのように、あえて会議室内の様子が外から見えるように設計している。部屋によって椅子や机の高さが異なっており、目線が変わることによる個性的なコミュニケーションを狙っている。

  • 会議室フロアのコンセプト  資料:乃村工藝社

会議室の窓にはクローキングフィルムが貼られており、会議中の画面が見えないようになっている。会議中の社員の様子は外から見えるが、プレゼンテーション資料や会議資料は見られないよう、工夫されているのだ。

  • 画面にはプレゼン資料が投影されているが、窓の外からは見えない

プレゼンテーションに特化した会議室では、円形状に椅子を配置することで、オンライン会議の際にカメラに一堂に映るように工夫されている。さらに、椅子を高くすることで、参加者はプレゼンターと目線が合うように設計したという。会議中の反響音を気にせず会議に集中できるよう、壁は吸音材で作られている。

  • 椅子の高さはプレゼンターの目線に合わせて設計されている

「RESET SPACE_2」は、ユニークパークをコンセプトに設計されたコミュニケーションスペースで、すべての社員が自由に使える場所として作られた。社員を健康的な食習慣に導く「ウェルビーイング」と、100%フェアウッドの導入などの「サステナビリティ」もテーマとして取り入れているという。

  • 「食」に着目した空間は、キッチンをモチーフにしたタイルで統一されている

フロア内には9台の自動販売機が設置されているが、そのうちの一部は同社が保有しており、販売する物品も社員同士が自由に決められるという。

  • お酒の自動販売機も導入している(取材日時点では新型コロナウイルス感染症の影響により販売を中止している)

UNIQUE/FOOD/SELECTIONは、「料理をする人は、料理をしない人に比べて長生きする傾向がある」という先行研究を基に設置された。「能動的な食体験を習慣化することで、 人々を健康的な食習慣へと導くことができるのではないか」と仮説を立て、各社員が自身の個性に合わせたオリジナル定食を作れるよう設計したとのこと。

  • その日の気分や天気、体調に合わせて調理できるスペース「UNIQUE/FOOD/SELECTION」

ユニーク・ピーポー・セレクションには、人が展示されている。個人の展示物を用意するのではなく、展示されている社員がこのエリアで仕事をしていることにより、立ち寄った人とのコミュニケーションが生まれることを狙っているという。「自分よりもユニークな人」を次の人に指名することで、社員を数珠つなぎに紹介していく仕組みとなっている。

  • 週替わりでユニークな社員が展示されるという

仕事用のデスクとして目立つのは、漫画テーブルだ。同社の社是にのっとった、さまざまな漫画の名シーンや名セリフを展示しているという。そのほかにも、模型を作りながらの打ち合わせに特化した製図ボードテーブルや、開発から竣工までの仕事の流れをすごろくで再現したオリジナルのテーブルなど、ユニークなデザインのテーブルが並んでいる。

  • デザイン担当社員が選んだ漫画の名シーンが展示されているとのこと

執務室フロアは、空間デザインを行う際に強みとなるよう、「デザインの実感」を意識したデザインになっている。異なる素材を組み合わせて作られたデスクは、1メートル四方で統一されており、デザインの実感が得られるという。また、さまざまな色温度でのデザインの見え方が確認できるよう、場所によって色温度の異なる照明が設置されている。

  • 異なる色温度の照明を設置することで、明確にデザインをイメージできるという

同社は今後のオフィス設計について、コミュニケーションを誘発するイノベーティブな空間をテーマにしているとのこと。事業統括本部 プランニング統括部 新領域創発部 第1ルーム ルームチーフの乃村隆介氏は「オフィスを、会社内だけでなく社外のスタッフや地域住民など、社会と接点が持てる場所にしていきたい。不確実なこれからの時代に、遊ぶように働く、インスピレーションを生む場所が大事」と語っていた。

  • 乃村工藝社 事業統括本部 プランニング統括部 新領域創発部 第1ルーム ルームチーフ乃村隆介氏(画像中央)