インテル日本法人が6月23日、同社の最新の取り組みを説明する記者向け定例会見を開催した。同社の鈴木国正社長は、IT・デジタルの広範な分野で課題が噴出している日本国内の状況を「デジタル後進国と言わざるをえない」と指摘し、危機感をあらわにした。その上で、インテルが課題解決に向け支援に乗り出す方針であることを説明した。

  • 日本は「デジタル後進国と言わざるをえない」、インテルが国内教育支援へ推進力

    インテル 代表取締役社長 鈴木国正氏。会見はオンラインで行われた。デジタル化が社会課題になっていることを指摘

最早、「デジタル」で日本が出遅れていることは明らかだ。このことが、経済活動だけでなく、生活や安全にまで悪影響を及しかねないという認識も、ようやく社会的にひろがってきた。鈴木社長は、スイス国際経営開発研究所(IDM)が発表した2020年の世界デジタル競争力ランキングを示し、「日本は残念ながら世界27位で、しかも年々落ちている。いずれにせよ、競争力は失われている。アジアで見ても遅れをとっている。日本はもうデジタル後進国と言わざるをえない」と、この現状への危機感を強い言葉で語っている。

  • もう日本のデジタル競争力はかなり低い。これでも未だにこの課題と真剣に向き合わない傾向は残っているように感じる。ハンコ騒動も写真を撮ると魂を抜かれるみたいな真剣な話だったのかもしれない

対してインテルでは、いわゆる「DX」と、DXをよりデータ中心に考え発展させた「DcX」(データ・セントリック・トランスフォーメーション)を推し進める方針で国内企業のビジネス支援に取り組むという。DcXの国内事例として、カメラ・エッジ機器から集めたデータを分析し、来場者対応やCOVID-19感染症対策に活かす千葉市動物公園や、公用車に積んだ車載型エッジAIで、沿道情報を可視化して都市環境づくりに活かす横須賀市の事例を紹介した。

  • 千葉市動物公園の事例

  • 横須賀市の沿道情報センシングシステムの事例

そして、デジタル後進国という状況で、そもそも全体でも労働者人口の不足が進むなかで、高度テクノロジ人材の不足が深刻化することも恐れられている。例えば既にサイバーセキュリティ人材の不足は顕在化しているそうで、急増するサイバー攻撃への対策に対応できるIT人材の育成は火急の事態だとされる。将来の人材育成も見据え、インテルでは国内教育市場への取り組みを積極的に進める方針だ。

  • サイバーセキュリティの人材不足は既に深刻な問題に

同社の国内教育市場への取り組みは、GIGAスクール、STEAM教育、教育向けDcX導入の3点への支援活動が軸となるそうだ。STEAM教育とは、学校でSteam PCを用意してeスポーツをしようとかそういう話ではなく、創造的教育を目指し科学、技術、工学、数学を横断して学習する「STEM教育」に、さらに人文科学や芸術などリベラルアーツを加えた新しい教育手法だ。Science、Technology、Engineering、Arts、Mathematicsの頭文字をとって「STEAM」と呼んでいる。

  • インテル教育支援の3本柱、GIGAスクール、STEAM教育、教育向けDcX

STEAM支援は高度テクノロジ人材の育成に向けた教育環境を整えるというもので、インテルは戸田市において具体的な教育環境構築の実証研究を開始しているほか、学習カリキュラムと教員研修を統合した教育実践用フレームワークを提供するプロジェクトも進めているという。協働パートナーとともに、日本全国の学校/教育機関向けにSTEAM教育導入を推進、支援していく考えだという。

  • STEAM教育の導入支援のプロジェクトが走っている

米Intelは今年のはじめに体制を刷新し、Intelを離れていた技術畑出身のPat Gelsinger (パット・ゲルシンガー)氏が出戻るかたちで新CEOに就任している。先端半導体の製造の立ち上げでつまづいていた同社は、新CEOがさっそく打ち出した新戦略「IDM 2.0」に基づき半導体製造の戦略を大転換、失地回復に精力的に取り組んでいる。IDM 2.0でIntelは自社製品を製造する自社ファブだけでなく、外部ファウンドリというかTSMCへの製造委託、さらに独立した事業部としてファウンドリサービスまで開始する。この春には新工場建設へ200億ドル規模の莫大な投資を発表するなど、製造への回帰が著しい。

  • 当時はファブレス化のうわさすら流れていた中で打ち出された「IDM 2.0」。やはり「真の男はファブを持つ」のか

日本のデジタルは遅れたが、鈴木社長は「後進国」と言いつつも、「半導体製造のサプライチェーンの構築で、日本は重要」と述べている。、シリコンウェハやフォトレジスタなどは有名だが、半導体製造にかかせない素材や装置で高いシェアを握っている日本企業の存在を紹介し、「サプライチェーンのなかで、いかに日本企業が半導体をささえているか」は見るべきだとする。日本が先進国に戻るチャンスが残っているうちに、それを託される次の世代への教育充実は急務だ。