情報通信研究機構(NICT)は6月21日、研究開発用の標準外径(0.125mm)4コア光ファイバーを用いて、波長多重技術と2種類の光増幅方式を駆使した伝送システムを構築し、319Tbpsにて3001kmの伝送実験に成功したことを発表した。
同成果は、NICT ネットワーク研究所のベンジャミン・パットナム主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、6月6日から11日までオンライン開催された「第43回光ファイバー通信国際会議(OFC2021)」において発表され、最優秀ホットトピック論文の評価を受けた。
現在の光通信で使用されている光ファイバーは、外径0.125mmのシングルコア・シングルモードファイバが主流だが、その伝送容量は100~150Tbps程度が限界と考えられている。そこで、マルチコアファイバや、マルチモード・マルチコアファイバなどの次世代光ファイバーに関する研究が進められている。
NICTでは新型光ファイバーに関する研究も積極的に進めてきており、従来の「波長多重技術」では新型光ファイバーを利用するに当たって、伝送距離などの観点から利用できる波長数が限られていることが課題であることを認識し、研究開発用途として市販されている標準外径の4コア光ファイバーを用いて、新たな伝送システムの研究開発を進めてきたという。
今回は、C帯、L帯に加え、従来は伝送距離の問題から利用が難しかったS帯も用いて広帯域化することで、552波長多重と「16QAM変調方式」により、319Tbpsの大容量伝送を実現したという。
さらに、今回は希土類添加ファイバを使った増幅器を採用したこともポイントの1つだという。具体的には、エルビウム(Er3+)やツリウム(Tm3+)などの希土類イオンを少量、光ファイバーの母材に添加することで、大パワーの励起光の照射によって、より長波長の信号光の増幅現象が生じることを利用したものであり、これにより光ファイバー通信の大幅な長距離化が実現されたとしている。
加えて光ファイバーの材料であるガラス素材における「誘導ラマン散乱」を利用した光信号増幅方式のことである「ラマン増幅」を組み合わせた周回ループ実験系を構築したことも、3001kmの長距離伝送に成功した理由の1つだとしている。
標準外径光ファイバーーは、実際に敷設するケーブル化の際に、既存の設備を流用することが可能で、大容量長距離基幹系通信システムの早期実用化が期待できるという。Beyond 5G以降では、新たなサービスなどが現れてくることも考えられ、これまで以上に爆発的ともいえる通信量の増加も予想されている。今回の成果に対してパットナム主任研究員らは、Beyond 5G以降における多くの新しいサービスの普及を支える基幹系通信システムの実現に貢献するものだとしている。
なお今後は、伝送距離やネットワーク構成が異なる光通信システムにおいて、早期実用化が期待できる標準外径新型光ファイバーを利用したさまざまな実装形態を可能とするため、さらなる伝送能力の向上を目指し、将来の大容量光伝送技術の基盤を確立していきたいとしている。