名古屋大学(名大)は6月17日、気管支鏡などの内視鏡検査の際に患者が装着することにより、検査時の飛沫拡散を防止するマスクの共同開発をマスクメーカーとの産学連携事業で実施したことを発表した。また合わせて、スズケンより「Kenz e-mask」として2021年11月に発売予定であることも発表された。

同成果は、名大大学院 医学系研究科 呼吸器内科学の安井裕智大学院生(研究当時)、名大医学部 附属病院呼吸器内科の岡地祥太郎病院助教、名大医学部の深津紀晩大学生、名大高等研究院・JST創発的研究支援事業採択研究者・JST科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業次世代研究者育成プログラム対象助教・文部科学省研究大学強化促進事業;最先端イメージング分析センター/医工連携ユニット907プロジェクト(B3ユニット:若手新分野創成研究ユニット)・名大医学部 医学系研究科 呼吸器内科学の佐藤和秀S-YLC特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国胸部学会の学会誌である「American Journal of Respiratory and Critical Care Modicine」にオンライン掲載された。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐために多くの人がマスクの着用をするようになったが、病気の治療や検査などで、口を開けなければならないときはマスクを外す必要がある。例えば、肺がんをはじめとする呼吸器疾患の診断や治療に重要な検査である「気管支鏡検査」の場合、気道に内視鏡を挿入して行う検査のため、患者は咳き込みやすく、飛沫やエアロゾルが発生しやすい状況になるという。

そのため現状は、内視鏡を挿入するようなときは、患者が新型コロナに感染している・していないに関わらず、医療従事者は接触・飛沫予防策(眼の防護具、長袖ガウンなど)やN95マスクまたはそれと同等のマスクなどを活用することによる予防策が推奨されている。

しかし、医療従事者側がそれだけの防護対策を行っていたとしても、患者の咳き込みによって生じた飛沫が空中へ拡散された場合、医療機器や部屋そのものの汚染につながることが考えられ、結果として感染リスクの上昇につながってしまう懸念が生じるという。

こうした背景を受け、研究チームは名古屋に本社のあるマスクメーカーとともに、気管支鏡検査においても患者の飛沫発生を防止できるマスクを共同開発。同マスクは、低コストで患者も使い慣れた不織布製サージカルマスクがもととなっているという。

このマスクの特徴は、折り目を工夫することで、内視鏡や吸引チューブを通す切れ込みを、適切な位置・サイズとしてあらかじめ設けている点で、必要なときにすぐ使うことができ、終了後はそのまま廃棄できる簡便さも備えるという。

  • 新型コロナ

    今回のマスクのポイントは、内視鏡と吸引カテーテル用の孔があらかじめ設けられている点で、なおかつ廃棄も簡単に行える (出所:名大プレスリリースPDF)

実際にマスクの飛沫防止効果の可視化実験が行われた結果、同マスクを着用(内視鏡や吸引チューブを通した状態)しているときは、そうでないときと比べて仰臥位(仰向け、気管支鏡を想定)、側位(横向き、上部消化管内視鏡を想定)、座位(鼻咽頭検査を想定)のいずれでも飛沫が飛ぶことを防ぐ効果があることが確認されたという。

また、マスクを使って気管支鏡を行う場合の操作や患者への影響についての確認もマネキンを使用して実施。マスクを使用しても検査時間に影響がないことが示され、現在は、実際に患者にマスクをつけてもらった上で気管支鏡検査を行う臨床試験も終了し、その結果の解析が行われている段階にあるという。研究チームでは今後、これらをまとめて論文として公表する予定としているほか、今回の結果を踏まえたガイドラインの策定に向けた情報発信などもしていきたいとしている。

  • 新型コロナ

    マネキンを使用した従来の気管支鏡検査風景(左)と、今回開発されたマスクを装着した気管支鏡検査風景(右) (出所:名大プレスリリースPDF)