東京女子医科大学(東京女子医大)の研究チームは6月18日、自閉スペクトラム症の発症を制御する生後発達臨界期における抑制回路機構を明らかにしたことを発表した。

同研究は、東京女子医科大学 医学部 神経生理学講座 講師の三好悟一博士、同植田禎史 助教、同平賀孔 博士研究員、同尾崎弘展 助教、同矢ケ崎有希 助教、同宮田麻理子 教授、東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野 夏堀晃世 主席研究員、東京大学 大学院薬学系研究科 岸雄介 講師、群馬大学 大学院医学系研究科 柳川右千夫 教授、ハーバード大学ブロード研究所 Gord Fishell 教授、ニューヨーク大学医学部 Robert Machold助教によるもの。詳細は、学術雑誌「Nature Communications」に6月18日付で掲載された。

今回の研究は、50~100人に1人の子供に発症するといわれている自閉スペクトラム症の発症を左右する発達期や、どのような回路機構により発症するのかを明らかにする目的で行われたもので、自閉スペクトラム症患者のゲノムでの制御異常が報告されている「FOXG1因子」に着目して研究が進められたとしている。

近年の研究から、FOXG1変異によるコピー数の増加(遺伝子重複)・減少(ハプロ不全)のいずれの場合も希少疾患である「FOXG1症候群」を発症することがわかってきたという。

FOXG1症候群は、本来ならば2コピーあるFOXG1遺伝子に変異や重複かが生じ、1コピーに減っても、3コピー以上に増えても発症するのが特徴で、自閉スペクトラム症、小頭症、てんかんなどの症状がみられることが知られている。

同研究では、時期および回路特異的にFoxG1因子を操作したモデルマウスを新たに開発し、マウスにおいても、ヒトと同じくFoxG1の増加・減少いずれのケースも自閉症様表現型である社会性行動の異常や、患者と同様の脳波異常が現れることを確認。

そして、生後2週間目の正常なFoxG1の制御および回路興奮抑制バランスによって、皮質回路や社会性行動が形成されることがわかったという。

また、この時期にみられる正常な抑制回路の発達が、自閉症様表現型を防ぐために必要であり、FoxG1モデルマウスにおいて生後2週間目より前に抑制系を弱めると自閉症様表現型の症状が悪化し、逆に抑制系を強めると症状が回復し治療効果が現れることを確認したという。

  • 臨界期のグラフ

    臨界期前の抑制系への介入では、社会性のスコアリングが改善したが、臨界期を過ぎた3週目の介入では、改善がみられなかったという(図表の提供: 東京女子医科大学 医学部 神経生理学講座 講師の三好悟一博士)

生後2週目を過ぎてから抑制系に介入を行っても症状の回復は見られなかったことから、生後2週目が発症の臨界期であることが確認されたという。

研究チームは、今回の研究で新たに自閉スペクトラム症モデルと治療モデルを確認できたことから、今後は自閉スペクトラム発症の臨界期機構の詳細を明らかにすることで、医療シーズの提案を目指すとしている。

また、研究チームの三好博士FOXG1症候群の家族会の運営サポートも行っている。 FOXG1症候群は、現在世界で600家族以上、国内家族会では17家族が見つかっているが、近年の遺伝子検査の普及により急激に患者数が増えており、多くの潜在的な患者がいると考えられているという。 また、症状が似ていることから遺伝子検査をしないままレット症候群様と診断されるケースなどもあるという。

まだまだ希少疾患ゆえに情報が少ないことを受けて、家族や医療関係者の間での情報交換や治療、研究への働きかけの場として家族会が立ちあげられたとのことだ。

三好博士は、こうした家族会へのサポートを通じて、FOXG1症候群の社会への認知拡大を進めていくことで、より多くの人にその症状の理解の促進を図っていきたいとしているほか、国による指定難病への追加に向けた働きかけなどにつなげていきたいとしている。

家族会では、患者家族同士の情報交換や治療や研究への働きかけの活動を行っており、家族会のWebサイトでは、患者と家族のこれまでがわかる「みんなのストーリー」やFOXG1 についての情報などの共有が行われている。

  • 家族会のWebサイト

    家族会のWebサイト