新型コロナウイルスの影響により、私たちの働き方は大きく変化しました。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)の浸透も従業員の「働く」環境を変えつつあります。

このように変質する時代において、「企業は人材をどのようにマネジメントしていくべきか、そこで必要なものは何か」について、HRエグゼクティブコンソーシアムの代表である楠田祐氏、そして米オラクル・コーポレーション HCM製品開発 製品ストラテジー シニアディレクターである横井クリスティーヌ由美子氏が対談しました。以下、その内容を紹介します。

楠田 祐氏

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表 東証一部エレクトロニクス関連企業を経て、ベンチャー企業社長を経験後、中央大学ビジネススクール客員教授(MBA)を7年務める。2017年より現職。専門は人事部門の役割と人事の人たちのキャリアにおける研究

横井クリスティーヌ由美子氏

米オラクル・コーポレーション HCM 製品開発 製品ストラテジー シニアディレクター 製品戦略の策定と製品ポジショニングの専門知識を持つソフトウェアアプリケーションのプロフェッショナル。Oracle Cloud HCM製品の市場や顧客の需要を分析して将来の製品の方向性を導き、ドメインの専門知識とソフトウェア開発の経験を生かして製品ビジョンを提示する。ニューヨーク在住。

非正規社員やギグワーカーも含めてマネジメントすべき時代

--初めに、ビジネスや人事を取り巻く現状について教えてください--

横井氏: ディスラプションという言葉でよく説明していますが、変化のスピードが増して、ビジネスや人事にもさまざまな影響が生じています。例えば、従来はなかった仕事が生まれているほか、仕事で求められるスキルも変わってきている。こうしたダイナミックな変化があります。

それと関連して、派遣社員や臨時社員、あるいは最近よく言われるギグワーカーなど、正社員やパートとは異なる働き方が広まっています。こうした変化も仕事を変えているし、フレキシブルな組織が求められる要因になっています。

楠田氏: 日本では雇用されている人たちの40%が非正規社員であり、現在はギグワーカーも増加しています。こうした正社員ではない人たちについても、タレント・マネジメントのシステムを使ってきちんと育成していく、そうした思想がアメリカだけでなく日本でも広がってきていると思います。

横井氏: テクノロジーも大きなトレンドです。テクノロジーが企業の至る所で使われるようになり、それが仕事に大きな影響を及ぼしています。その一例がAIで、ワークプレイスの中にAIが組み込まれ、AIの役割が拡大し、それがデジタル化を促して仕事の性質を変えていくという形です。

楠田氏: テクノロジーの観点において現在最も重要なことは、自社の事業にDXをどう実装するかです。ただ日本企業に対してアンケートを実施すると、DXを「実施中」あるいは「実施に向けて検討していると回答するのは約半数で、残り半分は情報収集の段階で止まっていたり、まったく取り組みを行っていなかったりという回答になります。

一方、アメリカでは85%の企業がDXを「実施中」あるいは「実施に向けて検討中」という状況です。おそらく、中国も多くの企業がDXを実装し始めている。このように見ると、日本は先進国の中でもDXの実装が遅れていて、「DX=ペーパーレス」と思っている経営者も少なくない。この差を埋めるためにも、本当にDXをやっていかなければならないと改めて感じています。

アフターコロナに向けて人事部が考えるべきこと

横井氏: トレンドという観点では、新型コロナウイルスも避けて通れません。2020年は多くの企業が新型コロナウイルスの影響を受けましたが、今後もこうした事態に対処していくことが求められるでしょう。感染に歯止めがかかり、オフィスに戻ることが可能になったとしても、オフィスワークとテレワークが混在した働き方が今後も続くと思われます。こうしたことに対処しつつ、長期的なスパンで従業員の働き方を考えていかなければなりません。

こうした中、従業員のエクスペリエンスを高めることも大きなテーマです。従業員と人事・企業側とのタッチポイントとなる入社後のトレーニングやさまざまな業務の中で、従業員にどのようなガイダンスを与えるか、どのようなアクションを促すか、どのようなサポートをするか。それぞれの場面やイベントごとに、テクノロジーを駆使して従業員のエクスペリエンスを高めていくことが、クローズアップされています。

楠田氏: まさにアメリカでは、エンプロイー・ジャーニーという言葉が広まりつつあります。入社してから退職するまでを指す言葉であり、その一連の流れをシステムを使ってきちんと見ていくことの重要性が認識されつつあります。

そうしたタレント・マネジメント・システムは、自社の存在価値、いわゆるパーパス(目的)を早く浸透させる上で有効だと言われています。さらに、タレント・マネジメント・システムを使うことでさまざまなデータを取得できるようになります。この目的とそれを浸透させるためのカルチャーおよびテクノロジー、そしてデータをうまく使い、トランスフォーメーションしていかなければなりません。