現在のAI(人工知能)技術は、マンガや映画で目にしてきた「未来のアンドロイド」にはまだまだ達していない。それでも、部分的には人間の能力を大きく上回っていることは証明済みだ。最近の一例としては、自然言語処理プログラムの「GPT-3」が成長して日本語に対応すれば、単純なニュース記事はAIによる制作で十分になるかもしれない。

とはいえ、我々が期待しているのは「ドラえもん」ではないだろうか。彼は主観や感情を持ってのび太君と接し、ときには喜び、ときには共に涙を流す。つまり主観や感情をAIに組み込まなければならない。

主観を作り出すには固有の価値観が必要であるし、感情については脳内の電気刺激や神経作用物質の分泌といったレベルの分析にとどまっている。いずれにせよ他者(人間)と自身(AI)の違いを見極めるための会話、他者とのコミュニケーションに欠かせない雑談が必要だ。

コロナ禍で雑談の重要性が見直される昨今だが、決められた応答しかできないAIに対して人間が感情を見いだすことは難しい。このような背景から、MicrosoftのAI&Research部門でAIチャットボットの研究を行ってきたチームが分社化したrinnaは、「共感チャットモデル」に注力してきた。本誌でもAI「りんな」については何度か取り上げてきたが、りんなとの雑談チャットに用いられるのが共感チャットモデルである。

そのrinnaが2021年5月31日、デジタルヒューマンと協業して、顔や声、視聴覚を備えたAIアバターを開発することを表明した。rinnaの「RCP(Rinna Character Platform)」を基盤に、UneeQが開発した「Digital Humans」の国内事業展開を担うデジタルヒューマンが協力し合う。会話の内容に合わせて顔の表情や声質、唇の動き(Lip Sync)、頭や身体を動かし、瞬(まばた)きや眼球運動するリアルタイムアニメーションを生成する。日本語に対応した音声認識機能や話者認識機能を持ち、UneeQの外部公開APIを用いて人間の個人特定や感情分析、手にした商品などを認識する機能を備える予定だ。

  • RCP+Digital Humansの概要

最近はコロナ禍によって対面対応が難しくなり、カメラとオンライン会議ソリューションを組み合わせた遠隔の顧客対応に注目が集まっている。RCP+Digital Humansで生み出された「AIキャラクター」が、人間の代わりに消費者に対応する未来は実に興味深い。rinnaは今回の協業に至った背景について、「弊社はAIキャラクターがより温もりを感じられ、自然に会話していたくなる存在になることを目指している。人の感情に寄り添ったAIアバターを生み出していくというUneeQ社の目指す世界観と共感した。また、弊社は以前から、AIキャラクターは視覚情報であるAIの顔や身体も必要なシーンがあると考えていた」(rinna Chief Businee Officer&Sales Director 佐々木莉英氏)と説明する。

  • rinna Chief Businee Officer&Sales Director 佐々木莉英氏

筆者が注目する「雑談力」については、既存のりんなもすでにかなりできる。AIキャラクターも「雑談AIとユーザー間の会話は平均21ターン」(佐々木氏)とのことで、数十時間話し続けるユーザーもいるという。おしゃべり好きの消費者が商品を手にして、まったく関係ない会話をAIキャラクターと続ける映像が目に浮かぶ。

今回のAIキャラクターパッケージはUneeQの国内代理店であるデジタルヒューマンが販売するが、その利用シーンとしてrinnaは「コンシェルジュやサービスセンターの顧客対応に限らず、エンターテイメントや企業のマーケティング、ブランディング活動にも利用もできると考えている。例えば、AIキャラクターを自社の代弁者として活躍させ、世界のサッカー有名選手AIとイベントで会話する」(佐々木氏)ような場面を想定していると述べた。

  • Digital Humansの能力

Windows 10の音声対話アプリだったCortanaはB2CからB2Bに舵を切ったものの(もともとはデジタルアシスタントを目指していた)、その存在感を示し切れていない。かつてのOfficeアシスタント(日本ではイルカのカイル君が有名)も、ユーザーに向けて提示する情報を精査すれば、もっと有益な存在になったはずである。いずれは、AIキャラクターの能力がWindowsユーザーのためになり、本当のデジタルアシスタントとしてディスプレイの隅にいてもらうことも可能だろう。夢物語かもしれないが、そんな未来に期待を寄せている。