カルシウムイオンを制御するある種のタンパク質が、あらゆる生物の体内時計に共通する重要部品だった、と東京大学などが発表した。体内時計は、動物や植物など異なった生物ごとに誕生したと考えられていたが、起源は古く、全生物の最終共通祖先(LUCA)の段階からカルシウムイオンが関わっていた可能性があるという。研究グループは今後の研究によっては睡眠障害の薬の開発にもつながる成果としている。

約24時間周期の体内時計は概日時計とも呼ばれ、人間など全ての動物から植物、細菌に至るあらゆる生物に存在する。この時計により生み出される1日周期のリズムは概日リズムと言われ、時計遺伝子が重要な役割を担っていることが分かっている。時計遺伝子は動物だけでなく、植物や細菌でも見つかっているが、遺伝子比較による相同性が低いことから生物種ごとに独立して進化してきたと考えられていた。

  • alt

    カルシウムイオンの制御タンパク質「NCX」が体内時計の重要部品だったとする研究の概念図(東大提供)

研究グループは、東京大学大学院理学系研究科の金尚宏特任助教(研究当時、現名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所特任講師)、東京大学大学院理学系研究科の深田吉孝教授(研究当時、現同大学大学院医学系研究科特任研究員)、福岡大学医学部薬理学教室の岩本隆宏教授らがメンバー。

金氏らは、体内時計が、環境温度が変化しても周期が約24時間に保たれるという不思議な性質があることや、培養細胞にも存在することなどに着目して研究を進めた。その結果、細胞膜を介してナトリウムイオン(Na+)とカルシウムイオン(Ca2+)を交換輸送するイオン輸送体が全ての生物の体内時計の重要な部品として働いていることを突き止めた。このイオン輸送体は「NCX」と呼ばれるタンパク質でカルシウムイオンを制御するという。

さらに、マウスやショウジョウバエの実験から、NCX 機能が低下すると1日周期の行動リズムが大きく障害されることも分かったという。研究グループは1日周期で起きる、細胞内のカルシウムイオンの増減が体内時計の本体とみている。

研究グループによると、2016年にドイツの研究者によって細菌と古細菌に共通して保存されていた355の遺伝子が同定されたが、今回の研究で見つかったNCXを定める遺伝子はその355の遺伝子群に含まれていた。このため体内時計の起源は、これまで考えられていたよりずっと古く、LUCAが存在していた約38億年も前にさかのぼる可能性がある、と興味深い見方を示している。

研究成果について金氏らは、全ての生物に共通する祖先の体内時計を知る重要な手掛かりになるだけでなく、カルシウムイオンの制御により体内時計を操作する薬剤を見つけることも可能で、睡眠障害やうつ病を克服する新しい薬の開発につながると期待している。

体内時計については、睡眠のほか、感情の動きや記憶力などの脳機能も影響されることが明らかになり、「ストレス社会」にあって体内時計に関する研究に関心が集まっている。2017年のノーベル医学生理学賞は、ショウジョウバエの実験から時計遺伝子を発見した米国のジェフリー・ホール氏ら3人の科学者が受賞した。

関連記事

ノーベル医学生理学賞に体内時計の仕組み発見の米3氏に