韓国の『VALORANT』シーンで、トップに君臨する絶対王者「Vision Strikers」。公式大会102連勝という前人未到の無敗記録を打ち立てるほど、圧倒的な強さを誇ります。

今回は、「Vision Strikers」の日本代表を務める、Buddhaこと竹田恒昭さんにインタビュー。これから予定されている「Vision Strikers」の日本展開や、日韓の『VALORANT』シーンについて、お話をうかがっていきます。

また、「Vision Strikers」のメンバー・Rb選手にもテキストインタビューを行い、日本の『VALORANT』チームに対する印象などについて聞きました。

  • Vision Strikers

    Buddhaこと竹田恒昭さん。2005年、当時『Counter-Strike1.6』で日本トップチームだった「4dimensioN」をマネジメントし、日本初となるプロゲーミングチームを誕生させた。2018年、韓国のプロゲーミングチーム「Team MVP」の日本進出にあたり、「Team MVP Japan」の代表に就任。2021年2月より、韓国のプロゲーミングチーム「Vision Strikers」の日本代表を務める。『VALORANT』リリース時に、新たなチームとして始動

――最初に、「Vision Strikers」というチームについて簡単な紹介をお願いします。

竹田恒昭さん(以下、竹田):「Vision Strikers」は、韓国を拠点とするプロゲーミングチームです。活動のメインタイトルである『VALORANT』のリリースに合わせて、2020年6月に設立されました。

現在、『VALORANT』以外の部門には『WarCraft3』があり、Moonというレジェンドプレイヤーが所属しています。彼のすごさはあまり日本では知られていないかもしれませんが、北京オリンピックで聖火ランナーに選ばれたくらいのスター。彼は「Vision Strikers」のチェアマンの肩書きも持っています。

現時点で活動しているのは『VALORANT』と『WarCraft3』の2つですが、すでに展開が決まっているタイトルもありますし、これから募集するタイトルもあります。

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    プロゲーミングチーム「Vision Strikers」

――「Vision Strikers」が設立された経緯について、教えていただけますか?

竹田:プレイヤーも経営陣も皆、元「Team MVP」のメンバーです。「Team MVP」は韓国を拠点としたプロゲーミングチームで、経営陣は3人の韓国人と僕を含めて4人。韓国の「Team MVP」と日本の「Team MVP Japan」、2つの法人がありました。

ところが、韓国でいろいろと問題が起きてしまったので、それを機に経営陣のうち2人が新しいチームを作ることになりました。そうして設立されたのが「Vision Strikers」です。

僕はそのとき、「Team MVP」というブランドを消してしまうのは、すごくもったいないと思って。10年もの歴史があるチームで、これまでに獲得した賞金総額は8億円。その実績を捨ててまで、新しいチームでやる必要があるのか疑問もありました。

でも、もともと僕が「Team MVP」に入ったきっかけは、「Vision Strikers」を立ち上げた2人と一緒にやりたかったからなんです。こうした背景から、僕は2021年1月末に「MVP Japan」を閉じて、2月頭から「Vision Strikers」に入りました。

複数タイトルを視野に「Vision Strikers」日本展開へ

――「Vision Strikers」は、日本への展開を考えていると伺いました。

竹田:これから日本で「Vision Strikers Japan」を立ち上げる予定です。1つの国だけでがんばっていても、いつか頭打ちになるときがくるので、もっとインターナショナルなチームにしていきたい。それに向けて、僕が補える部分があると考えています。

もともと『VALORANT』では、1オーガナイゼーション1チーム(個人や団体が2つ以上のチームを持つことができない)ルールが存在していなかったんですよね。なので、僕らの運営会社は当初、韓国で「Vision Strikers」と「Quantum Strikers」という2つのチームを持っていました。

実は僕が「Vision Strikers」に入るタイミングで、日本にも「Tokyo Strikers」というチームを持とうかと考えていたんです。ですが、『VALORANT』で複数のチームを持つことができなくなったので、泣く泣く「Quantum Strikers」を手放し(現TNL Esports)、それと同時に「Tokyo Strikers」の構想もなくなりました。

――日本で『VALORANT』のチームを持てないとなると、国内ではどういった展開を考えているのでしょうか?

竹田:今はコロナの影響で、ほとんどの大会がオンラインで完結していますが、今後コロナが収束すれば、オフライン大会が多く開催されると思います。そうしたときに、韓国からスタッフを連れて来なくても、僕がいれば「Vision Strikers」が日本の大会に出やすくなるというのが、まず1つ。

そして、日本国内では『VALORANT』以外での展開を予定しています。あまり手を広げすぎず、2~3タイトルくらい。今の「Vision Strikers」くらい突き抜けたチームを、各タイトルで持つことが理想です。

日本での基準も頭に入れつつではありますが、世界でTier1やTier2とされるタイトルを中心に考えたいですね。やはり世界に認められるタイトルで、トップの景色を見たいという思いがあります。

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――「Team MVP Japan」設立時も、さまざまなインタビューで世界を見据えたお話をされていました。チームが変わっても、目指すことは変わっていないのでしょうか。

竹田:そうですね。もちろん状況は変わっていますし、「Team MVP Japan」として経験した2年を通じて見えたものもあります。ですが、おっしゃる通りで「Team MVP Japan」で目指していたことと、今やろうとしていることは、大きくは変わっていません。

日本でチームを持つ以外にもいくつか考えていることがあって、そのうちの1つは学校です。「Vision Strikers」の名前を使った「Vision Academy」みたいな専門学校をやりたいと思っています。今いろいろな話を実際に進めているところですが、日韓でできることはまだまだたくさんあると考えています。

『VALORANT』シーンの盛り上がり、日韓の違いとは?

――韓国の『VALORANT』シーンが、どれくらい盛り上がっているか気になります。日本と比べていかがでしょうか?

竹田:日本と比べると、思ったほどではないですね。というのも、日本の『VALORANT』シーンが、異様に盛り上がっているんですよ。「Vision Strikers」が始動したタイミングで、韓国にあった『VALORANT』のプロチームは、あっても3つ程度。そのとき、日本にはプロを名乗っているチームが13チームくらいあって、このことは海外でも話題になっていました。

でも、これってすごく理解できることなんですよね。この規模で展開される新作FPSゲームで、かつグローバルでほぼ同時期にスタートが切れるタイトルは、ここ10年くらい存在しなかったと思います。

すでに絶対的な王者が存在するシーンに挑むのは至難の業です。でも、『VALORANT』なら全員、ほぼ一斉にスタートを切れる。だから、多くのチームがこぞって参入したんだと思います。日本のプロチームが目指す方向としては、間違っていないでしょう。

一方で、韓国ではeスポーツシーンの基盤がしっかりと出来上がっています。それゆえ、どんなビッグタイトルがリリースされたとしても、大きな波は起きにくい。そこが日本と違う部分じゃないでしょうか。

――日本の『VALORANT』プロチームには、韓国の選手が続々と加入しています。これにはどういった背景があるのでしょうか?

竹田:日本のプロチームから依頼をもらって、韓国の選手へ「トライアウトを受けてほしい」とコンタクトすると、基本どの選手も「受けたい」と返答してくれますね。

選手たちがどう考えているのか、くわしいことまで直接わからないですが、もしかしたら韓国では勝てないと考えているのかもしれません。「Vision Strikers」に勝てる見込みのあるチームに入るのは難しいですし、そう簡単に奇跡の5人がそろうものではないので。「Vision Strikers」にいる僕が、こんな風に言っていいのかわかりませんが(笑)。

なにより、今はコロナの影響で、ほとんどの大会がオンライン開催ですから、日本チームでの活動がしやすいですよね。ただ、あくまでこれは特殊な環境であって、今後オフライン大会に戻っていったとき、状況は大きく変わるはずです。

オフラインで勝てるかどうかは、チームの実力として重要な要素。コロナが収まったあと、韓国の選手を日本に呼んで練習できる環境があるか、言語面での不利を乗り越えられるかなど、さまざまな課題があるように感じます。

無敗記録は102勝、シーンのトップに君臨する絶対王者

――「Vision Strikers」は圧倒的な強さを誇る絶対王者チームですが、どのようなメンバーが集まっているチームなのでしょうか?

竹田:もともと「Team MVP」(MVP PK)として、『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、CS:GO)で活動していたメンバーです。2019年に1度メンバーチェンジをしていて、そのときにglow、k1Ng、Rbが加入し、現在のメンバーになりました。ちなみにその後、『VALORANT』に移行する前に、『CS:GO』のアジア大会で「Absolute」(現Absolute JUPITER)と戦って負けています。

『VALORANT』への移行を発表したのは、2020年5月。「Absolute JUPITER」と同じく、今までやってきたメンバーのまま移行したので、やはり最初はチーム力で大きなアドバンテージがありました。ただ、今はリリースから10カ月が経ち、他チームも高い連携力を持ち始めていたり、すば抜けたフィジカルを持つチームが出てきたりと、シーンにも変化を感じますね。

――先日、ついに「Vision Strikers」の連勝がストップし、日本のファンの間でも大きく話題になりました。あの試合で戦った「F4Q」とは、どんなチームなのでしょうか?

竹田:「F4Q」には、僕らが手放した「Quantum Strikers」に所属していた、Efinaというプレイヤーがいます。彼は「Vision Strikers」に入れるくらいの実力の持ち主。ただ、「Vision Strikers」はずっと同じ5人でやっていて、よっぽどのことがなければメンバーが変わることはないので、「Quantum Strikers」にいたんです。

それから、新エージェントのアストラを使ったzunbaの活躍が目立ちましたが、彼はもともと「Overwatch League」に出場していたプレイヤーなんですよ。僕としては、Overwatchリーガーのすごさを感じましたね。「F4Q」にはもう1人、Bunnyという元Overwatchリーガーがいます。

韓国では、「VALORANT Champions Tour」(以下、VCT)のStage1が終わったあと、Stage2までの間に、多くのチームでメンバーシャッフルがありました。「F4Q」もzunbaの加入で、新体制になっていたチームの1つ。なので、相手の情報が少なく、十分な対策ができていない状況でした。

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    チームミーティングの様子

――惜しくも連勝が途切れてしまったとはいえ、公式大会での102連勝は驚異的な記録ですよね。

竹田:1つの記録として、ギネスへの申請も検討しています。これまでにあったeスポーツでの連勝記録というと、スウェーデンのプロゲーミングチーム「Ninjas in Pyjamas」が、『CS:GO』の公式大会で87連勝したのが有名ですね。

ただ、連勝はストップしてしまったものの、世界大会に行く前に負けを経験できてよかったと、個人的には思っているんですよ。強くなるためには、負けを知ることも必要なので。もちろん102勝したことは彼らの自信につながるし、負けたことによって今までなかったモチベーションも生まれていると思います。

――日本でも、VCT Stage1 Mastersで、「Absolute JUPITER」が「Crazy Raccon」に0-3で負けるという予想外の展開がありました。

竹田:あの試合については、「Vision Strikers」のDiscord内でも、皆「いったい何が起きたんだ!?」と驚いていましたね。「Crazy Raccon」は、ものすごくフィジカルが強いチームなので、勢いを止めるのが難しかったのでしょう。どのチームも進化の過程にあると思うので、VCT Stage2で「Absolute JUPITER」がどう修正してくるのか、とても興味があります。

世界のトップチームが集う、アイスランドの舞台へ

――それでは最後に、「Vision Strikers」が目指すことについて教えてください。

竹田:いろいろな展開を考えていますが、今は『VALORANT』に集中したいですね。アジアは今どのチームも、打倒「Vision Strikers」を掲げていて、最も対策されやすい立場。ですが、「Vision Strikers」は常にその一歩先で戦い続けていて、アイスランドで開催されるVCT Stage2 Mastersにも、行ける勝算を持っています。

VCT Stage2 Mastersは、ブラケット次第な部分もありますが、決勝くらいまでは進んで当然だと思っています。最も注目しているチームは、NAの「Sentinels」。TenZは世界一のプレイヤーだと思いますし、彼らと決勝で戦えたらいいですね。

NA、EU、アジアのメタはそれぞれ全然違いますが、僕らは最先端にいると信じています。どこが本当に強いのか、LAN環境で勝負してこそ答えが出るものだと思うので、僕はアイスランドでの試合を楽しみにしています。

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「Vision Strikers」メンバーインタビュー

――先日の「F4Q」との試合は、日本のファンの間でも大きく話題になりました。惜しくも連勝記録ストップとなりましたが、これをどのように捉えていますか?

Rb:「F4Q」との試合で、私たちの連勝が途絶えてしまったのは残念ですが、正直なところ、肩の荷が下りて少し安心しています。

――日本の『VALORANT』シーンに対して、どのようなイメージを持っていますか?

Rb:日本の『VALORANT』シーンには、素晴らしい才能を持つプレイヤーがたくさんいるイメージがあります。日本地域が、どのように成長するのか楽しみです。

――日本チームでは韓国人プレイヤーが多く活躍していますが、これについてどのように感じていますか?

Rb:私は多くの韓国選手が日本のチームでプレイしていることを、ポジティブに捉えています。彼らには、競争仲間として成功するだけでなく、韓国地域にどれほどの才能があるかを示してほしいと思っています。

――日本の中で注目しているチームと、その理由を教えてください。

Rb:つい最近、「Absolute JUPITER」に気づきました。過去に『CS:GO』のプロとして活動したメンバーで構成されていて、日本の『VALORANT』シーンでも最も輝かしい実績を持つチームだからです。

――日本のファンに向けて、メッセージをお願いします。

Rb:日本のファンの皆さん、応援いただきありがとうございます。アイスランドでのVCT Masters2に出場できるよう、ベストを尽くします。