シン・エヴァ制作でも重要な“虚と実”。鈴原サクラ秘話も

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、序盤で描かれる第3村の外観をミニチュアで作って撮影に使ったり、通常とは異なるモーションキャプチャーを使いながらアングルを探っていくなど、旧来のアニメとは異なる制作方法が採られていたことが注目を集めている。

これについて庵野氏は、「ミニチュアを使ったりモーキャプ(編注:モーションキャプチャー)を使ったりしなくても、アニメは作れるんですよ。手で描けば済むので。でも、手で描いて済むものだけにしたくない、という思いが『:序』のころからあって。あれから時間が経って、いろいろな技術が上がってくれて、ようやく今回それを実現できた。頭のなかでできた画面ではない、実際に存在するものを切り取ることでアニメーションを作った」と述べた。

ただし、こういった手法については「本当に大変なのでやらないほうがいいです」とキッパリ。「なかなか大変なので他の人はやらないと思いますけど。時間もお金もかかりますが、(エヴァは)自主制作なので、そこはなんとか」(庵野氏)。

鶴巻氏は、実写映画の現場を知っている庵野氏と、それを経験していない自らを含めた現場スタッフの違いに触れつつ、こうしたシン・エヴァの作り方には不安もあったとコメント。

一方、前田氏は「前半(A・Bパート)はリアリズムに徹した(第3村などの)内容で、後半はマイナス世界、想念の世界に入っていく。こんな対照の世界になったらカッコいいんじゃないかという話が最初の頃にありました。でも僕は後半のパートを担当して、(庵野氏が言う)“いつものアニメの作り方”をしたので、そんなに苦労はなかったです。マッキー(鶴巻氏)には頭が上がらない(笑)」。

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    新宿バルト9に立つ、エヴァンゲリオン初号機。舞台挨拶の会場に直接入れた幸運なエヴァファンの手首には、劇中に登場する組織「ヴィレ」のメンバーのような青いリストバンドが巻かれていた。また、バルト9の係員の腕にも、同様にヴィレメンバーのような青いバンダナが。これらはいずれも劇場サイドの発案で採用されたモノだそうだ
    (C)カラー

盛り上がる監督陣のトークの中で、庵野氏は「自分の頭の中だけで(映画が)できても面白くない。他の人がこれどうするんだろう、というのは見ておきたいんです。誤解されてるけど、自分だけで作りたくない。色んな人の意見を重ねて紡ぎあわせて、それでやっていきたい」と、過日のNHK番組でも明かしていた、自らの考え方を重ねて強調。

その上で、「実写とのハイブリッドは『:序』の頃からやっていたけど、その頃はCGに近かった。ちょっとずつ、そういうのを増やしていって、『:Q』と『シン・エヴァ』の間が空いて、その間に『シン・ゴジラ』ができたので、そっちのノウハウをこっちに全部活かせると。『シン・ゴジラ』を作ってなかったら、『シン・エヴァ』はこういうふうにはなってないんです。だから、あの映画を作らせてもらえてありがたかった」(庵野氏)と振り返った。

アフレコの録り方も従来とはだいぶ異なり、かなり細かく分割して、長い期間をかけて録っていた、と緒方氏は明かす。それが1本の映画になっても、「掛け合いをしてないけど、掛け合いをしているようにしか聞こえない」(庵野氏)のは、正に声優の演技力の賜物であった、とのこと。

鶴巻氏は、参加したアフレコの現場の中で印象的だったのが、鈴原サクラ役の沢城みゆき氏による“とある重要なシーン”のレコーディングだったと語る。「難しい状況でのドラマだったので、不安だった」(鶴巻氏)そうで、現場では複数回録られたようだが、庵野氏によると最終的にはテスト時に録った、最初の音声を採用したという。「沢城さんみたいなタイプは、アフレコ前にガーッと台本読んで溜めきって、溜めきったものを一番最初に出しちゃうので」(庵野氏)というのが、その理由だ。

鶴巻氏はこうしたアフレコに関しても、「庵野さんはどこまで話して、どこまで自由にさせるか、というの(バランス)がうまい。自分の中にあるものだけではなく、人からも影響を与えてほしいという姿勢はアフレコにもよく表れていて。それこそシンジの気持ちは、だいぶ緒方さんに託しているところが多かったです」と話し、緒方氏を恐縮させていた。

「ラストにも“すごいお金をかけて”好きなもの入れた。気付いて」

イベントの後半では、“エヴァファンがまだ気付いていないであろう”という監督陣のこだわりを紹介。前田氏は「皆さんの考察、観察のほうが先を行っている気がする。スルドイ(笑)。そんなに何か言うことあるかな」としつつ、「エヴァ13号機の中に、実は渚カヲルの姿が残っている」という小ネタを披露。

これは、「アスカがエヴァのなかでビースト化して、オリジナルアスカが迎えに来る場面」の一コマで、「制作の過程で、オリジナルアスカが画面の中心に出てきたので、(カヲルは)ほとんど見えない。でもよく目を凝らしていただくと、人影が見えるんじゃないかな、と」(前田氏)。

鶴巻氏は、GYAO! で配信されたネット番組のMCを務めた松澤千晶氏による「碇ゲンドウの脳ミソ」の考察を引き合いに出し、「あのシーン、実は脚本にはなく、前田さんが描かれたイメージボードにあったシーンがよかったので、僕が画コンテのときに採用して使ったんです」と明かした。

「松澤さんの考察では、碇ゲンドウが人間じゃないモノになってしまったんだけれど、(妻の)ユイのことを忘れたくないので脳ミソを拾って自分の中に入れたんだと。それ、めっちゃいいなと思ったんですけど……(会場爆笑)。実はそこまで踏み込んで考えていなかったので」と語った鶴巻氏が、「前田さんはどうだったの?」と話を振ると、“ゲンドウのドロドロしたところを描こうとして、汚いモノをどんどん入れてしまう”という前田氏は「バッチリです。それで」と応じて笑いを誘い、その場で“公式の小ネタ”に認定された。

こうした話を受けて、庵野氏は「エヴァの画面って物語上必要なもの、画として美しいもの、僕自身の人生において関わりのあるもの——宇部新川駅とかそうなんですけど——、あとはスタッフの好みが入っている。僕の好みだけじゃなく、メインスタッフの好みも散りばめられていて、それが世界観を広げて作っていると思うんですよね」とコメント。

「アニメはフィクションなので、基本的に自分の好きなものだけで画を構成できるんです。実写だと『あそこのビル、なんとかなんないかな』と思ったら、CGでお金かけて消さなきゃいけない。撮っちゃいけない“某タワー”とかもあるんですけど。でも、アニメなら最初から描かなければ、CGで作らなければいい。それができるのがアニメの良いところ」(庵野氏)。

庵野氏がシン・エヴァに入れた小ネタとして挙げたのは、前出の「宇部新川駅」や「クモハ42(形電車)」で、鉄道描写へのこだわりを披露。「実はモデルになっている駅の周辺は電化されていないので、電車があるのはそもそもおかしいんです。キハ40という気動車を置いているんですけど、本来電化されてないところに電車が置いてあるのはヘン。だけど、あれは僕が子どもの頃から見たり乗ったりしていたので、思い出として画面が構成されているんです。クモハ42も、(劇中の第3村で登場する)妻の絵も、僕が大好きなものなんです」。さらに、庵野氏はラストカットの実写にも“ものすごいお金をかけて”、好きなものをひとつ入れたので気付いて欲しい、とアピールした(編注:ネット上ではすでに、それが何を指しているのか突き止めた人もいるようだ)。

なお、庵野氏はヱヴァ新劇場版シリーズの小ネタとして、安野モヨコ氏による『オチビサン』などを度々登場させているが、自身の妻でもある安野氏に関してひと言触れ、「妻の考察に関しては、どういう人かキチンと人となりを理解してやってもらったほうがいいと思っていて、『ANNORMAL』(展覧会)の公式図録に、公にしている中で一番多い、深い情報が入っているので、ぜひそれを見てから考察して欲しい」と話した。

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    舞台挨拶の取材に訪れた報道陣にも配布された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の冊子
    (C)カラー

監督陣、最初で最後の挨拶。エヴァが本当に「終わる世界」

最後に、監督陣が改めてバルト9に駆けつけた来場者と、ライブビューイングで見ているすべての観客に向かって挨拶した。

「(イベントの)最初にありがとうございます、と言ってしまいましたけど、本当にその気持ちしかなくて。内容も見る人を選ぶ作品だと思いますし、(エヴァンゲリオンシリーズの)途中から(観る)みたいな、さまざまなハンデが1本の映画としてはあると思いますけど、やっぱり面白いと言ってくださる人が沢山いてよかった。ありがとうございます。あと(制作中は)コロナで大変だったんですけど、僕らが在宅で仕事している間に、制作の皆が動き回ってくれたり、いろんな頑張りがあったので、そこにもお礼を言いたいです」(前田氏)。

「今日もまだコロナの不安がある中で、観に来ていただいてありがたいと思っています。本当にありがとうございました」(鶴巻氏)。

「改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。制作の途中からコロナ禍に見舞われて、僕らだけでなく日本中、世界中がそういう状況になってしまって、大変な時期が今もまだ続いています。こういう厳しい時期にも映画館に足を運んでいただけて、作品を面白いと言っていただけることに感謝しています。本当に、ありがとうございました」(庵野氏)。

庵野秀明氏はイベント終了後、ステージから下りたあとも、拍手で登壇者4人を送り出す観客に向かって三度、深く深く頭を下げた。20年近く『新世紀エヴァンゲリオン』、そして『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズを追いかけ続け、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もIMAX版を含めて複数回鑑賞した筆者だが、まさにこの瞬間、最後の【シャシン】が本当に終わりを迎えたことを、自分の中でようやく実感として受け入れることができた。

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    すべての人々に向かって深く感謝の意を表した、庵野秀明氏