情報伝達の中でも、なんとなくその場を共有していたからこそ伝わっていた情報がある。"浸透するコミュニケーション"というものだが、リモートに移行して共有する場所がない現在、浸透するコミュニケーションをどうやって生み出すかーーDropboxの公式ブログが「Recreating information osmosis in a remote-first world」という記事で解説している。

  • 「Recreating information osmosis in a remote-first world」

    「Recreating information osmosis in a remote-first world」

試行錯誤を繰り返した一年を経て、リモートワークやテレワークに慣れてきたという方も多いはず。しかし、ツールでは、なかなかカバーできないことがある。日常には、メールや文書では補完できない情報が山ほどある。休憩所や廊下でばったり出会った人との雑談、あるいは同僚や上司の話から得られる学びや情報の類だ。リモートワークで普及したオンライン会議、あるいはビジネスチャットで雑談を試みる組織もあるそうだ。急に"雑談タイム"と言われても、なかなか難しいなぁ。という人も多いのではないだろうか。

アジャイルソフトウェア開発宣言(agilemanifesto.org)

アジャイルソフトウェア開発宣言(agilemanifesto.org)

Dropboxのブログ記事では、リモートワークで欠如しているのは"osmosis(浸透するコミュニケーション)と指摘する。浸透するコミュニケーションという言葉は、アジャイルソフトウェア開発宣言(「The Manifesto for Agile Software Development」)に署名するなど、アジャイル開発分野の第一人者であるAlistair Cockburn氏の造語で、誰もが知らず知らずに経験している。 例えば、オフィスの一角で、あるタスクの締め切りがいつなのかについて2人が議論しているとする。話を聞いていた別の人が、正しい日を伝える。さらに別の人々が会話の一部始終を聞いているーー内容は異なれど、よくあるシーンだろう。ここにいる人は等しく、正確な情報を得たはずだ。それだけでなく、こういった情報を知っているのは誰かがわかっただろう。次に同じような疑問が出たら、この人に聞けば知っているなと思うはずだ。

"毎日同じ人たちと同じ空間を共有するだけで、意図せずとも情報のスポンジになっている"と記事は指摘している。言葉として明示的なやりとりではないし、知ろうと思って得た情報ではない。このようなコミュニケーションを「浸透するコミュニケーション」と呼んでいる。浸透するコミュニケーションの大きな特徴として、わざわざその情報を得るために努力していないということが挙げられる。人が同じ空間にいるだけで、知識(それが前日のTVドラマの話や、好きな野球チームの話であっても)は簡単に、自由に、高速に流れる。重要な情報はその情報が関連する人に知らず知らずに伝わる。だが、このような空間をサイバーで実現するには無理がある。

例えば、営業から戻った同僚が話す取引先の状況は、時として有益な情報になるはずだ。"ここにはこんなニーズがあるが対応できていない"、"あそこにはあんな課題があるがなかなか苦労しているようだ"等々。口伝で流れる価値のある情報もあるだろう。「業務上伝えなければならない情報」は、オンラインでも伝えることができる。だが「受け身で得るが業務上(場合によっては、後になって)役立つ情報」が流れるようにするためには、「効率性を考えないミーティング」を持つことだと記事はアドバイスする。

ワークショップ、あるいはブレストの形で、大きく構えずにプロジェクトに関与する全員が集まる時間をもうけることを提案している。チャットグループを作ったり、専用チャンネルを設けるのもよし、オンライン会議形式でもいい。何度かやってみて、フィードバックがあればやり方を変えながら進めてみようと。成果を求めることのない時間をもうけ、人々がおしゃべりすることに安心感を感じれば、リアルでやっていた浸透するコミュニケーションに少し近づくだろうと。