3月24日、オンラインにて「第4回 eSPORTS TRINITY」が開催されました。eSPORTS TRINITYは、凸版印刷、電通、サイバー・コミュニケーションズが共同で開催する異業種交流イベント。日本のビジネスシーンにeスポーツの新たな知識、感動、興奮を提供する目的で実施されます。

第4回は、2020年8月に開催された第3回と同様に、新型コロナウイルス感染対策として、オンラインでの開催。イベントは2部構成になっており、第1部はビジネスウェビナー、第2部は異業種交流会です。

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    「第4回 eSPORTS TRINITY」レポート

第1部のビジネスウェビナーでは、3つの講演テーマがありました。まずは、ウェルプレイド・ライゼスト 代表取締役の古澤明仁氏による「eスポーツのチカラ -新時代のソリューション-」のセッションです。

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    ウェルプレイド・ライゼスト代表取締役古澤氏による講演

ウェルプレイド・ライゼストは、自らをeスポーツの総合商社と名乗り、競技設計、大会運営、施設運営、プロモーション、エージェント、ライブ配信、教育など、さまざまなeスポーツ関連の事業に携わっています。

同社では、クライアントが抱える課題を解決するためにゲームを用いたソリューションを提案。その理由は、ゲームがもはや触れたことのない人がいないほどのツールになっているためです。新たに多くの人に周知したり、慣れ親しんでもらう必要がないので、eスポーツを使ってさまざまな企画を行えます。

ただし、eスポーツは万能なツールではありません。あくまで、手段の1つ。eスポーツがすべて解決してくれるわけではないので、元々持っているコンテンツや商品の強みと合わせて新たな施策を打ち出す必要があると古澤氏は話します。オリジナルの強み×eスポーツのチカラ=課題の改善、解決の方程式というイメージです。

そのうえで古澤氏は、いくつかの事例を紹介しました。たとえばDMMは、サッカーチームのスポンサーをしているため、ユニフォームに広告が入っています。ですが、それらはスタジアムや配信、放送で多くの人の目に触れるもの。コロナ禍では、無観客試合やスタジアムの入場人数制限で、広告が観客の目に届かなくなってしまいました。

そこで、DMMはサッカーのクラブチームが出場するeスポーツイベントを開催。ゲームを使って、スポンサー企業のロゴを出す機会を増やしていきました。視聴者にとってみても、ゲームをプレイしているサッカー選手の顔が見られるのは貴重な体験。ある意味オフショット的な映像が流れており、より親しみやすさが湧いてくるわけです。

続いて、家電量販店「EDION」がプロゲーミングチーム「DetonatioN FocusMe」へのスポンサードした例を紹介しました。

EDIONでは、オフライン店舗の付加価値を増やすために、「DetonatioN FocusMe」のファンイベントを開催。その結果、チームのグッズだけでなく、EDIONで販売しているほかの商品も購入するファンが多かったそうです。

店舗側はチームに支援した甲斐があり、チームはスポンサーから長期に渡って支援してもらえ、ファンは店舗イベントでチームメンバーと近づけるようになった、そんな好例といえるでしょう。

また、2020年に開催されたeスポーツイベント「EDION VALORANT CUP」では、店舗であるEDIONが旗振り役になったことで、競合である複数のPCメーカーが協賛しました。大会効果としてEDIONの売り上げは前年比192%までアップ。協賛したメーカーもその恩恵を得られました。

2つめのビジネスウェビナーでは、パネルディスカッションとして、日本エイサー マーコム&マーケティング部部長の谷康司氏、プロビジョン 上席執行役員の中新井肇氏、東京地下鉄 人事部労務課/eスポーツ事業検討チームの川尻明氏が登壇。凸版印刷が主催する企業向けeスポーツリーグ「AFTER 6 LEAGUE」を中心に、企業のeスポーツへの参戦について話します。

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    パネルディスカッションでは「AFTER 6 LEAGUE」について参加企業の考えが述べられました

「AFTER 6 LEAGUE」の参加企業は60社。120試合以上開催しており、2020年開設ながら、13社のスポンサーがついています。日本エイサーは、「AFTER 6 LEAGUE」にスポンサーとして参加していますが、自らeスポーツリーグ「Predator League」も主催しています。「Predator League」は、日本のみならずアジアパシフィック地域で開催する国際的なリーグです。

プロビジョンは、部活動として複数のeスポーツ大会参加。アスリート採用を行っており、フィジカルスポーツだけでなく、eスポーツプレイヤーも雇用しています。東京地下鉄(東京メトロ)は、eスポーツチームの発足を検討中。さらに、2021年4月下旬ごろには、ゲシピと一緒にeスポーツのジムを開業予定です。

パネルディスカッションでは、まず「AFTER 6 LEAGUE」の話を最初に聞いた感想から話が始まります。

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    パネルディスカッションは「AFTER 6 LEAGUE」の話を最初に聞いた感想からスタート

「いよいよこういう時代がきたんだなと思いました。法人のチームがeスポーツ大会に出て、それを視聴するという、興行的ではない、違うセグメントのeスポーツイベントが出てきたんだなぁと」(日本エイサー・谷氏)

「eスポーツ部を立ち上げたばかりだったので、タイミング的にはベスト。みな大会に参加したくて、渡りに船でした」(プロビジョン・中新井氏)

「名前とサービスの戦略性にセンスを感じました。ビジネスとしては、eスポーツに関係ない凸版印刷さんがやっていることで、参考にしています」(東京地下鉄・川尻氏)

続いて、「AFTER 6 LEAGUE」に期待していることについて聞かれると、日本エイサーの谷氏は「興行ではなく、知り合いが出るかもしれないという、企業間のつながりであったり、社内での認知度の広がりであったり、eスポーツがより深く認知されるといいなと思います。eスポーツをよく知らない層には、プロの試合を観るよりも、家族や知り合いが出場する大会を観るほうが、理解しやすいのではないでしょうか」とコメントします。

プロビジョンの中新井氏は「我が社には、ゲーム好きの社員が多いんです。なので、親和性はもともと高かったですね。コロナ禍で、対面での交流の場を持てなくなったなか、オンラインでイベントを開催できるので、eスポーツがあってよかったと思っています」と、社会人とeスポーツの親和性について触れました。

これについて、東京地下鉄の川尻氏は「仲間と切磋琢磨し、一喜一憂したのは、部活動に似ていると思います。学生時代の部活動って、ビジネスの場で活かせていることって多いと思います。そういう面では、社会人のeスポーツ部でもビジネスに活かせるのではないでしょうか」と期待を寄せたうえで、「ゆくゆくは、東京を世界一のeスポーツ都市にしたいですね。壮大な目標ですが、決して冗談半分でなく、本気で取り組んでいます。ただ、それはeスポーツ単体では難しいとも考えています。いろんな企業が手を取り合って活動する必要があるのではないでしょうか。8月をめどに大会を開きたいですね」と語りました。

ビジネスウェビナーの最後は「eスポーツが持つ、地方創生の可能性について」をテーマに、愛知eスポーツ連合代表理事、名古屋OJAゼネラルマネージャー、東京ヴェルディ・クラブ理事eスポーツ部門GMを勤める片桐正大氏が登壇しました。

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    名古屋OJAゼネラルマネージャーを勤める片桐氏は、ほかにも愛知eスポーツ連合や東京ヴェルディの理事も勤めています

まずは、スポーツビジネスが海外と水をあけられている状態について、現状分析から解説します。日本は最初からスポーツビジネスに疎いわけではなく、1995年ごろは世界のスポーツでトップクラスに位置していました。特にプロ野球団では、1球団あたりもっとも稼いでいたそうです。その後、日本のスポーツビジネスの成長が鈍化し、アメリカ、ヨーロッパに大きく水をあけられる結果になりました。

eスポーツでも、スポーツの二の舞にならないように拡大を目指す必要があります。現在は、中華圏のないアジアで商業圏ができないかを模索中。名古屋にeスポーツチームを立ち上げたばかりの時期は、少ない資本金のほとんどを“選手をかっこよくすること”に注力したそう。チームロゴであったり、選手の宣材写真だったりと、まずは見た目から既存スポーツに負けない状態を作っています。

そんなチームをいち早く支援してくれたのが、ヤマモリでした。イオンのPBを一手に取り扱う、名古屋では知らない人がいないメーカーです。そこからおやつカンパニーを紹介してもらい、オンラインカードバトルゲーム『Shadowverse』のプロリーグに参加することとなりました。ヤマモリもおやつカンパニーも中部地方の企業で、地方のチームが地方の企業が支える構図ができています。

チームとしては、選手がイベント企画の立ち上げやパラeスポーツの裏方などを実施するようにしているそうです。これは、ほかのプロスポーツで経験した反省点から。というのも、多くのプロスポーツ選手はプレイに集中させた結果、セカンドキャリアで何もできない状態になってしまうことが多々あったとのことで、プロ選手である時期は、スポーツやゲームだけに集中することが重要でありますが、その後を考えると、必要なことなのでしょう。

片桐氏は、チームを運営すると同時に愛知eスポーツ連合として、eスポーツを支える立場としての活動もしています。

チームのときと同様に、ヤマモリの音頭で、地元企業に賛助会員になってもらいました。コロナ前は毎月、eスポーツ研究会(ビジネスセミナー)を行い、「AFTER 6 LEAGUE」のように、企業対抗戦、懇親会を開催していました。高校eスポーツ部支援プロジェクトも開始し、10校からの支援依頼がきています。ほかにも名古屋PARCOに「コミュファ e-Sports Stadium NAGOYA」を開設したり、中日ドラゴンズとオンラインチャリティイベントを開催したりするなど、eスポーツが地方創生の一端を担っていると言えます。

すべての講演が終わったあとは、オンライン会議による「オンライン異業種交流会」が開催されました。1グループ5~6人に振り分けられ、eスポーツを通じて企業間の交流を高めるのが目的です。

筆者が参加したグループには、eスポーツがまったくわからずこれからどうするか決めかねているような企業から、すでに「AFTER 6 LEAGUE」に参加するなど積極的に関わっている企業までさまざまな人が参加していました。業態もさまざまで、eスポーツを通じないかぎり、付き合いが始まるどころか、挨拶すらしないだろうと思えるような幅広さです。

ビジネスとして何か新しいことが始まるかは未知数ですが、最低でもeスポーツを通じて、社員同士が交流を持てる場となるのではないでしょうか。