Appleの決算はすべてのカテゴリーで2ケタ成長となったが、特に高成長となったのが「Wearables, Home and Accessories」部門だ。売り上げは129億7100万ドル(約1兆4150億円)で前年同期比29.6%増、サービス部門は157億6100万ドル(約1兆7196億円)で前年同期比24.0%増となった。

健康関連の機能を充実させるApple Watch

Wearables, Home and Accessories部門を構成するAppleの主要製品は、以下のシリーズだ。

  • Apple Watchシリーズ
  • HomePodシリーズ
  • Apple TVシリーズ
  • MagSafeアクセサリー
  • その他

売上高の129億7100万ドルは、MacやiPadの1.5倍の規模に成長しており、むしろサービス部門に接近するほどの大きなカテゴリーへと成長していることが分かる。

このなかで、Apple WatchはAppleのウェアラブルを代表する製品だ。2020年も例年通り、最新モデルとなるSeries 6に加え、廉価モデルとなるSEが投入された。

  • 2020年、AppleはApple Watch Series 6とApple Watch SEを投入した

Series 6には心電図に加えて、血中酸素ウェルネスアプリが用意された。折しも、新型コロナウイルスは容態急変時に血中酸素濃度が変化するといわれるなか、あくまで医療向けの機能ではないが、血中酸素に目を向けた計測機能が用意された点は、偶然とはいえ世間の関心を集める機能となった。

日本でも、watchOS 7.3の配信時に心電図アプリが利用できるようになり、Series 4以降のユーザーはアップデートによって機能が有効化される。さらに、頻脈や徐脈と呼ばれる不整脈の症状として知られる心拍パターンの検出や、心肺機能を計測する最大酸素摂取量の計測にも対応した。

最新モデルでは、こうした新たなセンサーで自分の体をより深く計測できるようにする一方で、Apple Watch SEは心電図と血中酸素のセンサーを省きつつ価格を下げ、若いユーザーに訴求する製品となった。こうして、若い人にとって身近な製品を送り出すことで、Apple Watchのユーザー層を、健康を気にする中高年から年齢をぐっと引き下げる戦略とみている。

オーディオカテゴリの強化

Appleは2020年にHomePod miniとAirPods Maxを投入し、ウェアラブルとホームの「オーディオ」製品を充実させた。いずれも「コンピュテーショナルオーディオ」、すなわちコンピュータ処理によってより正確で豊かなサウンド体験を実現する点を売りにしている。

HomePod miniは、Apple Watch SEと同じS5を採用し、小型ながら20Wもの電力を使って余裕ある重低音を含む豊かなサウンドを360度発出する。一方、AirPods Maxはより強力な遮音性と、やはり豊かな音を発するドライバー、充実するノイズキャンセリングや空間オーディオといった体験で、6万円以上という価格に見合ったハイエンドオーディオのような体験を提供してくれる。

  • 2020年末に発売した高性能ワイヤレスヘッドホン「AirPods Max」

AirPodsはそもそも、iPhone 7からヘッドホンジャックが取り除かれたことへのソリューションとして提案された。しかし、中身を見てみると、世の中を2年以上先取りするワイヤレスオーディオのテクノロジーで、現在もワイヤレスヘッドホン市場をけん引する役割を果たしている。

一方のHomePodは、すでに「スマートスピーカー」としてAmazonとGoogleが市場をコントロールしているなか、「ホームオーディオ」という異なる切り口でチャレンジしている製品である。HomePod miniの約1万円という価格の安さと品質の高さは、2個でステレオペアを構成する形での導入も進み、台数として、また売上高としてのシェア向上に期待が集まる。

  • 2020年秋に登場した「HomePod mini」。元祖「HomePod」は販売終了が明らかになった

Apple Oneの効果は時期尚早

サービス部門は157億6100万ドルで前年同期比24%増となり、こちらも引き続き売上高の成長が見られる。ほとんどの国と地域で過去最高の売上高を樹立しており、サブスクリプションユーザー数は実に6億2000万人と、目標であった6億人を上回った。

Appleは、新サービスである「Apple Fitness+」と、映像ストリーミングサービス「Apple TV+」がけん引していると明かした。とはいえ、Apple TV+は無料期間が2021年7月まで延長されており、そのことが売上高に優位に影響するほどのユーザー数を獲得できていないのではないか、と考えられる。

  • 米国などでサービスを開始しているフィットネスプログラム「Apple Fitness+」。評判は上々だという

一方で、2020年には「Apple One」というバンドルサービスもスタートした。こちらは、iCloudストレージ、Apple Music、Apple Arcade、Apple TV+のバンドルを基本とし、家族も利用できてストレージが多いファミリープランや、米国ではApple News+、Apple Fitness+をバンドルするプレミアプランも用意される。

バンドルサービスは日本でも提供されており、個人向け、ファミリー向けともに、個別に契約するより1,200円程度お得な価格に設定されている。しかし、ストレージは家族で200GBでは足りないという人も少なくないはず。そういう場合は、2TBまでの追加ストレージを契約でき、合計2.2TBまで増やすことができる。

Apple TV+は、良質な作品が比較的多い一方で、コンテンツ自体の数はまだ少なく、バンドルサービスで無料で見られるユーザーを増やしながら話題作を投入していくという、綱渡りの展開が続きそうだ。

プライバシー問題ではリスクも

Appleは、プライバシーについて再三アピールを続けている。2021年第1四半期決算の電話会議でも、「International Privacy Day」に言及し、ユーザーに対してプライバシーの権利と新しい基準を設定するとし、iOS 14などでのセキュリティ・プライバシー対策や、ユーザーがトラッキングされることを防ぐ機能の導入をアピールした。

Tim Cook CEOは講演でFacebookなどの広告モデルを批判し、今後対立が深まっていくことが考えられる。Facebookは、iPhone向けのアプリの門番となっているApp Storeの独占禁止法を問うていく形で対応するとみられており、App Storeの独占性に反旗を翻しているEpic Gamesと同調する動きとなる可能性がある。

米国ではバイデン政権が誕生し、判事も務めていたカマラ・ハリス副大統領は、競争環境の維持や公平さに対して圧力を強めていくことも考えられる。ただし、人々のプライバシーの権利を擁護することも考えられ、今後の世論の動きとともにどのような見解を示していくか、個人的に注目している。