ある日、ライター仲間であり、ギター弾き仲間でもある御徒町晴彦が私の事務所にやってきた。何やらギターケースを担いでいるが、中から出てきたのは年代ものの国産エレキギター2本(トーカイのストラトキャスターST-100、アリアプロII PE-DELUX)だ。

  • 御徒町所有のお悩みギター2本。トーカイST-100(左)は、1970年代の終わりから80年代にかけて製造された伝説の逸品。あまりの完成度の高さから、当時、コピーモデルを禁止する法的措置がとられてしまったほど。いまだ国内外のオールドギターマニアが血眼で探しております。アリアプロII PE-DELUX(右)も、松本木工(マツモク工業)という国産ギターブームを支えたメーカーが製造を手掛けた、これまた逸品です。なんですが、ちゃんと鳴らないんじゃねぇ。貴重なギターが別の意味で泣いています

見た目はボロいが失いたくないギターがあるのだ

御徒町曰く、2本とも「もう音が詰まって弾けない」とのこと。エレキギターは木の細い板(ネック)に1mmにも満たない鉄の糸(弦)を6本も張ることになり、ものすごい張力がかかるため、経年とともにネックは曲がってしまう。また、演奏時に音階を区切るための鉄製の棒(フレット)と弦をこすりあわせるため、フレットが削れてしまう運命でもある。

弾かせてもらうと、確かにフレットは削れてしまっているし、ネックの曲がりもありそうな気配。うぬぬ、このままではいかんし、日本の名工が丁寧に作り上げた年代ものの国産エレキギターは貴重品なので、資産価値も落ちてしまうではないか。「いや、まてよ。このままおれが引き取るという方法も……」。いやいやいや、友情がそれを許さないので、とりあえず一緒に腕のよいリペアマンを探してみようということになった。

ただし、約40年ほど前のギターだし、見た目のダメージはかなりのもの。伝説の名工、フェンダー社のマスタービルダーみたいな人に頼めるのだとしたら安心できるが、ジェフ・ベックでもクラプトンでもない、一介のライター風情が頼んでも断られるのがオチ。もっと身近に相談できそうなところはと探すこと数日、気になるショップを発見した。

  • SLEEK ELITEさんのホームページ。「世界最高水準の調整技術」とサイトにあり、これはなかなか気になります

この「SLEEK ELITE」というショップでは、「PLEK」というマシンを使ってネックの状態を最適化してくれるらしいのだ。ちょっと待てよ? 普通こういう古いギターは、腕に覚えのある職人が経験と勘で調整するんじゃなかったのか? それを機械で?? 疑問がふつふつと沸きつつも、ちょっと、いやかなり気になるサービス内容だったので、持ち込んでみることにしたのだ。

ギターの健康状態を可視化

SLEEK ELITEさんへおじゃまして、1985年製のアリアプロII PE-DELUXを見ていただくことにした。パッと見の状態は良いものの、弾いてみるとどの弦も鳴りが悪いし、チョーキングもしづらい有様。正直「これは治るのか?」と疑いたくなる代物だが、御徒町本人はやる気満々で本気で成功を信じている様子。私的にはこのオンボロがどこまで復活できるのか、興味津々といったところだ。

「トラスロッド(ネックの曲がりを調整する部品)が回って、フレットが残っているギターなら、大抵のものはすぐに調整できますよ」と説明を始めてくれたのは代表の広瀬さん。いかにもリペアショップという面構えの室内にデデンと居座る二つのマシンが噂の「PLEK」だ。広瀬さん曰く、音が正しく鳴るのは完全な物理現象であり、PLEKを使うことでネックの状態を完全に数値化できるので、ベストな状態を可視化できるということなのだ。

  • SLEEK ELITEの代表 広瀬 創(ひろせ はじめ※以降、広瀬さん)さんとPLEK

とまぁ、こんな話からもわかるようにPLEKのメイン機能はスキャンによる「計測」にある。弦を張った状態(ここ重要)のギターを機器の中に吊るし、センサーでフレットと指板、弦との隙間を図っていく。ギターの場合はゼロフレットから一番高音のフレットまで、もちろん1~6弦まですべての位置を1/1000ミリの精密さで測ることができるのだ。

「ところでみなさんは、ネックってどんな状態がベストか知っていますか?」と広瀬さんに聞かれ「やっぱり反りがないのが良いのでは?」と答えたが、「実は、順反りしている状態が正常なんです」とのこと。

  • ネックは真っ直ぐなのを重視しがちですが、この3つの中では、弦を張っている側にしなっている、一番上の順反りが望ましいのです

正直、わかるようなわからないような不思議な気持ちになったが、広瀬さんによると縄跳びをイメージするとわかりやすいという。例えば、ナットとブリッジがお互いに長縄を持ち、誰かが縄跳びをするために縄をグルグルと回す。実はこの状態が鳴っている弦の動きになる。縄は中央へ行くほど振れ幅が大きく(広く)なる。ギターの弦にも同じことが起こっているので、ネック長辺の中央である12フレットあたりの振れ幅が一番大きい。これに対応するためには順反りの状態で、12フレットあたりで最も弦とネックが離れていると、フレットが振動のジャマをせずに自然な鳴りが得られるというわけだ。

  • 縄跳び同様に、真ん中の12フレットあたりに振れ幅のピークがくるため相応のスペースが必要。また、一般的なギターでは最も太い6弦が一番、振れ幅が大きくなります

「要するに音がのびずに詰まってしまったり、振動した弦とフレットが触れてしまってビビリ音がしたりする現象をデジタルで解析し、正しい状態へ戻す情報を与えてくれる装置がPLEKなのです」と語りながら、広瀬さんはスキャンする楽器の情報を入力して、PLEKのネックスキャンがスタート。

【動画】PLEKによる、ネックスキャン。ネック上をタテに動いてネックの反りをスキャンします。この後、PLEKが各弦を弾いて、ビビリ具合も測定します

PLEKでスキャンを行い十数分後、今回持ち込んだアリアプロII PEの結果が出た。「12フレット付近の断面図を見ると、1弦側がフレットから離れていて、6弦側は近い。普通はより大きく振動する低音弦(6弦)側を離さないといけないのですが、これでは逆ですね。横からの図を見るとネックは波うちしているのがわかります。理想的な順反りと比較し、ややきつめに反っているようですね。逆に高音弦側は逆反りしている。ちょうど10フレット辺りがその影響を一番受けているようです」と広瀬さんは結果を説明してくれた。

  • 広瀬さんの奥にあるモニターにスキャン結果が表示される。そして我々は、驚くべきデータを目にすることに! 続きは次のページで!