広島大学は2月26日、バスクリンとの共同研究により、アトピー性皮膚炎患者が「タンニン酸」を配合した入浴剤を2週間使用することで、痒みを抑制する効果があることを実証したと発表した。

同成果は、広島大大学院 医系科学研究科 皮膚科の秀道広教授とバスクリンの共同研究チームによるもの。詳細は、「日本皮膚免疫アレルギー学会欧文雑誌(JCIA)」に掲載された。

汗は蒸発時に気化熱で体表付近の熱を奪って身体の冷却を行う。また、その一環として冷却された血液が全身を巡ることで、身体の奥の汗による気化熱では冷却しにくい部位の体温の上昇も抑制している。ヒトが気温の変化などに強く、とりわけ数多くの動物の中でも高温環境にも短時間で適応しやすいこと、また長距離を走り続けるなどの優れた身体能力を実現している仕組みのひとつだ。

しかし、その汗がアトピー性皮膚炎に対しては悪化因子として作用してしまう。水分や塩分などを中心として、自らの身体より出た汗であるが、その中に含まれる抗原(アレルギー反応を起こす原因物質)に対して皮膚がアレルギー反応を起こしてしまうのだ。

そこで秀教授らは、汗中の抗原を中和させる成分を植物成分の中から探し出すことを検討。そして探索の結果、タンニン酸が優れた効果を持つことを確認したのである。タンニン酸とはお茶やワイン、柿などに含まれ、一般には渋みのある成分として知られる植物由来のポリフェノール化合物の総称である(さまざまな種類がある)。単にタンニンともいわれることもあり、また通称であって化学的な名称ではない。

アトピー性皮膚炎患者に対するタンニン酸の効果は、汗中の抗原を中和することで「ヒスタミン遊離」を抑制し、痒みを軽減させる。これまでの研究でも、タンニン酸の水溶液を皮膚にスプレーすることにより、痒みを軽減することが確認されている。

そこで今回は、広島大皮膚科外来を受診しているアトピー性皮膚炎患者で、なおかつ症状が安定していて1か月以上投薬内容が変更されていない人を被験者として、タンニン酸の溶け込んだお湯に浸かってもらい、その効果の検証が行われた。被験者は男性7例、女性14例の合計21例、、平均年齢37.0歳。アトピー性皮膚炎の重症度は、軽症3例、中等症9例、重症9例だ。

「タンニン酸を配合した入浴剤」を入れたお風呂と、「タンニン酸を配合しない入浴剤」が用意され、各々2週間ずつの入浴をし、かゆみに対する効果に対してランダム化二重盲検クロスオーバー試験が実施された。

内容は、家庭用の浴槽(約150~200L)に入浴剤を40g投入し、約39~40℃のお湯に5~10分間を目安に毎日入浴するというものである。身体を洗う方法は特に規定は行われなかったが、身体の洗浄後は必ず入浴を行うこととされた。

またランダム化二重盲検クロスオーバー試験とあるように、試験は医師にも患者にもどちらにもタンニン酸が配合されている入浴剤かわからない状態で行い、どちらか一方の入浴剤を2週間使用したあと、1週間の無使用期間が設けて、さらにもう一方の入浴剤が使用された。

評価方法は、各々の入浴剤の使用前後における痒みの自覚症状をVAS(Visual Analogue Scale)で午前・午後・夜間に分けて評価が行われた。また、医師の診断における「紅斑・丘疹・苔癬化・落屑・湿潤」の臨床症状を、5段階に分けスコア化が行われた。

そして結果については、まず自覚症状の評価では、軽症から中等症の患者においては、「タンニン酸配合入浴剤」使用時は、「タンニン酸を配合しない入浴剤」使用時よりも夜間における痒みが有意に低く低下したという。「タンニン酸配合入浴剤」の使用前後を比較すると、午後および夜間の痒みにおいて、有意な低下が見られたとした。また午前の痒みにおいても、痒みの低下傾向が見られたとしている。

次に臨床症状評価については、症状の改善した症例は15例、不変5例、悪化1例だったとした。今回の研究に参加したアトピー性皮膚炎患者は、症状スコアで有意に低下したことが確認されたのである。ままた今回の研究において、入浴剤に起因した有害事象は起きなかったことも報告された。

今回の研究結果から、入浴そのものによるアトピー性皮膚炎の改善に加え、身体表面に付着したタンニン酸が皮膚表面に留まり、痒みを軽減させた可能性が考えられるという。

現状、アトピー性皮膚炎に対するスキンケアに頻用されている保湿性の高い軟膏などの外用剤は、保湿性故にベタツキがあり、また塗布に時間がかかるといった課題がある。これらの理由から、必ずしも十分な患者のアドヒアランスを得られがたい状況だという(アドヒアランス:患者や養育者が疾患の病態や治療の意義を十分に理解して、「積極的に」治療方針の決定に参加し、その決定に従って「積極的に」治療を実行し、粘り強く継続する姿勢のこと)。

その点、今回のタンニン酸配合入浴剤を使用しての入浴であれば、手軽に使用可能で使用感に優れるのが特徴だ。それに加え、バリエーションを増やすことで患者それぞれの嗜好に合った入浴剤にタンニン酸を配合するようにすれば、継続的に使用されやすいと考えられるという。さらに、ほかの治療と併用することも容易で、アトピー性皮膚炎の症状改善に役立つことが期待できるとしている。

  • タンニン酸

    (左)入浴剤使用による痒みの変化(午前・午後・夜間)。(右)介入前後の症状改善を示したスコア (出所:広島大学プレスリリースPDF)