新潟大学、大垣女子短期大学、鹿児島大学の3者は2月17日、日本で初となる「お口ぽかん(口唇閉鎖不全)」に関する全国大規模疫学調査を行い、小児期のお口ぽかんの有病率を明らかにしたと発表した。

同成果は、新潟大大学院 医歯学総合研究科 小児歯科学分野の野上有紀子氏(兼同大学医学総合病院 小児歯科・障害者歯科所属)、同・齊藤一誠准教授、大垣女子短期大 歯科衛生学科の海原康孝教授、鹿児島大病院 小児歯科の稲田絵美講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国際学術雑誌「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載された。

ヒトは、全身的および局所的な要因により、顎顔面の成長と発達が妨げられると、小児期に口や顔面の骨格、筋肉などの軟組織、歯のかみ合わせ、歯並びに不均衡が生じてしまう。特に、異常な話し方や嚥下習慣、舌を突出するクセ、口呼吸、異常な食習慣、そして専門用語で「口唇閉鎖不全」という“お口ぽかん”などの口腔習癖は、子どもの口の健康な発達に深刻な悪影響を及ぼすという。

中でもお口ぽかんは、口唇や顔の表情筋の弛緩と過緊張、口呼吸、不自然な口唇の長さや鼻から下の顎の大きさの増加などと関連していることが明らかとなっている。また、口唇の形態・機能・位置はそれぞれ密接に関連しながら発達し、徐々に話し方や対人コミュニケーション能力を向上させることから、口腔の正常な発達は、単にその子どもの健康面の問題だけでなく、その後の人間関係の構築などにも大きく影響すると予想されている。

また、お口ぽかんと歯並びの悪さは密接な関係があるともされている。口唇を閉じる力である口唇閉鎖力が弱くなると、歯を取り囲んでいる口唇・頬と下の圧力バランスが崩れ、上の前歯が前方に傾いて突き出たり(上顎前歯の唇側傾斜)、上の左右の奥歯の幅が狭く(上顎歯列弓の狭窄)なったりするとされているためだ。

これまで、国内において小規模ながら横断的な研究が行われ、お口ぽかんの有病率は年齢とともに低下することが報告されている。またお口ぽかんの有病率は、人種や生活環境などによっても異なる場合があるが、日本における子どものお口ぽかんの有病率を評価する全国的で大規模な調査は過去に行われていなかったという。そこで今回、初めて全国的な大規模疫学研究において、お口ぽかんの有病率が年齢や地域によって異なるのかどうかを検証し、どのような要因がお口ぽかんに関連しているのかの調査が実施された。

今回の調査では、全国小児歯科開業医会の協力も得て、全国における66の小児歯科を専門に診療している歯科医院において、定期的に歯科医院を受診している3歳から12歳までの3399人の子どもが対象とされた。日常の健康状態や生活習慣に関する44の質問からなるアンケートを保護者に実施し、集計結果を年齢と全国を6つの地域に分けて、お口ぽかんの有病率に年齢差や地域差があるかどうかについての検討が行われたのである。

その結果、日本人の子どもたちの30.7%がお口ぽかんを示したという。

  • お口ぽかん

    子どものお口ぽかんの有病率 (出所:共同プレスリリースPDF)

また、お口ぽかんの有病率は年齢とともに増加していることも判明した。

  • お口ぽかん

    各年齢におけるお口ぽかんの割合 (出所:共同プレスリリースPDF)

さらに、子どものお口ぽかんの割合に地域差はないことも確認されたという。

  • お口ぽかん

    各地域におけるお口ぽかんの割合 (出所:共同プレスリリースPDF)

加えて44の質問項目のうち、12項目がお口ぽかん関連していることが確認された。

  • お口ぽかん

    お口ぽかん関連する12項目 (出所:共同プレスリリースPDF)

中でも「1分以上閉口できる」と「口を閉じて食べれる」の相関係数がマイナスであることが示され、お口ぽかんは「1分以上口を閉じていることができない」、「口を閉じて食べられない」ことと関連があると解釈できると共同研究チームは説明している。また、これらの項目には、顎顔面の形態や位置だけでなく、口呼吸やアレルギー性鼻炎などが関係していることが示唆されたとしている。

近年、子どもの口の健康な発達が重要であることが、徐々に明らかになってきている。これまでに共同研究チームが行ってきた子どものお口ぽかんに関する研究成果などはエビデンス(科学的根拠)として認められ、歯科保険診療において、2018年4月より「口腔機能発達不全症」に関する新病名の下、「小児口腔機能管理加算」が保険収載された。また2020年4月からは、「小児口腔機能管理料」と「小児口唇閉鎖力検査」が新設され、お口ぽかんは保険診療の対象となったのである。

このことは、従来の歯科治療の中心であったむし歯治療などの硬組織形態に関する疾患-修復モデルから、「食べる」、「話す」、「呼吸する」といった口腔機能に関する障害-改善モデルへのシフトが徐々に進んできていることを意味するという。

今回の研究結果から、子どものお口ぽかんは、子どもたちの成長期において自然治癒が難しい疾病であると考えられるとする。今後は、お口ぽかんの病態解析やその改善法の確立などにより、お口ぽかんに対するガイドラインの策定が必要となるとした。子どもの口のすこやかな成長発育を目指し、より一層「食べる」、「話す」、「呼吸する」といった子どもたちの口腔機能に関する基礎・臨床的な研究を今後も推進していくとしている。