米国の宇宙企業アクシアム・スペースは2021年1月26日、民間人4人による国際宇宙ステーション(ISS)への滞在ミッションを実施すると発表した。

搭乗するのは、元NASA宇宙飛行士で同社副社長のマイケル・ロペズ-アレグリア氏のほか、米国とカナダ、そしてイスラエル出身の民間人の計4人。

飛行にはスペースXの「クルー・ドラゴン」宇宙船を使い、ISSには約8日間滞在する。打ち上げは2021年1月以降の予定。

実現すれば、史上初の、完全に民間主導かつ、複数の民間人によるISS滞在ミッションとなり、宇宙飛行の商業化に向けた新たな幕が上がることになる。

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    国際宇宙ステーション(ISS) (C) NASA

アクシアム・ミッション1(Ax-1)

アクシアム・スペース(Axiom Space)は2016年に設立された企業で、テキサス州ヒューストンに拠点を置く。宇宙飛行、旅行の手配や仲介、サービスの販売を行うほか、将来的には国際宇宙ステーション(ISS)に自社製のモジュールを建設することを目的としている。

その実現のため、同社は民間の宇宙企業で唯一、民間および国の宇宙飛行士向けに、訓練やハードウェアの提供、安全性の認証、軌道上での運用、総合的なミッション管理などのサービスを提供しており、単なる宇宙旅行の代理店ではなく、宇宙飛行に必要なさまざまな要素やスキル、技術を有している。

同社は昨年3月、宇宙企業スペースXとの間で、クルー・ドラゴン宇宙船を使ったISSへの飛行ミッションの契約を締結。早ければ2021年の後半にも宇宙飛行サービスを開始するとされたが、その最初の乗客の名前などについては明らかにされなかった。

今回の発表では、その最初のミッション「アクシアム・ミッション1(Ax-1)」に、元NASA宇宙飛行士でアクシアム副社長のマイケル・ロペズ-アレグリア氏のほか、米国のラリー・コナー氏、カナダのマーク・パシー氏、そしてイスラエルのエイタン・スティベ氏の計4人が参加することが明らかにされた。

マイケル・ロペズ-アレグリア(Michael Lopez-Alegria)氏

1958年5月30日生まれで、現在62歳。元NASA宇宙飛行士として約20年間活動し、4回の宇宙飛行を実施。2007年にISSの長期滞在ミッションを終えたのち、NASAを退職。その後、2017年にアクシアム・スペースに入社した。

ラリー・コナー(Larry Connor)氏

1950年、米国生まれ。起業家、非営利活動家、投資家。Ax-1ミッションでは、民間人でありながら、クルー・ドラゴンのパイロットを務める。宇宙船の民間人パイロットは過去に例がなく、実現すれば史上初となる。

マーク・パシー(Mark Pathy)氏

1971年、カナダ生まれ。投資家で慈善家。Ax-1ミッションではミッション・スペシャリストを務める。カナダで宇宙に行く11人目の人物となる

エイタン・スティベ(Eytan Stibbe)氏

1958年1月12日生まれで、現在63歳。元イスラエル空軍パイロットだった経歴をもち、現在は投資家で慈善家として活動。また、イスラエル人初の宇宙飛行士で、2003年にスペースシャトル・コロンビアの事故で亡くなったイラン・ラモーン氏と親しい友人だったという。Ax-1ミッションではミッション・スペシャリストを務める。

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    Ax-1ミッションの搭乗者。左から、元NASA宇宙飛行士でアクシアム副社長のマイケル・ロペズ-アレグリア氏、カナダのマーク・パシー氏、米国のラリー・コナー氏、イスラエルのエイタン・スティベ氏 (C) Axiom Space

またバックアップ・クルーとして、元NASA宇宙飛行士のペギー・ウィットソン(Peggy Whitson)氏がコマンダー、米国の民間人ジョン・ショフナー(John Shoffner)氏がパイロットとして任命されている。NASAなどにおける宇宙飛行の伝統的なアプローチを踏襲し、プライム・クルーとバックアップ・クルーはともに、完全な訓練プログラムを一緒に受けることになっている。

Ax-1ミッションの打ち上げは2022年1月以降の予定だという。

4人はISSの米国のモジュールに約8日間滞在し、研究や慈善事業を行う。コナー氏は医学関係の研究プロジェクトを行うほか、故郷にある学校の学生に宇宙授業を提供。パシー氏はカナダ宇宙庁とモントリオール小児病院と協力し、健康関連の研究プロジェクトを実施する。

スティベ氏はイスラエル科学技術省とイスラエル宇宙機関と協力し、科学実験を行うとともに、軌道上からイスラエルの子供や若者、教育者を鼓舞する教育活動を行うことを計画しているという。

アクシアム・スペースの社長兼CEOを務めるマイケル・サフレディーニ(Michael Suffredini)氏は「私たちはこの歴史的なミッションのために、地球上の人々の生活をより良くすることに人生を捧げてきた人々を集めました。史上初となるISSへの民間ミッションは、宇宙における人類の大いなる未来を真に切り拓くものであり、彼らが宇宙から帰還した際には、世界に意味のある変化をもたらすことでしょう」とコメントしている。

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    Ax-1で使われるクルー・ドラゴン宇宙船 (C) NASA

史上初だらけのミッション、2024年には独自のステーションも

ISSへの宇宙旅行をめぐっては、米国の宇宙旅行会社スペース・アドヴェンチャーズ(Space Adventures)が、かねてよりロシアの「ソユーズ」宇宙船を使った宇宙旅行のチケットを販売しており、これまでに7人が飛行している(うち1人は2回飛行したため、飛行回数は計8回)。

一方、アクシアム・スペースのAx-1ミッションが実現すれば、民間企業の宇宙船でISSへ民間人が行く初のミッションとなる。また、民間人が宇宙船のパイロットを務めるのも初であり、さらに複数の民間人が宇宙へ行くのも初となる。

同社は今後、年2回までの頻度で、ISSへの民間人、またNASAなど国の機関に所属する宇宙飛行士の飛行機会を提供するとしている。ISSは2024年以降、民間に運用を移管することが計画されており、その中でも大きな役割を果たすことになろう。

ちなみに、具体的な飛行スケジュールは不明だが、俳優のトム・クルーズ氏らが搭乗し、宇宙で映画を撮影する計画もあるという。

アクシアム・スペースはまた、自己資金による独自の宇宙ステーションの建設も計画している。現在は「アクシアム・ステーション」というモジュールを開発中で、昨年1月にはNASAがISSへの設置を承認。早ければ2024年にも、最初のモジュールとなる「アクシアム・ハブ・ワン」が打ち上げられ、ISSのハーモニー・モジュール(ノード)に取り付けられる予定となっている。

また、ISSは将来的に老朽化による廃棄が予定されているが、その際にはアクシアム・ステーションの部分を切り離し、独立した宇宙ステーションとして運用を続けることが計画されている。

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    アクシアム・スペースが開発している独自の宇宙ステーションの想像図。まずはISSに結合する形で設置され、ISSの運用終了後は独立したステーションとなる (C) Axiom Space

参考文献

Ax1 Crew Reveal - Axiom Space
Axiom Space plans first-ever fully private human spaceflight mission to International Space Station - Axiom Space
Axiom Commercial Space Station - Axiom Space