エコシステムを構築
--今後、どのくらいの期間で5Gは浸透していくのでしょうか?
池田氏:当社の調査結果によると、5GでAIやIoTなどのテクノロジーの普及が加速すると回答した企業は75%弱に達し、3年以内に実現できると回答した企業は65%となりました。
5G自体を前向きに捉えている点は良いですが、3年以内に大きな成果が出ることは考えにくいのが実情です。体制の整備に時間がかかりますし、もし3年以内に実現できると考えるならば、幻滅すると思います。そのため、3年以上はかかると想定しなければなりません。
なぜ、3年以上かかるのか。この点については、現状ではフェーズ1の4G/LTEの設備を利用することを前提としたモバイルの高速通信を主体としたサービス提供の状態だからです。
今後、フェーズ2として制御システムなどへの適用が期待される低遅延などの仕様が確定し、これが実際に製品化するためにはチップを量産した上で機器を生産し、事業者に展開、構築、運用の準備をすれば、あっという間に2年は過ぎます。
ポイントとしては、ベンダーに任して2年間なにもせずに待たないことです。これまでのようにスマートフォン向けのインフラだけでなく、5Gは多様な設備向けのインフラになるため、ビジネスボリュームにおける使い方に関して各通信事業者や機器ベンダーなども把握できていないため、ユーザー企業と共同で検証しながら感触を得ていくことが2021年はスタートし、来年、再来年も続くと思われます。
この期間はベンダーの学習期間であり、ユーザー企業側としてもローカル5Gに代表されるように自社で運用していくことにフォーカスし、身近に5Gを利用していくことを考えるべきです。自社のインフラの一部として必要な設備、仕組みをなどを理解しておく必要もあり、理解するために2年では追い付かない可能性があります。
自社のデジタル戦略を検討する際に、それを実現するためのテクノロジーとして5Gを位置づけるべきです。これはAIやIoTなども同様です。
シナリオがないままだと同業他社の状況やベンダーはなにができるのかといった情報ばかりになり、やり方はわからないけれど周りがやっているから、なにかやってみようという空気を醸成してしまい、無駄なお金と時間が費やされてしまいます。
自社でやれるこにも限界があり、デジタルのエコシステムを構築することが肝要です。顧客、パートナーを含めたエコシステムをITを駆使して構築するべきです。そのためには自社だけでなく、全体像を描くために従来のIT部門は自社のプロセスや業務を自動化するためのテクノロジーを従業員に提供していましたが、スコープを広げて顧客向け、パートナー向けのサービスに展開すれば、5Gはここに役立つということが理解できるようになります。
--すぐにサービス化することは難しいと思いますが、どのようにお考えでしょうか?
池田氏:もちろん、難しいものだと思います。急に来年から新しいことをスタートさせるなど、大それたことをする必要はありません。例えば、国内の事例を挙げれば、小松製作所、NTTドコモ、SAPジャパン、オプティムの共同出資による事業会社のランドログは設立から3年経過しますが、探り探りの状態です。
デジタルの悩ましいことは、現在は普及していないが、将来的に明らかに普及することが見込まれる中で先取りして取り組まなければならないということです。そのため、経営者は危機意識を持たなければできないと思いますし、実際にIoTや5Gに注力している企業は約2割です。
また、10年後に自社のサービスが現在のクオリティと価格で販売できる自信の確信があれば、DXをする必要がありません。しかし、社会も消費者も変化していくなかで、そのようなことはなく、売れ続けるためには工夫が必要です。
その道具の1つにデジタルがあり、まだ道半ばです。本当のブレイクスルーは、規制やルールでNGになっているものがOKになることです。そのためにはルール変更に向けた検証期間が必要となることから、新型コロナウイルスの感染拡大は強制的に在宅でリモート対応しなればならない状況を作り出したため、ブレイクスルーが始まっています。
周波数をどのように利用するかについて、総務省、通信事業者、機器ベンダー、大学教授だけで決めてきましたが、多様な使われ方が想定されることから、さまざまな業界も含めて調整していく必要があります。これから決めるべきことが多く、新しいことにチャレンジするため部分的に展開しなければなりません。