地球外生命体を探索しているブレイクスルー・リッスンとSETI研究所は2020年12月19日、太陽系に最も近い恒星である「プロキシマ・ケンタウリ」の方向から、謎の電波を検出したと発表した。

宇宙人からの信号と確認されたわけではないが、自然では考えにくい周波数であること、またプロキシマ・ケンタウリには液体の水をもつ系外惑星が存在する可能性があることなどから、科学者たちは注意深く分析を続けている。

  • alt属性はこちら

    今回の電波を受信した、オーストラリアにあるパークス天文台にある64m電波望遠鏡 (C) CSIRO

プロキシマ・ケンタウリから届いた奇妙な電波「BLC1」とは?

SETI研究所によると、この信号は2019年4月と5月に、オーストラリアにあるパークス天文台にある64m電波望遠鏡で受信したものだという。

このときパークス天文台では、太陽系から約4.2光年の距離にある、赤色矮星「プロキシマ・ケンタウリ」から出る恒星フレアを観測していた。

その観測データを、地球外知的生命体の探索目的とした「ブレイクスルー・リッスン(Breakthrough Listen)」計画にインターンとして参加していた学生のShane Smith氏が分析したところ、奇妙な電波が含まれていることを発見。この信号に「BLC1 (Breakthrough Listen Candidate 1)」と名付けた。ブレイクスルー・リッスン計画において「候補」となる信号が捉えられたのは、この5年間の観測で初めてだという。

この電波は982.002MHzの周波数をもち、天体などが自然に生成したものとは考えにくいという。また、望遠鏡が他の方向を向いた際には電波が途絶えたため、プロキシマ・ケンタウリから出されたものである可能性も高いとしている。

プロキシマ・ケンタウリには、2016年に地球より20%ほど大きい惑星「プロキシマb」が発見され、また地表に液体の水が存在する「ハビタブル・ゾーン」の中にある可能性が高く、生命が存在する可能性もあると期待されている。また2019年には、ハビタブル・ゾーンの外側ではあるものの、「プロキシマc」という別の惑星も見つかっている。BLC1には周波数の変動(ドップラー偏移)が見られ、これはプロキシマ・ケンタウリのまわりを公転する惑星から送信されたものと考えると辻褄が合うという。

ただし、現時点ではあくまで「候補」であり、地球外知的生命体から送られてきたことはおろか、そもそもプロキシマ・ケンタウリやそこを回る惑星から届いたことも確認されたわけではない。

ブレイクスルー・リッスンのチェアマンを務めるPete Worden氏は「注意してほしいのは、テクノシグニチャー(地球外知的生命体が存在することを示す証拠)であることが確認されたわけではないということです。しっかりとしたプロトコルにしたがって分析を進めています。現時点(12月19日)では、興味深い信号が捉えられたというだけで、その発信源すら追跡できていません」とコメントしている。

また、SETI研究所のFranck Marchis氏は「この信号は候補です。ただ単に候補です。プロキシマ・ケンタウリでテクノシグネチャーが見つかったと推測するのはまだ早いです」と忠告している。

そして「最新の研究では、銀河系の中の20万光年以内に、居住可能とみられる系外惑星は3億個ほどあると考えられていますが、そのうち近いところにある2つの文明(地球とプロキシマbかcのひとつ)が、同時期に同じ技術で通信や信号のやり取りをしようとしているというのは、とてもあり得ないことだと思います。そのため、この信号の起源は、たとえば地上から出ている電波や人工衛星からの電波を誤検知したなどといった、もっと地に足の着いた理由によるものという結論になるのではと考えています」と付け加えている。

ブレイクスルー・リッスンは現在も分析を続けており、数週間以内に論文として詳細を発表する予定だという。

最も可能性が高いのは地上や宇宙からの雑音

地球外知的生命体からの信号と思われる電波は、これまでも何度か検出されているが、そのほとんどが、地上の送信機や電化製品、宇宙を飛ぶ人工衛星から出た電波が混ざり込んだもの、もしくは宇宙や大気圏上層の自然現象から発せられたものだということで結論付けられている。まだ結論が出ていないケースもあるが、かといって地球外知的生命体から送られたということを示す証拠は何一つない。

たとえば1998年には、今回と同じパークス天文台において「Peryton(ペリュトン)」と名付けられた奇妙な電波が見つかり、17年間にわたってその正体は謎に包まれていたが、2015年に天文台の施設内で使われていた電子レンジが発信源だったことが判明した。

また2016年にも、ロシアの電波望遠鏡がきわめて強い電波を受信。自然界には存在しないはずの周波数であり、また人工的に出されたものであるなら、地球文明よりもはるかに進歩した文明でなければありえないことなどから、世間の注目を集めた。しかしその後の分析の結果、地球由来のものであった可能性が最も高いと結論付けられている。

今回の電波に関しては、観測中に周波数がわずかに変化していることから、地球上から来ている可能性は低いとしている。一方で、地球のまわりを回る人工衛星は、その軌道の運動によって周波数の変動を引き起こすため、その電波を誤って受信したものである可能性はありうるという。電波天文学や地球外知的生命体探査はかねてより、衛星が出す電波が雑音(ノイズ)となって観測を妨げられるという問題に悩まされており、今回もそのひとつに過ぎないのかもしれない。

またSETI研究所によると、強い磁場をもつ天体から自然に出ている電波放射に過ぎない可能性もあるという。たとえば木星の電波バーストのような現象がプロキシマ・ケンタウリの惑星でも起こっており、それを捉えたというものである。もっとも、仮に木星がプロキシマ・ケンタウリにあったとすれば、その電波バーストを捉えるにはパークス天文台の1000倍の感度の望遠鏡が必要か、あるいは1000倍大きな電波バーストを出している必要があるとし、可能性はかなり低いとしている。

参考文献

A Signal from Proxima Centauri? | SETI Institute
Did Proxima Centauri Just Call to Say Hello? Not Really! | SETI Institute
Breakthrough Initiatives
About Parkes radio telescope - CSIRO