年賀状シーズンを前に、各プリンターメーカーから家庭用インクジェット複合機の最新モデルが出そろいました。各社とも実売3万円台前半の製品を売れ筋の主力とするなか、セイコーエプソンは実売6万5000円前後の新製品「EW-M873T」を年末年始の自信作として売り込みます。テレワークや在宅学習で“おうちプリント”のニーズが高まるなか、売れ筋モデルの倍近く奮発して買う価値はある製品なのか、チェックしました。

  • セイコーエプソンが12月中旬に販売を開始したエコタンク搭載のインクジェット複合機「EW-M873T」(右)。「交換インクで儲ける分、プリンター本体は格安」という従来モデルのビジネスモデルから脱却した製品だ。交換インクの価格は格安だが、その代わり実売価格は税込み6万5000円前後とお高め

大容量インクタンク搭載モデルの中では充実した装備を持つ

新型コロナウイルスの拡大でテレワークや在宅学習が広がり、書類や教材をプリントする機会が増えました。コンビニプリントを利用すれば自宅にプリンターがなくても済みますが、料金はカラーだと60円前後、モノクロでも20円前後するので、大量の印刷には向きません。そもそも、プリントするためだけにコンビニに出向くのは面倒なもの。

大量の印刷ならば自宅にプリンターを導入するのが一番ですが、かつてインクジェットプリンターを所有していて「インクがすぐなくなる」「インクカートリッジが高い」といったネガティブな印象を持つ人は少なくありません。従来のインクカートリッジ式モデルは、プリンター本体の価格を安く抑えて買いやすくする代わりにインクカートリッジの価格を高めに設定し、交換インクの販売で利益を出すビジネスモデルであるため、インクの高さが目についてしまうのです。

  • インクカートリッジ式のインクジェットプリンターで交換インクの出費がかさみ、「金食い虫のプリンターはもういらない」と考えている人も少なくない

これを受け、インクジェットプリンターはビジネスモデルを転換して大容量のインクタンクを搭載した製品に主力がシフトしつつあります。大容量インクモデルは、プリンター本体の価格こそかなり高めなものの、印刷コストは従来のインクカートリッジ式の数分の1程度で済むのが特徴。1回インクを注入すれば数千枚はプリントでき、インク切れのストレスとは無縁になります。

特に大容量インクモデルを推進しているのがセイコーエプソンで、今年の自信作として売り出したのが高性能モデル「EW-M873T」です。これまで、大容量インクモデルは「文書を低コストでガンガン印刷できる」という位置づけの製品がほとんどで、デジカメプリントの画質は低水準にとどまったり、装備が簡素という欠点が存在。SOHOやオフィスでの事務用途には向いていたものの、一般家庭では性能面でちょっと物足りない印象がありました。

  • ほぼ箱形に近いスッキリとしたデザインに仕上げているEW-M873T。プラスチック感がアリアリな外装は、6万円超の価格を考えるともうちょっと質感を高めてほしいと感じる

EW-M873Tは、6色インクの採用でデジカメプリントを写真画質に引き上げつつ、CD/DVDレーベルプリント機能や自動両面印刷機能など装備を充実させたのが特徴。本体は、大容量インクタンクや大画面液晶を搭載しながら出っ張りのないコンパクトなデザインにまとめています。

  • インクボトルからドボドボと注いでインクを補充できるのがエコタンク搭載モデルの特徴。1回満タンにすれば、軽く数千枚はプリントできる

  • A4サイズまでの普通紙と写真用紙を同時にセットしておける。それぞれ自動両面印刷に対応する

  • エコタンク搭載モデルでは珍しくCD/DVDレーベル印刷に対応する

これまでにない新しい趣向として、スマートフォンの専用アプリを使うことで、Wi-Fi設定など購入後のセットアップを大幅に簡略化したのが目を引きます。これまでは、プリンター本体のパネルや操作ボタンを使ってWi-Fiアクセスポイントの指定やパスワード(暗号化キー)を入力をする必要があり、かなり面倒でした。EW-M873Tは、スマホの専用アプリがBluetooth経由でプリンター本体を自動検出し、アプリ上でWi-Fi設定が済むようになりました。暗号化キーもスマホで入力でき、セットアップのストレスは感じませんでした。

  • 専用アプリ「Epson Smart Panel」を導入したスマホを用いれば、Wi-Fiなどの設定が簡単にできるよう工夫している

  • 電源を入れたプリンターの近くにスマホを近づければ自動でプリンターを検出し、Wi-Fi設定などがスムーズに済ませられる

スマホやパソコンから印刷を実行した際、排紙トレイが電動でせり出してくる機能も搭載しています。従来のエコタンク搭載モデルは大半の機種が手動で排紙トレイを引き出す必要があり、引き出すのを忘れるといつまで経ってもプリントが出てこない欠点がありました。トレイが動く際の音がかなり甲高くうるさいものの、搭載した点は評価できます。

  • プリント命令を受けると排紙トレイが自動で手前にせり出してくる。画面の右下にある「排紙トレイ」ボタンを押せば電動で収納される

印刷コストは圧倒的、デジカメプリントの画質も満足

自宅に設置して家族で使ってみましたが、PDFで届いた資料をプリントしたり、子どもの教材をコピーして繰り返し学習させたい、といった場合にカラーで気兼ねなく印刷できるのはストレスがなく快適だと感じました。印刷コストはカラー文書が約1.6円、モノクロならわずか約0.7円にとどまり、100枚プリントしても200円に届きません。写真や文書を相当数プリントしても、外から見えるインクタンクは減る様子がないほどです。

デジカメプリントの品質に満足できた点も評価できます。従来のエコタンク搭載モデルの多くは普通紙への文書印刷を主眼に置いているため、ブラックインクは普通紙のにじみが少ない顔料インクのみを採用しています。デジカメプリント時は顔料ブラックを除いたCMYの染料3色(シアン、マゼンタ、イエロー)での印刷となり、髪の毛など黒い部分が引き締まらない傾向がありました。しかし、EW-M873TはCMYに加えて染料ブラックやグレーインクを含む5色でのプリントとなり、カラーもモノクロも文句のない写真画質に仕上がりました。もちろん、顔料ブラックインクも搭載しているので、文書もキレイに仕上がります。

  • デジカメプリントの品質は満足できる。モノクロプリントも色転びのないニュートラルなモノクロに仕上がった

プリンターにつきもののストレスや手間から解放されるのが魅力

大容量インクタンクを搭載したEW-M873Tは、インク代のことを気にせずにガンガン印刷できる環境が手に入るのが何よりの魅力といえます。通信や通話をするごとにお金がかかる従量制プランから使い放題の定額プランに移行したスマホがグンと便利に活用できるように、プリンターが使い放題になると存在価値が明確に高まると感じました。

とはいえ、やはりプリンター本体の価格の高さは気になります。インクジェット複合機は、画質や装備にこだわらなければ数千円で購入できる格安品もあるなかで、税込み6万5000円前後という価格は確かに高価。価格面で万人に薦められるモデルではないのは確かですが、とにかく無駄なストレスや手間とは無縁でガンガン印刷したい、と品質と効率を求める人は検討する価値があると感じます。