国立循環器病研究センター(国循)、大阪大学(阪大)、慶應義塾大学(慶大)の3者は11月24日、むし歯の原因菌である「ミュータンス菌」のうち、脳の血管内のコラーゲンと結合できるcnm遺伝子を保有するタイプの「cnm陽性ミュータンス菌」が、微小脳出血の出現に関与することを明らかにしたと発表した。
同成果は、国循 脳神経内科の細木聡医師(慶大大学院 医学研究科博士課程4年)、同・齊藤聡医師、同・猪原匡史部長、阪大大学院 歯学研究科 口腔分子感染制御学講座の野村良太准教授、同・仲野和彦教授、慶大医学部内科学(神経)の中原仁教授、同・鈴木則宏名誉教授、英・サウサンプトン大学医学部のRoxana O. Carare氏、米・ルイビル大学脳神経内科のRobert P. Friedland氏らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米・脳卒中協会発行の国際誌「Stroke」に掲載された。
がん・心疾患と並んで日本人の三大疾病に数えられる脳卒中。厚生労働省の発表によれば、脳卒中が2019年の全死亡者に占めた割合は8.8%で第4位だった(1位がん、2位心疾患、3位老衰)。脳卒中とは脳の血管に起きる疾患をまとめて表しており、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳(内)出血」および「くも膜下出血」に分類される。
このうち、脳出血は脳卒中のうちで約20%を占め、比較的発症する年齢が若く、症状が重篤となりやすいことが知られている。また、脳出血は高血圧や糖尿病などの生活習慣病と関わりが深いが、それだけでは説明できない部分も多く、未知の要因があると考えられてきた。
そうした背景において、2016年に国循の猪原部長らの研究チームらが明らかにしたのが、脳出血患者にはcnm陽性ミュータンス菌を持つ割合が多く、脳のMRI画像で観察できる微小な脳出血の跡が多いことだ。日本人の5人に1人が、この同菌を口中に保有しているとされる。しかし、実際に同菌の保有者の脳内で微小な脳出血が増えていくのか、経時的な変化はこれまで明らかになっていなかった。
そこで国際共同研究チームは今回、脳卒中で国循の病院に入院した患者から同意を得て歯垢の採取が行われ、その中に含まれるミュータンス菌を培養。cnm陽性ミュータンス菌と経時的な微小脳出血の出現率の関係が調査された。その結果、cnm陽性ミュータンス菌が歯垢中から検出された患者は、そうでない患者と比較して、微小脳出血の出現率が4.7倍高いことが判明した。
このcnm陽性ミュータンス菌は、生活習慣や年齢の影響によって、ほころびが出た脳血管のコラーゲンに接着して炎症を起こし、出血を止める血小板の働きを抑制することで、脳出血を引き起こすのではないかと考えられるという。
今回、cnm陽性ミュータンス菌と脳出血との関係を明らかにできたことから、今後、脳卒中の機序の解明に寄与するものと考えられるとする。現在、cnm陽性ミュータンス菌によって脳出血が引き起こされるメカニズムを探索する基礎研究や、国内15施設と協力して進めている多施設前向き研究、アフリカ、東南アジアを含む世界中の他人種・地域における同菌の役割を検討する国際共同観察研究が実施中だ。日本では欧米諸国と比較して脳出血が依然として多く、口腔内の悪玉虫歯菌を減らすため、口内を清潔にすることが有効と考えられるとしている。