昨今のIT技術の進歩や、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が、企業だけでなく自治体も働き方の変革を加速させている。渋谷区では、渋谷区基本構想の実現に向けて区政運営改革の一環として2019年1月に、ICT基盤の全面刷新を行っている。
そこで、渋谷区役所 渋谷区経営企画部 ICT戦略課長 伊橋雄大氏は11月17日、シトリックスが開催しているオンラインイベント「Citrix Future of Work Tour 2020 Japan」に登壇し、同区の職員におけるコロナ禍での働き方や、それを支えるICT基盤についての説明を行った。
コロナ禍以前からのICT基盤のアップデート
伊橋氏は「庁外からのアクセスやBYOD(Bring Your Own Device)が可能なICT基盤を、2019年からゼロから設計・構築していたことで、コロナ禍においても業務を滞らせることなく進めることができた」と語り、同区が新庁舎開庁に向けてICT基盤を2019年1月より刷新したことについて説明した。
具体的に行ったことは、まず、すべてのデスクトップPCを、モバイルPC「Surface Pro 6」(一部ThinkPad)へと変更し、モバイルワークやリモートワークができるように、有線LANのみの接続環境から区内全域にWi-Fiルータといった無線環境を設備した。
また、旧庁舎ではなかったスケジュール管理ツール「Outlook」を導入し、全職員の予定を共有するだけでなく、会議室の予約、物品の管理といった業務の効率化が進んだとしている。電話についても、全職員にIP電話(Skype for Business)を導入し、係ごとに数台あったアナログ電話を撤廃した。BYODも可能となり、決済方法に関しても紙による押印から、ほぼ100%電子決裁に移行したという。
コロナ禍における働き方の変化
同区では2019年7月に、オリンピック開催期間の出勤抑制を目的としてテレワーク強化月間を設け、その強化月間が2019年11月まで延長され、そのまま新型コロナウイルス感染症の対応でテレワークがさらに推奨されるようになったという。
コロナ禍においては窓口職場以外の出勤率を50%にするといった目標を掲げ、コワーキングスペースが100カ所以上用意されているサテライトオフィスや在宅勤務を回数無制限で許可し、モバイルWiFiルーターの500台追加配備(計1000台)や、VPNゲートウェイサーバー増強など、テレワークがしやすい環境を構築した。
またBYODについても、申請方法の簡略化や利用促進通知などを行った結果、緊急事態宣言前後で約200人利用者が増え、現在では700人以上の職員が利用しているという。
「Microsoft Teams」の活用率もコロナ禍以前より増加している。グループチャットやビデオ会議による素早いコミュニケーションはもちろん、ファイルの同時編集による作業の効率化が見られるようになった。それだけでなく、同区が主催するMicrosoft Teamsを活用したテレビ会議に外部の関係者が参加できるようにしたという。
仮想化を徹底したネットワーク構成
一般的な自治体のネットワークは、マイナンバーなどを扱う「個人情報系」、「LGWAN(Local Government Wide Area Network)系」、「インターネット接続系」の3つだが、渋谷区ではこれに加えて、「コア系」という独自のネットワークセグメントを構築している。
コア系に職員が使用する物理的なPCを配置し、その他3つのそれぞれ完全分離されているネットワークセグメントには仮想環境を使用してアクセスしている。具体的にいうと、インターネットを閲覧する場合、コア系の物理PCで仮想ブラウザを使い、東京都セキュリティクラウドを経由してインターネット接続を行う。またこの際、上長の承認がなければ、コア系からインターネット接続系へファイルの移動やコピーといった動作を行うことはできない。
一方、LGWAN系と個人情報系には、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)を構築しており、コア系の物理PCからVDIを経由して接続を行っている。コア系からLGWAN系へファイルをコピーする際は、セキュリティ性を保つために、上長の承認だけでなくファイル無害化処理を必須としている。
また、職員がテレワークを実施する際は、庁外からノートPCをVPN(Virtual Private Network)接続でコア系に接続することによって、庁内とほとんど同じ環境で業務を行うことができる。BYODに関しては、コア系に接続することはできないが、私物のスマートフォンで、「Office365」の機能が利用できるようにしている。モバイルデバイス管理ツールの「Microsoft Intune」を活用して、管理されたアプリケーションからスマートフォン本体側へのファイルコピーなどが行えないようにし、端末紛失時にはリモートワイプを実行するなど、MDM/MAM(Mobile Device Management/Mobile Application Management)を実現させている。
渋谷区が目指す未来のICT基盤
渋谷区では、今後のICT基盤を「職員にパワーを」「業務最適化」「サービス変革」「区民とのつながり」の4つのテーマで構築していく方針だ。「職員にパワーを」では、新型コロナ時代に対応する時間・場所を選ばないニューノーマルな働き方を追求し、「業務最適化」の観点からは、クラウドファーストや、ゼロトラストアーキテクチャ、5Gといった最先端の技術活用を行っていく。
また、「サービス変革」では、非来庁型・非接触型サービスなどが実現できるように、さまざまなデータを活用していくとし、「区民とのつながり」のテーマとしては、区民との電話環境のさらなる改善や、オンライン会議の促進などを実行し、区民との垣根を無くしていくとした。
伊橋氏は、「渋谷区が、素早く動ける集団や既成概念にとらわれない職場を構築し、"新しいワークスタイルをちからに変える街"になれるように、4つのテーマでICTを加速させたい」と語り、講演を締めくくった。