東京大学は11月11日、東大 木曽観測所の超広視野CMOSカメラおよびAIソフトウェア群からなる観測統合システム「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)」と、京都大学 生存圏研究所の「MU(ミュー)レーダー」を用いて、合計228件の流星を可視光とレーダーで同時に観測することに成功したと発表した。また、過去に実施した同時観測のデータと合わせて、レーダーによる観測結果から流星の明るさやダストの質量を求めるための手法を定式化したこと、宇宙からの質量流入が1日におよそ1トン程度であると見積もったことも合わせて発表された。

同成果は、東大理学系 研究科附属 天文学教育研究センターの大澤亮特任助教、同・酒向重行准教授らの共同研究チームによるもの。また、日本大学理工学部航空宇宙工学科(阿部研究室)、スウェーデン・宇宙物理研究所、国立極地研究所の研究者らにより、今回の観測データの共同解析も行われた。詳細は、「Planetary and Space Science」に掲載された。

太陽系の惑星間空間は、実はホコリっぽい。彗星がまき散らしたり、小惑星同士の衝突したりすることなどによって、微小な粒子である「惑星間空間ダスト」が絶えず生成されており、それで満たされているからだ。しかし、これら惑星間空間ダストは単なるホコリではない。それらの空間密度やサイズごとの量を調べることで、太陽系小天体の活動や微小な粒子の進化を調べることができる重要な情報源なのである。

太陽~地球間の平均距離である1天文単位(1天文単位=約1億5000万km)付近での惑星間空間ダストの大半は、0.001mgから10mg程度の微粒子が占めていると考えられている。このサイズのダストは空間密度が低いため、人工衛星や探査機によって効率よく調査することは困難だ。

一方で、惑星間空間ダストは日常的に地球に降り注いでいることも知られており、ダストは大気圏に突入して流星として観測されている。地球の大気そのものを巨大な検出装置として使うことが可能なことから、流星観測は以前から惑星間空間ダストの研究に広く用いられてきたのである。なお、大気圏に突入して流星となったダストのことは、正確には「メテオロイド」と呼ばれている。

流星観測も現在ではさまざまな手法があり、質量が10mg以下の小さなダストが引き起こす暗い流星(微光流星)は、大出力の大型レーダー設備を用いた「流星ヘッド・エコー観測」によって研究されている。

同観測手法は、大気中を運動している流星の先端で発生しているプラズマに電波パルスを当て、反射してきた信号を観測する手法のことだ。ターゲットとなるプラズマは流星と共に移動するため、流星の位置と速度を正確に求めることが可能である。そして、微光流星でも効率よく見つけ出せることも優れた点のひとつだ。

しかしその一方で、流星ヘッド・エコー観測は観測量であるレーダー反射断面積からダストの質量を求めることが難しいという課題があった。レーダー反射断面積とは、レーダー観測において、ターゲットがどれだけ発見されやすいかを表した指標のことだ。送信したパルス波の強度と返ってきた信号の強度の比から計算され、流星ヘッド・エコー観測においては、どれだけの大きさのプラズマが形成されたかの指標となっている。

レーダー反射断面積からダストの質量を求めることが難しいという課題を解決する方法のひとつが、レーダーと可視光による同時観測だ。流星ヘッド・エコー観測と光学観測の両方で同一の流星を捉えることで、レーダー反射断面積と流星の明るさを結びつけることができ、光学観測の手法でダストの質量を導出することが可能となるのである。

ただし、この同時観測もまた課題を抱えていた。これまでは、主に光学観測の感度不足のために、レーダー反射断面積と光度の関係を十分な精度で得ることができなかったのだ。

そこで共同研究チームは今回、東大 木曽観測所(長野県木曽郡木曽町)で開発した超広視野CMOSカメラとAIソフトウエア群からなる観測統合システム「トモエゴゼン」と、京大 生存圏研究所の「MUレーダー」を組み合わせることで、課題の解決を図った。「トモエゴゼン」は、木曽観測所が中心となって2014年から開発を初め、2019年4月にフルモデルがファーストライト(初観測)となった、105cmシュミット望遠鏡用の広視野CMOSモザイクカメラだ。

84枚の35mmフルHD CMOSセンサをモザイク状に組み合わせることによって、約20平方度の面積(満月の面積の約84倍)を秒間2フレーム(2fps)で連続的に撮影できる性能を有する。一晩の観測で30TB(映画約1万本分)の観測動画データを得られるという。

一般的に現在の天文観測装置の撮影にはCCDが使われているが、CMOSセンサはデータの読み出し速度が速いため動画観測に適していることから採用された。天文観測装置は静止画撮影が一般的なため、「トモエゴゼン」は希少な機能を持った観測装置となっている。また、観測データを即時に解析して過去のデータと比較することで、天体の明るさや位置の変化を高精度に把握することが可能。流星観測も、10等級程度の微光流星まで捉えることができる性能を有する。

ちなみに「トモエゴゼン」は、天文観測装置でよく見かける正式名称の略称ではない。木曽観測所のある木曽地方で、源平合戦の時代(平安時代末期)に同地方を拠点としていた源義仲に仕えて活躍したとされる女性武者にちなんでつけられている。

一方の「MUレーダー」は、京大 生存圏研究所の信楽MU観測所(滋賀県甲賀群設楽町)の主要施設で、1984年から稼働している世界最高クラスの性能かつアジア圏最大級の大気観測用レーダーだ。高度1~25kmの対流圏および下部成層圏、高度60~100kmの中間圏、高度100~500kmの下部熱圏および電離圏領域の観測を目的として開発された、VHF帯の大型レーダーである。475本のアンテナによって直径103mの円形アレイを構成している点が特徴となっている。なお「MUレーダー」のMUは、中層大気の「Middle Atmosphere」と、超高層大気の「Upper Atmosphere」を表している。

共同研究チームは、この組み合わせならMUレーダーが観測する微小な粒子による流星を光学的に捉えることができると判断。2018年4月18日から21日の4日間にわたって、「トモエゴゼン」を「MUレーダー」の上空100kmほどの領域に向け、2fpsでの動画観測が実施された。同時刻に「MUレーダー」も上空を観測し、同じエリアを「トモエゴゼン」が側方から観測するという、“十字観測”ともいうべき態勢である。

  • トモエゴゼン

    東大 木曽観測所の「トモエゴゼン」(105cmシュミット望遠鏡)と京大 生存圏研究所 信楽MU観測所の「MUレーダー」による同時観測の概念図。両施設は直線距離でおよそ173kmの距離がある。MUレーダーは上空100kmの流星をモニタリングしており、トモエゴゼンはMUレーダーが監視している空域を横から観測する形だ (出所:東大Webサイト)

MUレーダーで実施した流星観測の結果と、「トモエゴゼン」が撮影した観測動画の慎重な照らし合わせが行われ、合計228件の「散在流星」(特定の流星群に属していない流星のこと)が、ヘッド・エコーおよび光学観測の両方で確実に捉えることができたと結論づけられた。わずか4日間でこの数の同時観測を達成することができたのは、高い感度で動画観測ができる「トモエゴゼン」の性能によるところが大きいという。

また、共同研究チームが2009年から2010年にかけて収集したMUレーダーと高感度CCDカメラによる同時観測103件のデータも加えられ、レーダー反射断面積と可視等級の関係が分析された。

  • トモエゴゼン

    同時観測した流星のレーダー反射断面積と可視光の等級の関係。今回の観測により、およそ2等級から10等級まで、1000倍以上明るさの違う流星について一貫した関係が成り立つことが確認された。今回の同時観測によって、レーダー反射断面積と可視光の明るさを結びつけるための関係式を得ることができたという (出所:東大Webサイト)

さらに共同研究チームは、今回得られた結果を2009年から2015年にかけて実施されてきたMUレーダーによる散在流星のアーカイブデータに適用。合計15万件の散在流星のデータが解析され、流星を引き起こしたダストの質量が見積もられた。

  • トモエゴゼン

    MUレーダーが捉えた流星に対応する惑星間空間ダストの質量と地球に流入している個数の関係。惑星間空間ダストが地球へ流入する個数は軽いダストほど多く、その関係はほぼ直線で近似できる。ただし、0.01mgよりも軽いダストは感度不足のため十分に捉えられていないという。今回得られた関係式をもとに、ダストの質量が見積もられた結果、地球全体に流入する惑星間空間ダストの質量は1日あたりおよそ1トンになるとされた (出所:東大Webサイト)

この結果により、ヘッドエコー観測では0.01mgから1g程度のダストを捉えられていることが判明。このことから、MUレーダーが地球付近に存在する惑星間空間ダストの主要な部分を調査する能力があることを示してもいるとする。

また、観測された流星の数をもとに、流星として宇宙から地球に流入してくる物質の量も見積もられ、およそ1日に1トン程度という推定に至ったとした。今回の研究によって、地球付近に存在している惑星間空間ダストの質量を見積もるための重要な指標を導き出すことができたとしている。

研究チームは今後、群流星の性質に注目することや、流星の色や軌道に注目することによって、惑星間空間ダストの起源に迫る研究を進めることを計画しているとした。