KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルをはじめとする37社は、NTT持株によるNTTドコモの完全子会社について、総務大臣へ対して公正な競争環境整備の意見申出書を提出すると発表した。
この意見申出書は、電気通信市場の持続的発展に向けた公正な競争環境整備を求めるもの。2020年9月29日にNTT持株がNTTドコモの完全子会社化を目的に公開買付けの開始を公表したことを踏まえ、NTTドコモの完全子会社化が実現すると、NTTの一体化、NTTの独占回帰につながり、公正な競争環境が失われ、利用者利益を損なう恐れがあることから、議論を求めるべく、提出を決めた。趣旨に賛同した37社を代表して、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社が意見申出の経緯・理由を説明した。
意見申出書では、大きく「情報通信審議会または、同様の場での公開の議論が必要」であること、また「環境変化に応じた競争ルールの整備が必要」であることを訴える。これまで、日本電信電話公社を母体とする旧NTTと公正な競争を事業者が行えるよう、「NTTの完全民営化」「NTTドコモに対するNTT持株の出資比率の低下」などが求められてきた。しかし、今回の完全子会社化は、これまで進めてきたNTTとの競争政策の目的にそぐわないものであり、趣旨に逆行するものであるため、意見申出書の提出に至った。
説明会に登壇したKDDI 理事 渉外広報本部 副部長の岸田隆司氏は「5G時代、さらにはBeyond5G、6G時代に向けて、NTTの在り方にかかる必要な競争政策について、議論・措置を行い、公正な競争環境のもと、事業者間の活発な競争によって、利用者利便性の向上を目指すことが重要」と指摘する。
NTTドコモの完全子会社化が実現した場合に起こりうる問題としては、グループの利益最高を図るための利益相反取引などによる競争事業者の排除や、NTT東西とドコモ間で人的一体性が強まることで「接続」や「卸役務」などについて情報の同等性が確保されないといったことが挙げられる。
特に、高密度な基地局展開が求められる5Gの普及に向けて不可欠な「光ファイバー」についても、NTT東西が設備シェアを75%有しており、ますます光ファイバーのボトルネック性が高まっていくことが予想されるという。
それらの光ファイバーを、競争事業者が完全に同じ条件で利用できなければ公正な競争が確保されないが、NTTドコモが完全子会社されると、接続や卸役務が内部取引化されるため、透明性が損なわれる恐れも。これに対して、ソフトバンク 渉外本部 本部長 渉外担当役員代理の松井敏彦氏は「懸念しているのは、一見同等に見えるものの、接続料金などについてNTTグループ内でお金が移動しているだけになるので、料金が高止まりする恐れもある。表に見えない部分で競争から排除されるリスクがある」と説明する。
楽天モバイル 執行役員 渉外部長の鴻池康一郎氏は「新規事業者である我々楽天モバイルは、NTTさんの基地局と光ファイバーをお借りしているかたち。料金の高止まりなどがあると、公正かつ競争環境が阻害されることになる。参入障壁にもなりえる」と懸念点を示した。
また、松井氏は「公開買い付け自体を止めることは難しいが、順序が逆になってしまったとしても、きちんと議論を行っていきたい」と方針を示す。必要に応じて、公正取引委員会などへアクションを起こしていくという。
さらに、NTTドコモの完全子会社化を公表した際の記者会見においては、NTTコミュニケーションズやNTTコムウェアをNTTドコモグループに移管することを検討している旨の発言があった。NTTコミュニケーションズおよびNTTコムウェアは、1999年のNTT分離・分割(NTT再編成)などに際して求められた、分離時の公正競争要件の対象となる特別な会社。このような公正競争要件の対象となるNTTグループ会社の組織改編については、NTTの在り方に関する政策議論を踏まえて措置されてきたNTT再編成の趣旨は維持しつつも、組織改編によって起こり得る各社のネットワーク・顧客基盤の統合などが及ぼす公正競争への影響を踏まえて、5G、Beyond 5Gに向かうにあたり必要な公正競争要件を改めて議論する必要があると主張する。