ソフトバンクは11月4日、2021年3月期 第2四半期の決算説明会を開催しました。今期も増収増益の決算。登壇したソフトバンク代表取締役の宮内謙氏は「事業の多様化により、コロナ禍でも増収増益を確保する基盤ができました」と報告しました。

  • ソフトバンク2021年3月期 第2四半期の決算説明会

    ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮内謙氏(ソフトバンク提供)

ヤフー・法人が増収増益を牽引

2020年度上期の連結業績は、売上高は2兆4,284億円(前年同期比553億円増)、営業利益は5,896億円(同376億円増)でした。宮内社長は「コンシューマでは減収しましたが、ヤフー・法人の増収により、コロナ禍でも増収増益が継続できました。営業利益も7%増と非常に堅調に伸びています」と評価しています。

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    今期の連結業績

これは従来の通信事業のビジネスモデルを超えて、幅広い産業分野で革新的なサービスを提供していくBeyond Carrier戦略の成果だと説明。収益源が、ヤフー、通信・その他、法人、コンシューマサービスといったように多様化しており、例えば売上高においてモバイル通信料が占める割合は29%まで減っていることを強調しました。

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    コンシューマサービス(モバイル通信料など)で減収しても他事業でカバーできる構造に

eKYC、eSIM、NTTドコモの完全小会社化について記者の質問に回答

決算説明が終わると、記者団の質問に宮内社長が回答していきました。

総務省のアクションプランの受け止めについて、特にeKYC(electronic Know Your Customer、オンラインの本人確認ソリューション)やeSIMについて聞かれると「実はeKYCはワイモバイルで9月から始めています。PayPayでもeKYCをしなくてはいけない、ということで始まっている。音声SIMの契約については昔からレギュレーションが厳しく、すべてきちんと個人認証してきましたが、データSIMは違いました。だから大変な事件も起こりました」と回答。そして「eSIMも当然、前向きに進めていきますが、eKYCとリンクさせないと危険だと思います。事業拡大の観点でも、新しい方式を導入していく次第です」と説明しました。

また、同日の午前中、楽天モバイルが「大手携帯キャリアとして初めてeKYCによる加入手続きを開始する」と発表したことについて聞かれると「あれは違うなと思いました」と吹き出すひと幕も。「僕らは宣伝していませんが、すでに9月からやっています。ワイモバイルはネットでの販売も増えてきているんです。eSIMも前向きに検討しています」と再度強調。eSIMとeKYCの組み合わせにより、複雑だった回線契約を当日中に完了するサービスも発表する予定だと明言しました。

NTTドコモが完全小会社化される動きについては「驚きました。もともと電電公社から分離したカタチでやっていく、という前提があった。だからそのあり方について...。完全一体化していいものか。そうですか、と受け止めるだけでなく、こうしてほしいなど、我々も意見していきたい。私は電気通信事業者協会の会長もやっていますが、会員からもさまざまな声が挙がっている。本当に公正な競争を歪める懸念はないのか、話し合いをしていきたい」と意見を明らかにします。

また、携帯通信市場の環境は変わっていくと見ているか、と聞かれると「いろんな噂が出ています。コムさんとくっつくとか。でも具体的な動きは分かりません。NTT東西とくっつくようなことはないと思う。詳しくは分かりませんが。ドコモさんが自由闊達にやられてきた事業が、NTTさんの中でやることになれば、プラスとマイナスの両面があるのでは」とコメント。そして次のように続けました。

「電柱から光ファイバー網から、何から何まで持っている。我々もバックボーンのネットワークで、NTTグループさんの光ファイバーを活用させてもらっている。だから、そこを歪めると大変なことになります。変なカタチで動いて、価格が変わったりすると、えらいことになる。もともと国の資産だったんですからね、あれは。それを考えると、あらゆる事業者が反対するでしょう。声は上げていきます」と話していました。

新プランや値下げについて言及する場面も

2020年10月28日にはワイモバイルの20GBプラン(シンプル20)が発表されました。これにより、ソフトバンクの50GBプランとの差が縮まります。

そこで、ソフトバンクでさらなる大容量プランを出していかないのかと聞かれると「考えてみると、ちょうど抜けていた部分が20GBでした。シンプル20は12月の下旬くらいに早々とスタートしますが、顧客にどのくらいヒットするか。ソフトバンクのメリハリプランは人気があります。ユーザー調査では85%以上の方に満足いただけている。それがフィットしない方は、シンプル20に動くかもしれない。そうしたことがあってもいい。それを想定して経営計画しています。民間企業は、競争環境で顧客を増やしていくことが大事。それで顧客を増やすことができるのなら(1ユーザーあたりの平均的売り上げであるARPUが減少しても)ハッピーだと思っています」と説明しました。

別の質問に答えたときも「ソフトバンクのメリハリからワイモバイルのシンプル20に移るお客さんが多いとARPU的にはマイナスになると思いますが、一方で契約数を伸ばせるなら問題ない。我々がワイモバイルを出したとき、アナリストの方などに『ソフトバンクはガタガタになるのでは』と言われましたが、この5年間を振り返ると、契約者数を増やすことで利益は増えています。だから、このシンプル20をローンチして順調に売れれば、それによる少しのマイナスインパクトがあっても、結果として他社から来る人が増えるとか、ワイモバの低容量の人が20GBにアップグレードするという要素もあるわけで、シンプル20のために収益減にはならないと見ています」と話していました。

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    ワイモバイルの20GBプラン「シンプル20」が導入されます

ソフトバンクの主力プランで値下げする考えについて聞かれると「いまから5Gがやってきます。そうするとデータを大容量で使いたい人が出てくる。層が分かれてくるわけですね。動画を見ない、あるいは動画をもっと見たい、ZOOMで会議したい、色んな人がいる。そこで5Gを無制限に使うプランを、買いやすいカタチで提供することを考えています。後日、きちんと発表できると思う。値下げについては、まだまったく考えていません」と回答しました。

また、ソフトバンクでは2021年春からMNP転出手数料を撤廃する方針ですが、このことについて聞かれると「電話でも店頭でも、それなりの手数はかかります。だから本来ならば1,000円くらいいただいてもいいかなと思いますが、じゃあコールセンターはどうするの、など区分けが難しいという議論になった。それならこの際、思い切って0円にしたほうがいい、そんな社内のディスカッションがあった結果です」と経緯を説明します。

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    MNP転出手数料は2021年春から0円に

iPhone 12が発売されたことで5G契約者が伸びたのでは、との問いには「5G対応端末は10月だけで6機種が出ましたし、11月13日にもiPhone 12 miniなど2機種が出てくる。やっぱりiPhoneにはすごい力があり、勢いがつきます。iPhone 12 miniも結構いくのでは。私もiPhone 12 Proを使っています。iPhoneが出て、Androidも負けじと低価格のものが出てくる。Google Pixelも順調です。2020年春の段階では5Gはまだ試験導入みたいな感じでしたが、2021年の3月頃には5Gネットワーク網もかなり広がります。この調子でいくと、5Gの普及は早めに動き出すと思っています」と回答しました。

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    次世代ネットワーク投資について

このあと5G基地局、HAPSモバイルについての質問は、宮川潤一副社長が回答しました。

5G基地局の進捗状況について、宮川氏は「今年度末(2021年3月末)1万局の目標で追いかけているところです。かなりハイピッチで工事が進捗しています。来期5万局、今後5年間で20万局を立ち上げる投資計画です。LTE時代に23万局をつくりサポートしていますが、いまのトラフィックの状況を見ていると、増加の傾向はLTEのとき以上になるとの予測です」と順調な進捗を報告します。

続けて、「ネットワークをつくる側から言わせてもらうと5Gには“破壊力”がある。制限のないカタチで提供しようとすると、10年で35万局は最低でも必要です。それは、とてつもない数字。中国では国策事業で200万局を政府主導でつくり、全キャリアが一斉工事しているところです。私どもの計算も間違っていない。10年間で2.2兆円というサイズで終わるのか、そんな検証もしていきます。5G関係のハードウェアは相当、安くなった。でもそれだけの工事部隊をつくりきれるか、いまそんな視点で議論しています」と話しました。

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    代表取締役 副社長執行役員 兼 CTOの宮川潤一氏

HAPSモバイル(*)については「先月9月に成層圏まで到達しました。米国アルファベット社と共同で、LTEの通信試験を実施しています。自力で発電・蓄電するバッテリーを積んでおり、自然エネルギーのみで上空に達し、旋回しながら電波を発射し続ける仕様です。物理的には、これで可能というところまで来ました。いま世界中のベンチャー含めてHAPS事業が活性化しています。あと10年もすれば、人類は成層圏から何らかのプラットフォームを提供できると確信しています。HAPSにはいま年間で数十億円規模の投資をしていますが、3年以内にプレ商用サービスというカタチではじめて、10年かけて本格的に事業化する計画。このペースの投資額で仕上げきれたら、これを必要とする後進国(アフリカ、東南アジアなど)、つまりARPUの少ない地域にも低価格で提供できます。そうしたこともあり、コスト最小限で進めています」と宮川氏。

*HAPSモバイル:ソフトバンクと米AeroVironmentとの合弁会社。HAPS(High Altitude Platform Station)は、高い高度で飛行する無人の航空機を通信基地局として利用し、広い範囲に通信サービスを提供するシステム、または事業のこと。

KDDIとソフトバンクが共同で5Gネットワークの地方展開を推進する5G JAPANについては「まだ数百~数千の段階です。実証されれば、広がりを見せていくのではないでしょうか。最終的な数は、まだお話できる段階ではありません。NTTさんという日本の中で大きな基盤があって、もうひとつ、我々が共同で地方でも第2面目をインフラ提供する。災害が増えていますが、リダンダンシー(redundancy:冗長性、余剰)の観点でも30年後、50年後のためになるのではないか、ということで議論を深めているところです」と話していました。