KDDIが、5Gスマホと組み合わせて使うメガネ型のスマートグラス「NrealLight(エンリアルライト)」を発表しました。12月1日より、KDDI直営店とau Online Shopで販売されます。価格は69,799円(税込)。auの旗艦店「GINZA 456」にて実施された報道公開にて、いち早く体験してきました。

  • KDDIが発表したメガネ型のスマートグラス「NrealLight(エンリアルライト)」

長時間掛けても疲れない106gのARグラス

NrealLightは、中国のスタートアップ企業Nreal社が開発した、スマホと一緒に使うスマートグラスです。重さは約106g(ケーブル含まず)とゴーグル型デバイスに比べて軽く、見た目は大きめのサングラスのよう。ツルの部分はしなやかな素材で作られており、付け心地も軽く、一般的なメガネと比べても違和感がありません。

  • 大きめのサングラスのようなメガネ型ARディスプレイ。スマホにケーブルを接続して使います

ディスプレイ表示機能や空間認識機能を備えており、AndroidアプリやARアプリを起動できます。手持ちのスマホを接続するだけで、簡単にAR体験が楽しめます。

スマホにインストールしたAndroidアプリをAR空間に表示することができ、ブラウザーや動画アプリを仮想的な大画面で表示できます。画面表示を最大に拡大すれば、約100インチ相当になります。その映像体験は、大きな部屋に設置したプロジェクターで映画を観ているかのよう。

  • 小さな部屋でもシアターのような映画体験が楽しめます

専用のホーム画面アプリ「Nebula」を使うと、AR空間内にAndroidアプリを最大3つまで表示できます。たとえば、YouTubeの動画を開きながら、ChromeブラウザーやTwitterを開くといったことが、ARの空間内でできるというわけです。接続したスマホがタッチパッドになり、1本指の操作だけで画面を動かしたり、拡大したり並べたりできます。空間内でアプリを動かすというと難しそうに思えるかもしれませんが、大きさを変えられるモニターを3つ並べられるイメージです。

  • 接続したスマホのAndroidアプリをそのまま動かせます

  • マルチモニター的に使えるのも面白いところ

スマホのアプリをそのままミラーリング表示する、外付けディスプレイ的な使い方も可能です。一般的なAndroidアプリなら操作できるようになっており、迷うことはないでしょう。

AR用の6DoFセンサーを搭載し、左右のツルにステレオスピーカーとマイクを内蔵しています。内蔵スピーカーのサウンドは、家でリラックスしながらNetflixやYouTubeのコンテンツを視聴するには必要十分な音量を出せます。音の迫力が物足りなくも感じましたが、ワイヤレスイヤホンと組み合わせれば補えそうです。

  • 前面中央にAR映像用のカラーカメラを搭載。左右のカメラは深度計測用です

  • 鼻の根元の部分のセンサーで、装着している状態を検知します

  • ツルはしなやかでフィットしやすい形状。一般販売品は表面にロゴがなく、シンプルな仕上げ

  • ARグラスだと知らない人には「大きめのサングラス」といっても通じそうです

  • 接続したスマホをレーザーポインターのように使って動かして操作します

目が悪い人にとって気になるのは、視力の調整機能でしょう。視力矯正用メガネをかけた上から装着するのは難しい形状ですが、専用のメガネフレームが付属しています。フレームを眼鏡屋に持ち込み、度数入りレンズをはめ込んで装着すれば度数入りで使えます。

メガネ部分の視界を遮れるパーツも付属しており、装着すればVRゴーグル風に使えます。

  • パッケージには、4サイズの鼻当てや視力矯正用のフレーム、VR風に使える覆いが含まれます。スマホは別売りとなります

  • 度数入りレンズを入れたフレームはワンタッチで装着可能

将来性を感じさせるさまざまなARアプリを用意

ようやく一般販売が始まったばかりのデバイスのため、NrealLightで使えるARアプリは多くはありません。しばらくは、Androidアプリしか使えないと思った方が良いでしょう。それでも、Nebulaアプリが存在するために、ARならではの使用感が楽しめます。動画配信サービスについては、YouTubeやNetflix、TELASA、FODなどでKDDIが動作検証を行っています。

KDDIは、発売後もNreal社をバックアップして、NrealLight向けのARアプリを充実させていく方針です。11月11日に実施された体験会では、いくつかのデモンストレーションが披露されました。

なかでも注目の存在が、コミュニケーションサービス「Spatial」。例えるならば“VR版Zoom”で、3D空間でアバターを使って離れた場所にいる人とコミュニケーションを取れるツールです。空間内に書類や画像、3Dモデルを表示して、まるでオフィスにいるかのような共同作業も可能です。このツールは、これまでOculusやHoloLensなどのAR/VRゴーグルに対応しており、NrealLight版もすでに海外では展開済み。日本でのサービス提供開始も、そう遠くないうちに実現できるとしています。

  • VR空間の“バーチャルオフィス”内で共同作業ができる「Spatial」も対応予定

実用的なツールとしては、ロゼッタ社の翻訳エンジンと組み合わせたデモンストレーションも披露されました。翻訳ツールは2種類あり、1つはグラスを通して見た看板の文字をAR空間内で翻訳して表示という内容。そしてもう1つが、外国語の会話をリアルタイムでAR空間内で翻訳するというものです。後者のリアルタイム翻訳は、AR空間内に浮かび上がる「ロゼッタストーン」に表示するという遊び心のあるもので、実用的な翻訳精度と速度も兼ね備えています。スマートフォン向けアプリをベースに開発されており、NrealLightでの展開は検討中としています。

  • ロゼッタ社のリアルタイム翻訳エンジン。サービス化されると有望なツールになりそう

フィットネスデバイスと連動するデモンストレーションも用意されていました。FEEL CONNECTION社が開発中のエクササイズバイクと組み合わせて、迫力のある映像を見ながらトレーニングを体験できるというツールです。こちらは、エクササイズバイク自体がベータテスト中のため、今回は自転車を漕ぐのに合わせて映像を流すだけの体験となっていましたが、将来的にはフィットネスの内容をAR空間内で表示するようなトレーニングアプリへと作り込んでいきたいとしています。

  • FEEL CONNECTIONのフィットネスバイクは2021年春に発売予定。NrealLightへの対応も検討中

VRゲームでお馴染みの「Space Channel 5」のAR版も用意されています。セガの名作ダンスゲームをVRで復刻したもので、すでにPS VRやOculusなどのVRデバイス向けに市販されているタイトルです。NrealLightのAR空間で遊べるように最適化されており、NrealLightに接続したスマホを動かして遊ぶシンプルな内容となっています。12月1日よりau直営店でデモンストレーションを展示し、その後、体験版や市販アプリも提供していく方針です。

  • 「Space Channel 5」のAR版も

近未来の体験を先取りするものとしては「デジタルヒューマン」の展示も用意されていました。AR空間上に女性型の3Dモデルを表示して、360度の方向から見えるというもの。デバイス上で3Dモデルを演算するのではなく、5Gのモバイルエッジコンピューティング(MEC)機能を使っている点に特徴があり、複雑な人型のモデルを滑らかにシュミレーションできるとしています。将来的にはたとえば、お店に行ったときに現れ、買い物をサポートするバーチャルアシスタントのような応用が想定されています。

5Gスマホの中でも対応はかなり限定的

空間認識して何かの3Dオブジェクトを操作するAR処理は、高度な演算能力が必要とされます。NrealLightは、現時点ではスマホと連携するデバイスですが、接続できるスマホはきわめて限定されています。当初の対応スマートフォンは、2020年秋に発売された5Gスマホ「Xperia 5 II」と「Galaxy Note20 Ultra 5G」の2機種のみ。今後発売されるスマホについては追加で対応をしていく見込みですが、発売済みのスマホに関しては原則として対応を行わない方針としています。

5Gスマホの中でも高性能な2機種のみが対応した理由について、KDDIでは「5Gスマホの中でも高度な処理能力が必要なうえ、USB Type-C規格の互換性にバラツキがあり、1機種ずつ検証を行う必要があるため」と説明しています。

今後対応機種が追加されていくとしても、NrealLightが使えるAndroidスマホはハイエンドモデルに限られる状況は変わらないでしょう。となると、気になるのはAR体験にかかる費用の高さです。Xperia 5 IIのau Online Shopでの価格は109,425円(税込)なので、NrealLightの本体代と合わせて約18万円からとなります。発売時点のNrealLightで実際に利用できるのはAndroidアプリの表示のみというやや物足りない状況ですが、AR体験を存分に満喫できるだけのアプリの充実を期待したいところです。