生産性や効率アップを謳うツールをいくら使ったところで、使う人が集中していないのなら生産性は上がらない。実に当たり前のことではあるが、集中は多くの人にとって学生時代からの長年の課題だ。またビジネスの場では、生産性の問題だけではなくケアレスミスが大きな損害をもたらす例も枚挙にいとまがないだけに、大きな課題とも言えるだろう。単純なミスで何かが起こった後に後悔することことは誰しもが経験するが、ただそれが重大でなかったという幸運に恵まれていただけなのかもしれない。

新型コロナウイルス感染症により働き方が変わった現在、集中の問題も変わっているようだ。Dropboxの公式ブログ「Study: Focus will shape the future of distributed work」で、集中に関連した新しい課題を分析している。

仕事ができる時間の28%を集中できずに無駄にしている、集中できなかったための経済的損失は米国だけで3910億ドルーーDropboxがEconomist Intelligence Unitと共同で米国のナレッジワーカーに行った調査から、こんな結果を導き出している。1人が集中できないために無駄にしている時間は年間581時間という。1日7時間労働とすれば、83日になる。集中を削がれて無駄にしてしまった時間にちゃんと集中して仕事ができていたとすれば、1兆2000億ドル相当のアウトプットが得られるといから、深刻な問題だ。

では、集中できない要因は何か?リモートワーク前に最大の阻害要因だったのは同僚などと「仕事関連の話をする(対面ベース)」だった。続いて「メール」「仕事に関係ないおしゃべりと電話」「ぼうっとする」「ミーティング」、古いPCや遅い通信など「技術的問題」と続いていた。

リモートになってからもメールは邪魔をしているようだ。実際、メールを1時間チェックせずに仕事ができている人は少ないようだ。調査では70%が少なくとも1時間に1度はメールのチェックをしているという。18%は「数分おきに」というから、かなりの邪魔になっているようだ。業界や部署によって受信数は大きく異なるはずだが、いずれにしてもメールの負担が増加する傾向にある。サービスやツール、アドオンや短いコードスニペットで解決できるものもあるが、個人的にはインタフェースを含めた抜本的なコンセプトを変えて欲しいと願ってやまない。

なお、管理職やマネージャーレベルはミーティングの回数こそ多いものの、役職なしの社員より邪魔を感じていないこともわかった。多くの場合、個室を持っていたり邪魔されないゾーンがあること、スケジュールや報告において自分が決定できることなどが要因にあるようだ。

全体では、「家の方が集中できる」という人は10人に4人、「変化なし」は3人いた。一方で、「家ではあまり集中できない」という人も3割ほどいたとのことだ。

「通勤のための移動はこりごり」という結果も出ている。約40%が、在宅勤務のメリットに通勤を上げている。記事によると、在宅のメリットは単に通勤にかかる時間がなくなったことだけではなく、その日1日の集中にいい結果が出るという。「車を運転したり、電車に乗る必要がないため、通勤で使っていた注意やエネルギーを仕事に注ぐことができる」とのことだ。

実労働時間に変化はあったのか? 仕事の量については「少し増えた」「増えた」は合わせて41%、「少し減った」「減った」の21%を上回った。これに呼応して、仕事をする時間についても「少し増えた」「増えた」は40%、「少し減った」「減った」の24%を上回っている。

では集中力はどうか? 「集中を維持できるか?」という質問に対しては、「少し増えた」「増えた」が40%、「少し減った」「減った」は30%だった。気になるのが、ストレスだ。「少し増えた」「増えた」が43%、「少し減った」「減った」の30%を上回っている。なお、仕事の上のミスは減ったが、コミュニケーションがうまくいかないことで生じる誤解は増えたという。

このように、在宅にはメリットもあるが、集中という点では完璧な解決策ではないことがわかった。今後、新型コロナが収束に向かったとしても、在宅のワークスタイルは残るといわれており、企業はオフィスと在宅の”ハイブリッド”作業環境でどうやってパフォーマンスを出してもらうかを考えなければならない。

記事では、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の「メールのチェックが少ないほどストレスを減らせる」という調査を紹介するとともに、在宅により孤独を感じている社員が増えていることも示唆している。Dropboxはそれに対して、自分が好きな時に対応できる「非同期」、そして自動化は鍵を握ると見ている。新しい働き方の模索は続きそうだ。