中国のZTEが、2020年9月に海外で投入した5Gスマートフォン「Axon 20 5G」は、フロントカメラをディスプレイの下に埋め込むという新しい機構を採用し、ノッチレスの全面ディスプレイを実現しているのが大きな特徴です。どのようにしてディスプレイにカメラを埋め込むことができたのか、ZTEの日本法人であるZTEジャパンの関係者に話を聞いてみました。
フロントカメラを画面に内蔵したモデルがついに登場
スマートフォンの進化の歴史は大画面化の歴史といっても過言ではないでしょう。これまで多くのメーカーが、手で持ちやすいサイズ感を維持しながらいかに大きなディスプレイを搭載するかという命題のもと、ディスプレイの外枠(ベゼル)を減らしたり、指紋センサーをディスプレイに内蔵したりと、さまざまな取り組みが進められてきました。
中でもメーカー側が、現在も試行錯誤を続けているのがフロントカメラの扱いです。セルフィーの撮影やビデオチャット、さらには顔による生体認証などで、スマートフォンに欠かすことができないフロントカメラですが、大画面化のためベゼルを大幅に減らした結果、そのフロントカメラの設置場所がなくなってしまったのです。
そうしたことから最近では、ディスプレイのフロントカメラ部分を切り欠いた「ノッチ」や、フロントカメラ部分だけをくり抜く「パンチホール」など、フロントカメラをディスプレイの中に入れることで大画面と両立する機構が主流となりました。さらに凝った例としては、OPPO(*)の「Find X」やASUSの「ZenFone 6」に代表されるように、通常はフロントカメラを表に出さず、使いたい時だけカメラ部分が動いて現れる機構を採用する機種もあります。
※:OPPOの日本法人・オッポジャパン株式会社は、2020年10月9日に「オウガ・ジャパン株式会社」へと変更
ですがここにきて、このフロントカメラ問題に新たな解決策が提示されました。それはディスプレイの中にフロントカメラ自体を埋め込んでしまうという方法。実現したのは、中国のZTEが2020年9月に海外で投入した「Axon 20 5G」というスマートフォンです。
Axon 20 5Gは、6.92インチの大画面ディスプレイを搭載したスマートフォン。チップセットはクアルコムのミドルハイクラス向け「Snapdragon 765G」ですが、6,400万画素カメラなど4つのカメラを搭載する充実した機能を備えています。やはり最大の特徴となるのは、3,200万画素のフロントカメラをディスプレイの下に埋め込んでしまったことです。
今回、ZTEの日本法人であるZTEジャパンのオフィスにて、Axon 20 5Gを実際に試す機会がありました。Axon 20 5Gは海外モデルのため、いわゆる「技適マーク」を取得していませんが、試用した端末に関しては、ZTEジャパンの敷地内で無線通信を利用するための許諾を得ているとのことです。
フロントカメラ部分に透過できる素材を採用
Axon 20 5Gを実際に確認してみますと、確かにディスプレイ上にノッチやパンチホールがなく、画面表示が全面を占めています。ぱっと見た限りでは、カメラがあることは分かりません。
よく見ると、ディスプレイの中央上部にうっすらとカメラ部分が見えるようになっています。カメラが完全に隠れているわけではないものの、かなり違和感のない形で内蔵化を実現していることは確かでしょう。
ZTEジャパン関係者によると、ディスプレイ全体の中でフロントカメラ部分が占める割合は0.2%とのことですが、それでも内蔵する上ではいくつかの技術的な工夫が必要だったとのこと。その1つは素材です。
Axon 20 5Gはディスプレイ素材に有機ELを採用していますが、実際のディスプレイは有機ELだけでなく、ガラスや偏光器など複数の素材が層をなしています。これまでは、有機ELとそれを発光させるのに必要な電極部分は、不透明な素材でした。そこでZTEは材料メーカーと共同で透明な素材を開発し、フロントカメラ部分に採用して内蔵化を実現したそうです。
ただ、ディスプレイの透明性が高まったことで、従来通りにフロントカメラを設置すると周辺の配線が見えてしまうことから、レンズ周辺の配線を最適化。さらにカメラ周りの画素配置も工夫することで、透明ながら表示時に違和感の出ない最適な形を実現したといいます。
解像度の違いやカメラの写りの問題をどうクリアした?
異なる素材を採用した影響もあり、Axon 20 5Gはフロントカメラ部分のディスプレイ解像度は低くなっているとのこと。実際、高解像度の動画などを再生してフロントカメラ部分をじっくり見てみると、映像の内容によっては解像度の違いから少々違和感が出ることもあります。
この解像度の違いによって、従来のディスプレイ制御チップが使えなかったというのも、技術的には大きな課題だったと話します。当初は2つの異なる解像度に対応するべく、2つのチップを用いて制御する仕組みだったのですが、チップ間の同期を取るのが難しく、量産化が難しいという課題がありました。そこでZTEは、解像度が異なる画面を同時に制御できるチップを新たに開発し、この問題をクリア。量産化にこぎつけたそうです。
もっともこうした解像度の違いは、ディスプレイをじっくり見ていないと気が付かないレベル。さまざまな技術によって表示上の違和感はかなり抑えられている印象です。
フロントカメラの撮影、一般的なスマホと比べて違いはある?
さて、ここまでは画面表示にフォーカスしてチェックしてきましたが、内蔵されたフロントカメラでの撮影は、通常のスマートフォンと比べてどのような違いがあるのでしょうか。
実際にAxon 20 5Gでセルフィーを撮影してみると、ディスプレイの層が影響してか、表現がややソフトになりがちな印象。とはいえ、大きな違和感を抱くほどではないと感じました。
ZTEの関係者によると、やはりフロントカメラをディスプレイの下に内蔵したことで、撮影時にどうしてもコントラストが低く、ややぼやけた表現になってしまうことが課題となっていたそうです。そこで同社では、カメラ回りのソフトウェアでアルゴリズムを工夫し、ぼやけた表現を抑え違和感のない写真を実現しているのだそうです。
今回のAxon 20 5G、ZTEはフロントカメラをディスプレイに内蔵するための技術開発に、1年半を費やして実現できたとのこと。既に販売されている中国でも大きな反響を得ているそうで、ZTEの市場での存在感を高める上でもインパクトを与えたようです。さまざまな要因もあって日本国内でも注目されているAxon 20 5Gですが、「オリジナルモデル」として国内投入されることにも期待したいところです。