Clarivate(クラリベイト)は9月23日、近い将来ノーベル賞を受賞する可能性の高い研究者が選出される「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」の2020年版を発表した。
同賞は、同社の学術文献引用データベース「Web of Science Core Collection」をもとに、論文がどの程度引用され、学術界にインパクトを与えたのかなどを考慮し、ノーベル賞クラスと目される研究者を選出するもの。2016年までは、トムソン・ロイター引用栄誉賞という名称で発表されていたが、同賞を担当する知的財産事業部が2016年にクラリベイトとして独立したのに併せて名称が変更されている。
同賞はノーベル賞の科学系4賞(医学・生理学、物理学、化学、経済学)と同じカテゴリで構成されており、2002年以降、毎年9月に発表されてきた。その選出方法は、通常2000回以上引用されている高インパクト論文をベースに、研究への貢献度や他の賞の受賞歴、過去のノーベル賞から予想される注目領域などの定性的要素を含めて検討されるものとなっている。同社によると、引用回数2000以上という数値は、1970年以降に発表された5000万件以上の論文の5700件程度(0.011%)だという。
同賞は毎年最大36名が選出されるが、2020年は24名が選出された。内訳は米国が19名(日本との兼務を含む)、日本が2名(米国との兼務を含む)、ドイツ、韓国、カナダ、英国がそれぞれ1名となっている。
日本の受賞者はがん研究会の中村祐輔 がんプレシジョン医療研究センター 所長(東京大学 名誉教授、シカゴ大学 名誉教授)と東京大学大学院工学系研究科の藤田誠 教授(分子科学研究所 卓越教授)の2名。中村氏のトピック内容は「遺伝的多型マーカの開発とその応用による先駆的な研究とゲノムワイドな関連研究への貢献により、個別化がん治療への貢献」というものとなっている。一方の藤田氏のトピック内容は「自然界に学ぶ自己組織化物質創成と超分子化学への貢献」というものとなっている。
中村氏は、受賞に際し、「遺伝子の多様性に光があたって、互いの違いを認識していける教材につながってもらいたい」と研究の背景にある多様性について言及したほか、多くの関係者の協力があって、成果を生み出せたことを強調していた。
また、藤田氏は、会見において、研究は多くの人の協力でここまでこれたことに感謝の意を示したほか、2019年に東京大学の卓越教授に選ばれたことを踏まえ、「本来であれば後少しで店じまい(定年)のところ、2019年に卓越教授という称号をもらって、75歳まで研究を続けてよい、という許可が出た。ただし、これは今の研究室を続けるのではなく、何もないところから研究環境を構築しないといけないもので、2020年11月に20社をスポンサーに向かえ、社会連携講座を設置する予定。今後も引き続き、支援してくれる企業を募集していく」と、今後も継続して研究を行っていくが、そのためには研究資金の獲得が必要であることを語り、研究資金を広く外部に求めていくとした。その上で、「大学と企業の社会連携は今、うまく行っていないところがある。そうした社会連携の模範となれるような仕組みを見せることができればと思っている。一方で純粋科学の分野の研究も行っていきたいとも思っているほか、併せて若手育成として、自分を評価し、現在に至るところまで引っ張り上げてくれた先生のような存在に自分がなれるかは分からないが、若手の素晴らしい研究を評価し、それを引っ張り上げられたらと思っている」と、引き続き、基礎研究と直接社会の役に立つ研究の双方を継続していきたいと意欲を見せた。
なお、クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞はそのままその年のノーベル賞受賞者を予測するものではなく、将来、ノーベル賞を受賞するだけの成果を挙げた研究者に授与されるものである。2002年から2020年までの間、引用栄誉賞を受賞した日本人研究者は今回の中村氏、藤田氏を併せると、合計で28名(故人含む)となっている。