日本学術振興会(里見進理事長)は生物学で世界的に優れた業績を上げた研究者を顕彰する「第36回国際生物学賞」を、理化学研究所環境資源科学研究センター特別顧問の篠崎一雄氏(71)に授与すると発表した。動物と違い移動できない植物が、乾燥などの環境のストレスから身を守る仕組みを遺伝子レベルで解明した功績が評価された。発見した遺伝子を使い穀物の収穫を増やせることも実証しており、成果は食糧危機の対策に貢献すると期待されている。
植物は乾燥や低温、高温、塩分などのストレスに応じ、耐性を獲得して生存している。篠崎氏は理研で世界に先駆け、こうした仕組みの研究に分子生物学の手法を導入。関係する多くの重要な遺伝子を発見し、それらの機能や制御機構、ストレスに対応するための情報伝達の仕組みを明らかにしてきた。
乾燥ストレスへの適応では、既に知られていた植物ホルモン「アブシシン酸(ABA)」の働きによらない別の仕組みがあることを発見。また土壌が乾燥して根の水分が減ると、根でアミノ酸がつながった化合物「ペプチド」の一種「CLE25ペプチド」ができ、これが葉に運ばれてABAの合成を誘導していることを突き止めた。植物はABAによって気孔を閉じて水分の蒸散を抑え、体内から水分を失うのを防いでいる。
研究に広く用いられるモデル植物「シロイヌナズナ」の環境ストレスに関する遺伝子を利用し、乾燥や塩分に耐えるイネやダイズなどの開発を共同研究で推進。特に、陸稲の乾燥耐性の強化と収量の増加に成功し、こうした遺伝子が乾燥耐性作物の開発に利用できることを実証している。
理研バイオリソースセンター(現バイオリソース研究センター、茨城県つくば市)の設置に貢献し、モデル植物の遺伝子や変異体の研究材料の収集と提供を進めるなど、植物科学の発展に尽力してきた。
篠崎氏のこうした業績が今回の授賞対象分野である「環境応答の生物学」の重要な発展を支えているとして、授賞者を選定する国際生物学賞委員会(委員長=別府輝彦東京大学名誉教授)に評価された。日本学術振興会が7日発表した。
篠崎氏には賞金1000万円が贈られる。授賞式は例年11~12月ごろ行われるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受け「状況を慎重に見極めつつ、後日に実施可否を決定する」(日本学術振興会)としている。記念シンポジウムは中止した。
同賞は昭和天皇の長年の生物学研究と在位60年を記念し1985年に創設。上皇さまの魚類分類学(ハゼ類)の長年にわたる研究を記念することも趣旨としている。
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