テレビドラマの『私の家政夫ナギサさん』が、大変な人気らしい。
私は、映画もドラマもあまり見ないタイプなのだが、このドラマは家族が見ているのにつられてだんだん見るようになったおじさんだ。
そんな、ながら見のおじさんは「多部ちゃんかわいいな」程度の感想のライトな視聴者なのだが、多部ちゃんが可愛く感じる理由の一つが、このドラマで彼女が身につけているファッションにあるのだと思う。
「MRなのに派手すぎない? 」と突っ込まずにはいられない
そもそも、ドラマの中の多部ちゃんの仕事はMR(医薬情報担当者)だ。MRとしてかっこいいオフィスの製薬企業に務め、大勢の気難しそうな医者達と難しそうな話をするような役だ。
僕のような大してファッションに興味がないおじさんでも、多部ちゃんはいつも「そんな派手な服装でMRが病院に行ったら怒られるんじゃない? 」と感じる服を着て、「そんなに大きなイヤリングして仕事してたら疲れるっしょ」と感じる過度に象徴的に大きなイヤリングを常に付けている。最終回に至っては、かなり大きなリボンを頭につけて真面目な会議に参加していたし。
そんな多部ちゃんの服装に、多くの人が「MRがそんな派手なカッコをしているわけがないだろ」と突っ込むと思うし、僕もそう思いながらドラマを見ていたのだが、いやいや、これは、もしかしたら多部ちゃんのファッションは、このドラマに感情移入しやすくするために、計算ずくで決めているのではないかと、最終回にして気づいた。
#わたナギ 最終回いかがでしたか❓
— 【公式】火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』毎週火曜よる10時 (@watanagitbs) <a href="https://twitter.com/watanagitbs/status/1300809226911019011?ref_src=twsrc%5Etfw">September 1, 2020
メイちゃんとナギサさんは危機を乗り越え、周りの人たちの支えがあって素敵な夫婦になりました🧡
皆さんの感想をぜひ聞かせてください🤗💕
来週もまだただ行きますよー‼️#私の家政夫ナギサさん#多部未華子 #大森南朋 #瀬戸康史 #TBS pic.twitter.com/P9fgiXuCjY
『わたナギ』は現実ではなく、ファンタジーなのだ
そもそも、このドラマのあらすじは、仕事はできるが家事はできない多部ちゃんの元に、まったく冴えない20歳以上年上のおじさんの家政夫が来て、なんだかんだあって結婚することになるという、あらすじを書くのに3行も必要としないすごく単純な話だ。
もっと簡単に言うならば、この話はファンタジーなのだ。イケメンの医者やライバル会社のMRから次々にプロポーズされる前向きで可愛い多部ちゃんが、なぜか冴えないおじさんを選ぶという絵に描いたようなファンタジーなのだ。
あくまでも僕の想像だが、多部ちゃんの現実離れしたファッションは、実はこの現実離れしたファンタジーを、できるだけファンタジーと感じさせないための仕掛けなのではないか。
視聴者の多くが、「MRがそのカッコの訳がないだろー」というところにツッコミを入れているうちに、冴えないおじさんがひとり暮らしの女性の家で家政夫をやっているというもっと大きなファンタジーは受け入れてしまい、しっかりストーリーに感情移入してしまうという仕組みだ。
「いやー、お前、それは考えすぎだろ? 」という読者からのツッコミが聞こえてくるようだが、実はこの仕組み、以前にも感じたことがある。映画『シン・ゴジラ』だ。
ファンタジーにおける「パタースン効果」(筆者命名)の役割
ある日いきなり得体のしれないゴジラが都心にやってきて、背中からビームを出して首相以下閣僚が一瞬で蒸発するというこの上ないファンタジーに、現実感をもたせて観客を感情移入させるためには、“もっと大きなファンタジー”を仕込む必要がある。
そんなシン・ゴジラにおけるゴジラ来襲というファンタジーを、さらに大きなファンタジーで隠す役割として、石原さとみが存在していたのではないかと、僕は睨んでいる。
だいたい、日本どころか地球全体の前代未聞の緊急事態なのに、あんな米国大統領特使が日本に送られて来るわけがなく、彼女が英語で話すたびに、その現実感のなさに観客の多くがゴジラとは別の意味でドキドキしたはずだ。
それでも観客が、「石原さとみが米国大統領特使だ」という違和感を受け入れ、まぁ米国大統領特使にも見えなくもないかも、いやそういうことにしておいてあげようと意志を決めた頃にはには、それより前からずっと派手に暴れまわっているゴジラの存在は、とっくに現実感がある存在として観客は受け入れているのだ。
この、多部ちゃんの派手なファッションや、石原さとみの危うい英語に代表される、思いっきり違和感のある事象をぶっこむことで、主題であるファンタジーをファンタジーに感じさせない効果を、石原さとみの役名にちなんで、パタースン効果と名付けたい。
※編集注 : 映画『シン・ゴジラ』における石原さとみさんの役名は「カヨコ・アン・パタースン」です
ベンチャー業界の「パタースン効果」を見破れ!
実は、このパタースン効果は、ベンチャー業界でもすごく頻繁に見かける。
今どきのベンチャー企業には、本当に社会を変えてやろうという意欲に燃え、日夜努力している企業だけでなく、最初から、技術を見極める力が低いベンチャーキャピタルをダマして資金調達をし、あわよくばマザーズ上場までして会社を売却して逃げ切ることを起業の目的にしているようなベンチャー企業が少なからずある。
私のように15年もベンチャー業界に居ると「どうして奴らが志の低いベンチャーだって最初からわかっていたの? 」とか「どうして技術説明を聞く前にその技術は嘘だって言い切ってたの? 」と問われることがよくある。
あらかじめ確信を持ってわかっていた理由はいろいろあるが、この手の志の低いベンチャー企業のウェブサイトは、かなりの確率でこのパタースン効果を意識的に散りばめていて、そこを見抜くことで、分かることは多いのだ。
どのベンチャー企業のウェブサイトのどのあたりがパタースン効果を狙ったものだとは、申し訳ないがこんな公の場で教えることはできないが、多部ちゃんの派手なファッションや、石原さとみの危うい英語を参考に、みなさんも是非、ベンチャー企業のウェブサイトにおけるパタースン効果を探してみて欲しい。