物質・材料研究機構(NIMS)は9月2日、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、温度差をつけた導電体に電流を流すと生じる吸熱・発熱現象の「トムソン効果」が磁場に依存して変化する「磁気トムソン効果」を直接観測することに成功すると同時に、その計測・評価技術を確立したと発表した。

同成果は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究拠点スピンエネルギーグループの内田健一グループリーダー、同・井口亮主任研究員、同・三浦飛鳥JSPS特別研究員、産総研省エネルギー研究部門熱電材料物性グループの村田正行主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会発行の学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

熱エネルギーと電気エネルギーの相互変換を可能にする熱電効果には、複数の効果があることが知られている。温度差に比例して電圧が生じる「ゼーベック効果」(熱流→電流変換)、その相反関係にあり電流に比例して吸熱・発熱が生じる「ペルチェ効果」(電流→熱流変換)、そして温度差をつけた導電体に電流を流すと吸熱・発熱が生じる「トムソン効果」などだ。

トムソン効果は、ゼーベック効果とペルチェ効果とは若干異なる特徴を持つ。まず、ゼーベック効果もペルチェ効果も2種類の物質の接合を必要とするが、トムソン効果による熱電変換は単一物質で実現するということ。そしてゼーベック効果とペルチェ効果は線形応答なのに対し、トムソン効果によって生成される吸熱・発熱は、与えた温度差と電流の両方に比例する非線形応答であることなどだ。

しかし、トムソン効果はゼーベック効果の性能を決めるための補助的な手段として利用されることがあるなど、これまで脇役的な位置づけだった。基礎・応用研究ともに限定的で進んでいないため、磁場や磁性がトムソン効果に与える影響がわかっていなかったのである。また、トムソン効果の計測・評価手法も十分に確立されていないのが現状だ。

そこで共同研究チームは今回、磁気トムソン効果の観測を目的として実施したのが、「ロックインサーモグラフィー法」と呼ばれる熱計測技術を用いて、導電体に温度差と磁場を与えながら、電流を流した際に生じる吸発熱現象の精密な測定だ。ロックインサーモグラフィー法とは、試料に周期的に変化する電流を印加しながら、赤外線カメラを用いて表面の温度分布を測定。電流と同じ周波数で時間変化する温度変化だけを選択的に抽出することで、高感度な熱イメージングを実現するという技術だ。主に集積回路の動作・欠陥解析用途に利用されているサーモグラフィーの一種である。

その結果、導電体に温度差と電流の両方に比例した吸熱・発熱が生じ、それに伴う温度変化が磁場を印加することで増強される振る舞いが観測された。さらに系統的な測定が実施され、観測された吸熱・発熱信号の磁場依存性が磁気トムソン効果に由来するものであることが実証されるに至ったのである。

今回の実験では、導電体としてビスマス・アンチモン合金が使用され、同合金における磁気トムソン効果は非常に大きな「熱電能」(熱起電力)を示し、ゼーベック効果やペルチェ効果と同等の出力を示すことも明らかとなった。

共同研究チームは今後、磁気トムソン効果に関する物理・材料・機能探索を進めることで、電子デバイスの効率向上・省エネルギー化に資する熱マネジメント技術への応用展開や、熱・電気・磁気の相互作用がもたらす新しい物理現象の観測を目指していくとしている。

  • トムソン効果

    トムソン効果および磁気トムソン効果の概念図 (出所:産総研Webサイト)