前編では、日本におけるキャッシュレス手段や、キャッシュレス事業者における激しいユーザー獲得競争についてお話ししました。後編では、キャッシュレスがこれからの日本社会をどのように便利に変えていくのか、拡がるその可能性についてお話ししたいと思います。

Withコロナ期におけるキャッシュレス手段の更なる活用

継続する新型コロナウィルスの拡大は、人や社会にさまざまな行動変容をもたらしています。感染リスクを減らすために、皆さんも人や物との接触については敏感になっているのではないでしょうか。

最近では私の周りでも紙幣や硬貨に触ることや、不特定多数の方が触る可能性のあるATMを操作することに抵抗を感じるという声を聞くようになってきました。こういった懸念を解消する1つの選択肢が、非接触決済です。現金を引き出すことなく、スマートフォンをタッチするだけで決済が完了することは、便利さだけでなく安心・安全の提供に大きなプラスの効果をもたらします。

  • しっかり知れば便利で安全!キャッシュレスの今とこれから-後編

もう1つの行動変容は、ユーザーのECによる買い物へのさらなる移行です。コロナの影響でお店が閉まっていたり、直接訪問することがためらわれたりする中で、ECを活用して買い物を行うケースが増えています。

同様に飲食店でもテイクアウトやデリバリーへのシフトが始まり、そのための支払いはクレジットカードなどキャッシュレス手段での事前決済(予約や注文の際に、あわせて支払いまで済ませてしまう仕組みのこと)で、というお店が増えつつあります。

決して望ましくはないWithコロナという環境ですが、キャッシュレスの仕組みが縁の下の力持ちとして、経済の回復や皆さんのストレス軽減に一役買っているのです。

キャッシュレスの未来

これからキャッシュレスは、どのように拡がり、どのようにわれわれの社会を変えていくのでしょうか。 まず、キャッシュレス手段が使える場所やシーンの拡がりについて見てみましょう。

キャッシュレス還元事業やQRコード共通化(JPQR普及事業。今までキャッシュレス事業者ごとに別々だったQRコードを共通することにより店舗側で用意するQRコードを一つに出来るというもの)をはじめとした政府の各種施策やキャッシュレス事業者による獲得競争もあり、お店にとってキャッシュレスを導入しやすい環境が整い始めており、これまで現金取り扱いのみだったお店にも浸透が進んでいます。

最近では自治体における税金支払いや公共料金収納にもキャッシュレスが新たに採用される事例が増えていますし、これまでお話ししてきたECや飲食店での事前決済の拡大に比例して、あらゆる生活シーンの隅々にキャッシュレスが拡がっていくと考えられます。

次に、使いやすさや安心度合いの向上に関するキャッシュレスの未来について見てみましょう。落とすとそのまま使われてしまう現金から、利用時に暗証番号入力が必要な各種カードに切り替えるとセキュリティは向上すると言えます。

また、そのカード情報をスマートフォンに格納する非接触決済に切り替えると、カード番号はトークナイゼーションという特殊な技術で暗号化され、利用時には皆さんしか持ちえない指紋や顔などの生体情報による認証が必要となることで、さらにセキュリティレベルは向上します。

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そしてキャッシュレス決済の進化はまだ続きます。一部では実証実験も進んでいますが、これからは顔認証などの新しいテクノロジーによって財布やカードはもちろんスマートフォンすら持つ必要がなく、「真の手ぶら決済」も可能になっていくと言われています。

ただレストランを出るだけ、ただタクシーを降りるだけで、支払いまで済んでいるという社会もそう遠くはないのです。さらに、前編でお話しした「スーパーアプリ」を活用すれば、事前に決めた自分の好きなキャッシュレス決済手段によって、連携するさまざまなサービスを「支払うという行為を意識せずに」利用することすら可能となっていきます(もちろん支払いに関するアプリ通知を受け取ることもお好み次第でできます)。

あくまでもキャッシュレス決済とはサービスの一部であり、移動や食事・買い物といったさまざまな体験を裏側でシームレスに繋げていくことで、皆さんの生活を快適でワクワクするものに変えていくものです。

このように、キャッシュレスは便利で安心安全なユーザー体験を追及していく、これからの皆さんの生活にとって重要なテクノロジーです。しっかり理解した上で、怖がらずに正しく理解して、活用していきましょう。

著者プロフィール: 中村 健

TIS株式会社
デジタルトランスフォーメーション営業企画ユニット 副ジェネラルマネージャー

2002年にTIS株式会社へ入社。ITインフラプロジェクトマネージャーを経て、全社の経営戦略を司る経営企画部門の責任者として中期経営計画の策定や複数のM&A/資本業務提携を担当。2017年から現職、TISの最注力領域である決済事業において、新規サービス企画/立上げ責任者としてデジタルウォレットサービス事業等を統括。