東京大学(東大)は7月30日、実現が急速に近づいている量子コンピュータを中心とする量子技術について、日本の産学のさまざまな知見を集結させ、量子コンピューティングのためのエコシステムの構築を世界に先駆けて、日本独自の形で構築することを目的とした「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」を設立したことを発表した。

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    2020年7月30日に開催された「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」記者会見を記念した合成イメージ写真 (提供:東京大学/QII協議会)

東大の五神真 総長は、量子技術、そして量子コンピュータは日本政府が掲げるSociety 5.0の実現には不可欠な技術であり、その社会実装を実現するためには産官学の連携が必要であり、QII協議会で産学からさまざまな知恵を出し合うことで、量子技術の社会への適用を目指すとコメント。すでに2019年12月にIBMとの間でパートナーシップに関する覚書を締結しており、今回のQII協議会発足が、日本の新技術創出ならびに量子技術の役割探索につながっていくことに対する期待を示した。

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    QII協議会設立に関する説明を行う東大 五神総長 (オンライン会見を筆者がスクリーンショットにて撮影)

QII協議会の発足時の参加大学ならびに企業は以下の通り(企業は五十音順)。

  • 東京大学
  • 慶應義塾大学
  • JSR
  • DIC
  • 東芝
  • トヨタ自動車
  • 日本アイ・ビー・エム
  • 日立製作所
  • みずほフィナンシャルグループ
  • 三菱ケミカル
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ

QII協議会が活用するのは主に米国のIBMの商用量子コンピュータ「IBM Q System One」ならびに、2021年に日本に設置される予定の「IBM Q System One」。米国、ドイツに次ぐ3番目の設置国となり、アジアでは初。日本国内で量子コンピュータにアクセスすることが可能となるという。

2018年よりIBMの量子コンピュータを活用する「IBM Qネットワークハブ」として活動を行ってきた慶應義塾大学もQII協議会に参加するが、今回のQII協議会設立に合わせて東大もIBM Qネットワークハブとなるとのことで、慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科の伊藤公平 教授は、「QII協議会は慶応大と東大の団結の象徴であり、日本の量子コンピューティングにおける1つのマイルストーンになる」と説明。この協議会の存在が、今後の日本企業が取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)活動の一環として必然となるとした。

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    量子技術研究の学術的意義の説明を行った慶応大の伊藤 教授

量子コンピュータについては、IBM以外にもD-WAVEなど複数社が提供しているが、IBMを選んだ理由についてQII協議会では「どれが確定的に正しいか、ということは決まっていない状態であり、将来的にはIBMだけにこだわるつもりはない。ただ、こうした技術を活用して基礎技術を社会的なアプリケーションとして落とし込んでいき、その価値を高めていき、日本の産業競争力を世界水準に押し上げていく必要がある。技術を見極めてから、と言っていては間に合わない」としており、実際に産学の両面で活用されているIBMのQ Systemをまずは選んだとしている。

IBM Researchディレクターのダリオ・ギル氏も、「現在、20台のQ Systemが稼働しており、パフォーマンスを毎年倍に引き上げてきた。今、これだけの動くものがあり、それを活用していくことで研究と教育をどんどんしていってもらいたい」と日本での活用に期待を込めたコメントを寄せている。

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    IBMのQII協議会における役割を説明するIBM Researchディレクターのダリオ・ギル氏

なお、QII協議会に企業が参加するには東大もしくは慶応大と共同研究契約を結び必要があるという。

すでに日本の多くの企業が水面下で量子コンピュータの活用に向けたリサーチをこの数年進めてきているが、今回のQII協議会の設立により、そうした水面下の動きが、今後は実際の各企業のサービスやソリューションとして出てくる段階に入ってきたと言えるだろう。