本田技研工業(ホンダ)と内田洋行は7月30日、都内で記者会見を開き、ホンダの軽自動車「N-BOX(エヌボックス)」「N-WGN(エヌワゴン)」のシートに使用している「アレルクリーンプラス」生地を使ったオフィスチェア・ミーティングチェア計5種を内田洋行から発売すると発表した。
今回、発売するのは「Elfie(エルフィ)」「KRENE(クレネ)」「FLPネスティングタイプ」「FM345」「Blume(ブルーメ)」の5種。
アレルクリーンプラスは、ホンダが独自開発した抗ウイルス・抗アレルゲンの機能を持つ生地であり、自動車向け生地ならではの耐摩耗性や燃えにくさ、色褪せのしにくさを兼ね備えた素材。
シート布地上に蓄積・付着したインフルエンザウイルスやアレルゲン物質のたんぱく質を不活性化する加工剤を施した布地だ。同社では抗ウイルス加工に関する保有特許をTBカワシマ、積水マテリアルソリューションズと共同で出願している。
本田技研工業 四輪事業本部ものづくりセンターの林里恵氏は「自動車用シート生地ならではの高い品質・耐久性を保持しており、インフルエンザウイルスやダニ・スギ花粉アレルゲンの不活性化を可能とし、自動車特有の条件下(太陽光、熱、摩耗など)でも不活性化性能が3年相当発揮できる。また、毛玉、摩擦堅牢度など布地の一般物性との両立を実現している」と説明する。
同社では、特許ポートフォリオの維持管理に関して、毎年全世界の保有特許を維持するために各国特許庁に維持費用を払うかを判断する業務がある。その際の判断パラメータは市場状況、強豪との関係、技術のレベルなどとなり、グローバルにおける保有特許数は2019年時点で5万件に達し、業務は年4回で1回あたり10日間を要しており、判断にかかる要員は年間150人、維持費用は年間数十億円規模にのぼる。
そのため、同社ではAIを用いて業務を削減しており、複数の判断パラメータから総合的に判断した上で権利維持の要/不要を確定し、人手の判断結果とAIの判断結果の一致率は約85%となっている。これにより、権利維持が不要なものは人が判断し、必要なものは人が判断しないことで結果として担当者は権利処分にかかわる重要な領域(全体業務量の30%)のみを行っている。
本田技研工業 知的財産・標準化統括部 統括部長の別所弘和氏は「AIの精度は100%を目指す必要がなく、スタートできる。AIと人のハイブリッドとすれば、すぐに実践が可能で工数の削減や業務の選択と集中などの目的は十分に達成できる」と力を込める。
しかし、一方で研究、開発、製品化、事業化の各段階で発明された技術がすべて反映されるわけではないため、知財発のオープンイノベーションの取り組みを行っており、もちろん事業化までされた技術も含まれている。
これは、自動車の過酷な条件をクリアすべく開発された技術は多くあることから、そうした技術を広く世の中で活用してもらうための取り組みだ。インターネットを用いた協業マッチングサービス「AUBA」などを活用しており、知財発のオープンイノベーションの一例として、今回の内田洋行のオフィスチェアが開発された。
同社は2012年から業務に応じて最適な機能と場所を選択する働き方変革のコンセプト「アクティブ・コモンズ」を提唱している。同コンセプトは、組織を越えてコミュニケーションを図ったり、自律的に集中したり、他者との情報共有で業務スピードを向上させるなど、オフィスワーカーが自在に働く場を選び、個の能力を高める考え方となっている。
2016年以降は自席ではなく、オープンスペースで多数の人が集いながら、さまざまなデスクやチェアを共有する環境が増加しており、アクティブ・コモンズ推進に向けてオフィス製品に応用できる抗ウイルス機能や花粉症に効果的な新素材を探していたという。
このような状況下において、クルマのシート素材をオフィス家具に転用するための情報開示を両社で行い、アレルクリーンプラスの機能性をオフィス家具の開発基準に活かすための試作や検査を繰り返し、オフィスチェア・ミーティングチェアラインアップの主力製品での採用・商品化が実現した。
内田洋行 オフィス商品企画部 部長の門元英憲氏は「従来からオフィスワーカーの体調や組織のパフォーマンスに対する障害を少しでも取り除ければと考え、さまざまな機能素材を探していた中で、ホンダさんのアレルクリーンプラスと出会い、製品開発に至った」と話す。
また「異業種ではあるが互いに同じ目線でものづくりをしているため、今後もさまざまな素材を提案してもらえれば積極的に採用を検討していきたいと考えている」と述べていた。
価格は、Elfieが6万9500円~、KRENEが5万7700円~、FLPネスティングタイプが6万3000円、FM345が4万2000円~、Blumeが5万2200円~。