人間は言葉に詰まると、「えーと」や「あのー」といったその場をつなぐ言葉をしばしば発する。こうした場つなぎ言葉を口ずさむ際、大脳皮質連合野と呼ばれる脳部位が活動していることが、米国ウェイン州立大学、ミシガン小児病院、広島大学、和歌山県立医大などの研究者たちにより明らかにされた。

同成果は、米ウェイン州立大学の杉浦綾香 博士研究員、同大 小児科神経科の浅野英司 終身教授、和歌山県立医科大学 脳神経外科の中井康雄 医師、広島大学の神原利宗 助教らによるもの。詳細は7月20日付で英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された

大脳皮質連合野は、高次の情報処理に関与する部位である「前頭連合野」、空間把握や身体意識に関与する部位である「頭頂連合野」、物体認識、聴覚認識、記憶に関わる「側頭連合野」の3つが存在している。今回の研究では、外科手術が行なわれた難治てんかん患者を対象として、場つなぎ言葉を偶然発している際の皮質脳波活動を計測し、統計解析することで、3つの連合野すべてが活性状態であることを確認したという。ただし、頭蓋内電極留置の位置が患者によって異なるため、全患者で共通の場所が活性状態になったとはいえないともしている。

また、場つなぎ言葉を発している短い期間に、3つの連合野は同時的に活動していることが観察されたとのことで、浅野教授は、「この短い期間に脳内では、引き出しの奥にしまわれている言葉を引き出し、整理する処理がなされている。その際に起こる連合野同士のコミュニケーションプロセスが、大脳皮質連合野における神経活動として観察されたのではないか」との見方を示している。

  • 場つなぎ発言

    1秒間に70~110Hzで振幅するガンマ波(高周波脳波)の大きさを示したグラフ。赤い線で示しているとおり、「えーと」や「あのー」といた場つなぎ言葉を発しているときに、ガンマ波が大きくなっていることが分かる (提供:ウェイン州立大学/和歌山県立医科大学/広島大学)

今回の研究では時系列的な反応をミリ秒レベルでの詳細な解析までは行っていないとのことであるが、浅野教授らによる先行研究では、視覚的・聴覚的な言語情報の処理を行う際の脳の活性化は視覚野・聴覚野→側頭連合野、頭頂連合野→前頭連合野→運動野の順番で起こっていることが確認されている。今後の詳細な研究で、本研究成果との関連性の検証が期待される。ちなみに、先行研究における脳の活性化が順次起こっていく様子は四次元脳マッピングにて公開されている

なお、一般的に、場つなぎ言葉は、その回数を減らすことにより対人コミュニケーションで相手に良い印象を与える効果が期待できるとされる。今回の研究では、解析対象となった患者数が少なかったため、場つなぎ発言の多い人と少ない人との違いを明らかにすることはできなかったとしながらも、使う言葉の整理をあらかじめ行なっておく「スピーチの練習」は、場つなぎ言葉を減らすことが期待できると、浅野教授は語っている。