カプセルの中の美少女と共同生活ができるキャラクター召喚装置、犬の気持ちがわかるようになるハーネス、スモモのようなウメから作られた真っ赤な梅酒――。「なにこれ、おもしろい!」と心を動かすプロダクトの次世代型ショールーム「蔦屋家電+」がオープンから1周年を迎えた。

プロダクト販売でマネタイズをしない、という異色店舗の1年はどんなものだったのか。プロデューサーの木崎大佑氏と「蔦屋家電+ 大賞」企画者の佐藤綾香氏に伺った。

コンセプトは“プロダクトのテーマパーク”

二子玉川駅から歩いて4分ほど。カフェや本、グリーンと家電製品が共存する“ライフスタイルを買う家電店”、二子玉川 蔦屋家電の中に「蔦屋家電+」はある。そこに並んでいるのは、いわゆる「商品」ではない。クラウドファンディング製品や一般流通前の最新ガジェットなど、未来そのもののようなプロダクトたちだ。

  • 蔦屋家電+

    蔦屋家電+の店内

「蔦屋家電+は、世界中のユニークなプロダクトに触れられるテーマパークのような場所。一般的な『小売』と違って、メインは物販ではありません。おもしろいプロダクトを作っているメーカーさんから出展料をいただいてマネタイズをするビジネスモデルを採用しています」と、プロデューサーの木崎氏は蔦屋家電+を説明する。

  • 蔦屋家電+

    蔦屋家電+ プロデューサーの木崎大佑氏

まるでギャラリーのような新しいビジネスモデルだが、蔦屋家電+の新しさはそれだけじゃない。プロダクトごとにカメラを設置し、AIによる画像解析で来店者の行動データを蓄積しているのだ。

「蔦屋家電+を立ち上げる前も、いろんな家電メーカーさんと取引してきたのですが、『いい製品を作っても消費者に届かない』という課題を抱えているところが多かったんです。そこで、蔦屋家電+の前身となるスペースでは、新製品発表会や先行販売会を開催する情報発信拠点を設置しました。でも結局、メーカーや我々から一方的に情報を発信して終わってしまうことが多かったですね」(木崎氏)

お客さまの声を聞いて、それを次のモノづくりに活かせるようなサイクルを作りたい。そう考えた木崎氏は、メーカーから一方通行的な情報発信にならないスタイルを考案した。それがいまの蔦屋家電+である。

実際、蔦屋家電+では、来店客とのコミュニケーションを重視した「友人同士が語り合うような」接客を行っており、その成果は、来店者数約50万人、インタビュー(接客)件数1万件という数字にも表れているだろう。

「接客で『もっとココがこうなれば買いたい』『ココがおもしろい』といったお客さまの声を吸い上げて、メーカーさんにリアルタイムで伝えていく。やはりお客さまと多数接触しないとわからないことってあるんですよね。たとえば、イヌパシーという犬の心拍を測定して犬の感情を知るハーネスがあるんですが、もともとはオンラインでしか販売していなかったものをうちで展示してもらったときに、『犬種とハーネスの素材に相性がある』ことがわかりました。それをきっかけにカバーを改良することになったんです」(木崎氏)

  • イヌパシー

    愛犬の気持ちを知ることができるイヌパシー

そうして蓄積された消費者の意見や行動データはかなり貴重だ。プロダクトの展示相談に訪れたメーカー担当者と話しているときに、「じゃあ、どう改良するのがいいですかね」とアドバイスを求められることもあるそう。

「キャラクター召喚装置『Gatebox』では、女性からの『イケメンキャラも作ってほしい』という意見が多かったことをメーカーさんに伝えたら『そのイケメンって既存キャラクターということですか? それとも金髪の王子様キャラとか、イメージ的なものですか? 深堀りをお願いします!』って(笑)」

「蔦屋家電+ 大賞」企画者の佐藤氏も、接客時のコミュニケーションの成果を肌で感じている。

  • 蔦屋家電+

    「蔦屋家電+ 大賞」企画者の佐藤綾香氏

AIで来店客の行動を分析しているとはいえ、コミュニケーションにとてつもない労力を割く蔦屋家電+の運営スタイルは、アナログで愚直な印象すら受ける。それを伝えると「超絶アナログです。ビジネスの軸は全部人間ですよ」と木崎氏は笑う。すべてのプロダクトに添えられている紹介文も、スタッフの想いがこもった情緒的なもの。製品を紹介する「キュレーター」が原稿を書いているという。

「プロダクトのどこに惚れ込んだのか、何に感動したのかといった感情を入れることで、やっとお客さまの求める情報を届けられると思っていて。“商品説明”じゃなくて“ストーリー”を届けることをすごく意識しています。実はTSUTAYAのポップがアイデアの元になってるんですよ。ポップが付いてる作品って、そんな気なかったのに、ついレンタルしちゃいません?(笑) あれって広告じゃなくて、『お店の人からの口コミ』だから信頼できるんだと思います」(木崎氏)

  • 蔦屋家電+

    スウェーデンのブランド「mooni」の展示では、どのデザインが好きか、シールで投票する企画を実施していた。これもかなりアナログである