Samsung Electronicsは6月30日、2.5インチSATA SSDの新製品「870 QVO」をグローバル発表した。870 QVOの1TBモデルと2TBモデル、現行製品の860 QVOの1TBモデルと2TBモデルについて、パフォーマンスを検証してみよう。
870 QVOは、2018年11月に発表された「860 QVO」の後継となる製品であり、860 QVOと同じく、1つのセルに4bitの情報を記録できるV-NAND 4bit MLCを採用している。4bit MLCは、QLCと呼ばれることもあり、QVOのQも、QLCを意味しているものと思われる。発表時点では、日本での発売や価格はアナウンスされていない。
クライアントPC向けSSDとしては現時点で世界最大容量の8TBを実現
QLCのメリットは、より低コストで大容量のSSDを実現できることだが、その反面パフォーマンスや耐久性はTLCに比べると不利となる。860 QVOは1TB・2TB・4TBの3モデルだったが、新製品の870 QVOは8TBモデルが追加され、1TB・2TB・4TB・8TBの4モデル構成となった。SSDはフラッシュメモリ技術の進化に伴い、容量が増えて価格は下がってきたが、870 QVOの8TBという容量は、メインストリームのクライアントPC向けSSDとしては現時点で世界最大容量となる。870 QVOの外観は、860 QVOとほとんど変わらない。
870 QVOは、SATA 3.0に対応した2.5インチフォームファクターのSSDであり、第2世代のV-NAND 4bit MLCを採用している。SamsungのV-NANDとしては第5世代にあたり、積層数は9x層となる。SamsungのSSDは、SSDを構成する主要パーツであるNANDフラッシュメモリ、コントローラ、DRAMのすべてを自社で製造していることも特徴の一つだ。
前モデルの860 QVOでは、コントローラとして「Samsung MJX Controller」を採用していたが、870 QVOは新コントローラの「Samsung MKX Controller」を搭載している。MKX Controllerは、最新の第2世代V-NAND 4bit MLCへの最適化が行われており、8TBの大容量をサポートしている。キャッシュメモリとして使われるLPDDR4 DRAMの容量は、1TBモデルが1GB、2TBモデルが2GB、4TBモデルが4GB、8TBモデルが8GBとなり、SSD容量とキャッシュ容量の比は全モデル一定である。
公称パフォーマンスが旧モデルの「860 QVO」に比べて向上
860 QVOのシーケンシャルリードは最大550MB/秒、シーケンシャルライトは最大520MB/秒だったの対し、870 QVOのシーケンシャルリードは最大560MB/秒、シーケンシャルライトは最大530MB/秒。それぞれ10MB/秒ずつパフォーマンスが向上している。
870 QVOのランダムアクセス性能(以下、単位はIOPS)は、4KBランダムリード(QD1)が最大11,000、4KBランダムライト(QD1)が最大35,000、4KBランダムリード(QD32)が最大98,000、4KBランダムライト(QD32)が最大88,000だ。
なお、860 QVOの4KBランダムリード(QD1)は最大7500、4KBランダムライト(QD1)は最大42,000、4KBランダムリード(QD32)は最大96,000IOPS(1TBモデル)または最大97,000(2TB・4TBモデル)、4KBランダムライトが最大89,000となっている。
ランダムリードは870 QVOのほうが高速だが、ランダムライトは遅くなっているように見える。実は公称スペックのテスト環境が異なっており、860 QVOはWindows 7環境のテスト結果、870 QVOはWindows 10環境のテスト結果だ。
Windows 10のほうがWindows 7よりも書き込み時のレイテンシが大きく、ランダムライト性能が低下するとのことだ。860 QVOをWindows 10環境でテストすると、4KBランダムライト(QD1)は35,000、4KBランダムライト(QD32)は87,000となる。ランダムライトに関しても、870 QVOは860 QVOと同等以上の性能といえる。
耐久性に関わる書き込み可能容量(TBW)は、1TBモデルが360TB、2TBモデルが720TB、4TBモデルが1440TB、8TBモデルが2880TBだ。それぞれ860 QVOと同じである。保証期間は3年間で860 QVOと同じだが、長期間使った場合の性能低下が860 QVOと比べて少なくなり、870 QVOは860 QVO比で最大21%高い性能を実現するという。
「Intelligent TurboWrite」とは
QLCは原理上、書き込みがどうしてもTLCやMLCに比べて遅くなりがちだ。それを改善するため、870 QVOでは860 QVOと同じく、NANDフラッシュメモリの一部を高速書き込み可能とするSLCモードで利用し、キャッシュとして使う。この技術は「Intelligent TurboWrite」といい、SATA 3.0対応SSDとしては限界に近い速度を実現している。
Intelligent TurboWriteは、SLCとして使う領域をアクセス状況に応じてインテリジェントに変えられる。870 QVOの場合、すべてのモデルで6GB分がSLC領域として確保されているが(デフォルト設定)、1TBモデルではインテリジェントな可変領域として最大36GBを割り当てることが可能で、合計で最大42GBとなる。
2TB以上のモデルについては、インテリジェントな可変領域が最大72GBで、合計最大78GBだ。なお、Intelligent TurboWriteはその仕組み上、SSDにある程度の空き容量がないと、十分に性能を発揮できない。1TBモデルの場合は、168GB以上の空き容量が必要だ。870 QVOではIntelligent TurboWrite領域の耐久性も大きく向上しており、シミュレーションによると、860 QVOの3.8倍という19年間の耐久性を実現しているそうだ。
CrystalDiskMark:ランダムアクセス性能が向上
それでは、870 QVOの性能を計測してみる。用意したSSDは、870 QVOの1TBモデルおよび2TBモデル、860 QVOの1TBモデルおよび2TBモデルの4製品。テスト環境は以下に示したとおりだ。
- ■今回のテスト環境
- CPU:Intel Core i5-6500(3.2GHz)
- マザーボード:ASUS H170 PRO GAMING(Intel H170 Express)
- グラフィックカード:玄人志向 GF-GTX1060-3GB/OC/DF(GeForce GTX 1060)
- メモリ:DDR4-2333 16GB(8GB×2)
- システムドライブ:SanDisk SSD PLUS(480GB)
- OS:Windows 10 Pro 64bit
まずは、定番の「CrystalDiskMark 7.0.0」の結果を見てみよう。
シーケンシャルリードおよびシーケンシャルライトの速度は、870 QVOも860 QVOもほぼ同等だった。4K(Q32T16)のランダムリードは870 QVOと860 QVOで大きな差はないが、4K(Q32T16)のランダムライトは、明らかに870 QVOのほうが高速である。
4K(Q1T1)のランダムリードは、870 QVOのほうが同容量の860 QVOに比べて約15%高速だ。ただし、4K(Q1T1)ランダムライトはほとんど差がなかった。